消費者庁がHPで若者に多い消費者問題として「マルチ商法」による被害を上げています。
若者における「マルチ取引」でのトラブルのきっかけとしては、成人直後に友人や同僚等から勧誘されることが多く、具体的な商品・サービスは、これまで「健康食品」や「化粧品」が主流でしたが、ここ数年をみると投資用DVD教材が目立つようになりました。また、2015年以降、SNSをきっかけとしたものや、海外事業者に関するものが多くみられるようになってきています。
例えば、最近みられる相談内容の中には、SNSで知り合った人からのメッセージで「海外のインターネット上のカジノのアフィリエイトで稼げる、新たな会員を紹介すると紹介料も受け取れるので一緒にやろう」と誘われるケースなど、友人だけではなく、実際には会ったことがない人からSNSを通じて勧誘されるものがみられます。(消費者庁HPより)
従来は、親族、友人、知人、ご近所等々、細いつながりでもかたっぱしから声をかけて「もうけ話し」として勧誘していましたが、今はSNSの普及により知らない人からいきなり勧誘されるケースが増えています。
何年、何十年ぶりに以前付き合いのあった友人、知人、元会社の同僚からご飯でもと突然のお誘いの電話。
暫くは昔話しで盛り上がり楽しい時間を過ごしていたら、いつのまにか話しが儲け話しに・・
ひどいときは、仲間が近くに待機していて頃合いを図って合流、2人、3人がかりで説得が始まります。
どのケースでもいきなり商品説明、ビジネスフローなどは話さないでしょうから、最初は相手がどのような意図で接しているか分かりません。分かっていれば会うこともないでしょうが・・
ここでは、マルチ商法について、また、被害にあった場合の対処方法を司法書士が解説します。
マルチ商法とは
マルチ商法(ネットワークビジネス等)は特定商取引法で「連鎖販売取引」と規定されています。
個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせるというかたちで、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務の取引を指します。
誰かを販売員として勧誘すると紹介料が出ます!
勧誘した販売員が商品を販売したら、販売額の〇%があなたの収益(マージン)となります!
等々
特定商取引法では、次の項目に該当する販売形態が連鎖販売取引、いわゆるマルチ商法と規定しています。
- 物品の販売(あっせんも含む)、または役務の提供などの事業であって
- 再販売、受託販売もしくは販売のあっせん(または役務の提供もしくはそのあっせん)をする者を
- 特定利益が得られると誘引し
- 特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む。)をするもの
典型例は、
子会員、孫会員・・・等々複雑な流れを見せられ分かりずらいが、とにかく、商品を買ってくれる人を見つけ商品を売れば大きなマージンがもらえる、そして、その人を更に販売員にすれば、その人が売った額の〇%がマージンとして利益が自動的に入ってくる。だから、どんどん、どんどん、自分の配下の販売員を勧誘して売らせれば大きな利益が何もしなくても入ってくる!
