クーリングオフ

毎年、悪質業者による消費者被害が発生しています。
悪質訪問販売、路上でのキャッチセールス、知り合い間のネットワークビジネス等々被害は増加傾向にあり、また、最近SNSでの被害も急速に増加しています。

2022年4月1日より、成人年齢が18歳になります。
17歳以下が未成年者となるので、18、19歳は新制度開始後は伝家の宝刀である「未成年者取消権」が使えなくなります。
※「未成年者取消権」とは、未成年であることのみを理由として契約を一方的に取消すことができる権利です。

これにより、18歳の高校3年生や高校を卒業して大学や専門学校、就職で1人暮らしを始めた18、19歳に被害が拡大すると予想されています。

被害に合わないことが大事ですが、被害にあった場合の対処方法を司法書士が分かりやすく解説しますのでご参考にして下さい。

しまった! と思ったらまずクーリングオフを

  • やられた
  • 騙された
  • 無理やり契約させられた
  • 聞いた内容と全然ちがう等々

契約後、商品購入後に上記のような理由で契約を取消したい、商品を返品したいと思われたら、まず、「クーリングオフ」を検討して下さい。

クーリングオフという制度を聞いたことがある方も多いと思いますが、この制度を利用すると何の理由も必要なく一方的に契約を取消すことができます。
一番ラクな取消方法なので、第一選択肢になります。

ただし、利用するにはいろいろ条件があるので少し面倒な面があります。

クーリングオフ対象販売形態

クーリングオフの対象となるには、以下のいずれかの販売形態であることが必要です。

  1. 訪問販売
  2. 電話勧誘販売
  3. 連鎖販売取引(ネットワークビジネス、マルチ商法)
  4. 業務提供誘因販売取引(内職・モニター商法)
  5. 特定継続的役務提供(エステ、美容医療、学習塾、語学教室、パソコン教室、家庭教師、結婚相談所の7種に限定)
  6. 訪問購入(金や宝石の押し買い)

※ネットによる購入は対象外です。

各取引形態の詳細はこちらへ

クーリングオフ期間

8日間・・・・・これがクーリングオフできる期間です。
この期間内に相手側にクーリングオフの意思表示をしなければいけません。
※連鎖販売取引と業務提供誘因販売取引は法定書面を受け取ってから20日間です。

相手に意思表示する

クーリングオフする旨を相手に意思表示する必要があります。
まず、