のような形態です。
良い商品を仕入れて仕入れ値に利益を乗せて販売する、このどこにでもある普通の商売の主体は品物です。
しかし、マルチ商法の主体は物ではなく人です。「物を売る」ではなく、いかに「多くの人を巻き込むか」が主体です。
マルチにはまると人間関係が破綻すると言われるゆえんです。
儲け話しがあるんだけど・・・・
それは、あなたの儲け話しであって、私の儲け話しではないでしょ!・・ということが透けて見える方は、マルチに引っ掛かることはないでしょうが、自分のおかれている状況、特に経済的に余裕のない状況にある方にとっては、巧みな勧誘の言葉が心の隙間に入りこんでしまい誘いにのってしまうことも少なくありません。
マルチは「早い者勝ち」、早く会員になればそれだけ儲けが大きくなると思われている方も多く、「今、会員になれば大丈夫」という何の根拠もない言葉を信じて会員になったりします。
確かにとても早い段階で会員になれば、それなりの利益を上げられるかもしれません。
しかし、いずれ、必ず破綻します。利益を上げられない、損失を出す会員が続出します。
あなたが起点になって会員になった多くの方が、大きな損失をだすことになる・・・この事をしっかり認識する必要があります。
マルチ商法は、被害者になるという側面もあれば、加害者になるという側面もあります。
マルチ商法の被害にあったら
被害にあった場合、救済策はあります。
マルチ商法に対しても「クーリングオフ制度」が適用されます。
また、クーリングオフが適用できな場合は、消費者契約法により契約の解除等もできる場合がありますので、諦めずに弁護士、司法書士にご相談下さい。
クーリングオフの適用
連鎖販売取引の際、消費者(無店舗個人)が契約をした場合でも、法律で決められた書面を受け取った日(商品の引渡しの方が後である場合にはその日)から数えて20日間以内であれば、書面により契約の解除(クーリング・オフ)をすることができます。
※無店舗個人とは、商品の販売やあっせんを店舗以外で行う者を指します。店舗を有する者でも、連鎖販売取引に係る商品のあっせん等を店舗以外ですれば無店舗個人に該当します。
クーリングオフの最大の特徴は、「理由なく一方的に解約できる」ことです。
※消費者契約法に基づき解約する場合、法律で解約要件が規定されています。
書面の2段階交付
連鎖販売業を行う者が連鎖販売取引について契約する場合、以下の2種類の書面を別々に消費者に渡さなければならないと定めています。これらの書面に記載しなければいけない事項も法律で規定されており、規定を欠く書面の交付は交付されたことになりません。
1.概要書面:
契約の締結前には、当該連鎖販売業の概要を記載した書面(概要書面) を渡さなくてはいけない。
- 記載事項
- 統括者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
- 連鎖販売業を行う者が統括者でない場合には、当該連鎖販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
- 商品の種類、性能、品質に関する重要な事項(権利、役務の種類およびこれらの内容に関する重要な事項)
- 商品名
- 商品の販売価格、引渡時期および方法そのほかの販売条件に関する重要な事項(権利の販売条件、役務の提供条件に関する重要な事項)
- 特定利益に関する事項等々
- 特定負担の内容
- 契約の解除の条件そのほかの契約に関する重要な事項
- 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
- 法第34条に規定する禁止行為に関する事項
2.契約書:
契約の締結後には、遅滞なく、契約内容について明らかにした書面(契約書面)を渡さなくてはいけない。
- 記載事項
- 商品の種類、性能、品質に関する事項(権利、役務の種類およびこれらの内容に関する事項)
- 商品の再販売、受託販売、販売のあっせん(同種役務の提供、役務の提供のあっせん)についての条件に関する事項
- 特定負担に関する事項
- 連鎖販売契約の解除に関する事項
- 統括者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
- 連鎖販売業を行う者が統括者でない場合には、当該連鎖販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人ならば代表者の氏名
- 契約年月日
- 商標、商号そのほか特定の表示に関する事項
- 特定利益に関する事項
- 特定負担以外の義務についての定めがあるときには、その内容
- 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
- 法第34条に規定する禁止行為に関する事項
そのほか消費者に対する注意事項として、書面をよく読むべきことを赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。また、契約書面におけるクーリング・オフの事項についても赤枠の中に赤字で記載しなければならない様に規定されています。
さらに、書面の字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上であることが必要です。
書面に不備がある場合、書面を受け取っていないものとみなされます。
この場合、不備ある契約書面を受け取ってもクーリングオフ期間である20日はスタートしたことにはなりません。
よって、20日以降でもクーリングオフが可能になります。
また、連鎖販売業者が、事実と違うことを言ったり威迫したりすることにより、誤認・困惑してクーリングオフしなかった、できなかった場合には、20日の期間を経過していてもクーリングオフ可能です。
中途解約・返品ルール
これは、特定商取引でも「連鎖販売取引」と「特定継続的役務提供」にのみ認められている制度です。
連鎖販売契約で入会した消費者(無店舗個人)は、クーリングオフ期間の経過後も、将来に向かって連鎖販売契約を解除できます。
そのようにして退会した消費者は、以下の条件をすべて満たせば、商品販売契約を解除することができます。
- 入会後1年を経過していない。
- 引渡しを受けてから90日を経過してない商品である。
- 商品を再販売していない。
- 商品を使用または消費していない(商品の販売を行ったものがその商品を使用または消費させた場合を除く)
- 自らの責任で商品を滅失または棄損していない。
クーリングオフが使えない場合
以下のような不当な勧誘で契約させされたものは、消費者契約法により取り消すことができます。
- 不実告知(ウソを言われた)
例:実際は危険なほどすりタイヤは減ってはいないのに、すり減って危険と言って不安をあおり、新しいタイヤを販売した。 - 不利益事実の不告知(不利益になることを言われなかった)
例:隣地に眺めや陽当たりを阻害するマンション建設計画を知りながら、説明せずに住宅を販売した。 - 断定的判断の提供(必ずもうかる、値上がりすると言われた)
例:不確実なものを将来、確実に値上がりする、必ず儲かると言って販売した。 - 過量契約(通常の量を著しく超える物の購入を勧誘された)
例:着物を着る機会の少ない高齢者に必要がないことを知りながら、何十着もの着物を契約させた。 - 不退去(帰るよう言っても居座られた)
例:家に来た者に帰るように言っても、契約するまで帰らない等と言って居座り、強引に契約させた。 - 退去妨害(帰りたいのに返してくれなかった)
例:店や事務所で勧誘されたが、契約しないのでもう帰りますと言っても、いろいろ理由をつけて強く引き留め契約させた。
取り消し権の行使は、「追認をすることができる時から1年」、「当該消費者契約の締結の時から5年」の間にしなければいけません。
※霊感などによる知見を用いた告知の場合は、1年⇒3年、5年⇒10年になります。
※「追認をすることができる時」とは、消費者が誤認をしたことに気付いた時、事業者の行為による困惑から脱した時、契約が過量な内容のものであることを認識した時等が該当します。
現在は(2024年7月1日時点)上記の取消事由に加えて新たに以下の事由が追加されています。
- 不安をあおる告知(社会経験の乏しさを利用して就職セミナーなどで消費者の不安をあおった)
例:就職活動中の者に「このままでは就職できない、就職セミナーが必要」と不安をあおり契約させた。 - 好意の感情の不当な利用(社会経験の乏しさを利用してデート商法などで消費者の好意を利用した)
例:異性に好意をもたし「この商品を買ってくれないと関係を続けられない」などと言って契約させた。 - 判断力の低下の不当な利用(高齢による判断力低下を利用して消費者の不安をあおった)
例:加齢等で判断力が低下した者に「投資用マンションを買わなければ今のような生活を送ることは困難」などと不安をあおって契約させた。 - 霊感等による知見を用いた告知(特別な能力によって消費者の不安をあおった)
例:「あなたの病気は悪霊のせい。数珠や壺等を買わないと悪霊を除去できない」と不安をあおり契約させた。 - 契約締結前に債務の内容を実施等(契約前なのに消費者から強引に損失補償を請求した)
例:断ろうとしたら「他県からここまで来た、断るなら交通費を支払え」と請求された。
注文する前に勝手に物干しざおを切断されて代金を請求された。
まとめ
うまい話しには簡単にのらない・・・・・よく聞く言葉です。誰もが聞いたことがある言葉です。
しかし、現実は、うまい話しに簡単にのって被害者になる方が後を絶ちません。
経済的にも精神的にも余裕があれば、まったく相手にしない話しでも、余裕がなければ半信半疑であっても目の前の儲け話しに飛びついてしまうかもしれません。
マルチにのめり込んでしまうと、目先の利益、もうけで頭が一杯になり、自分が必死に勧誘している相手がどんなに迷惑な気持ちでいるか見えなくなります。
もっと怖いのは、迷惑と思われていることに気づきながらも何も感じなくなり、ハイこの人ダメ、ハイ次の人・・・と自身が築き上げた人間関係を次々に破壊していき、周りはマルチをする人だらけ・・になってしまうことです。
こうなってしまうと、益々マルチ的偏狭な考えに染まってしまいます。
マルチ商法には乗らない!
乗ってしまったら出来るだけ早く脱退する!
これが、自分が被害者にならない、加害者にならないための最善の方策です。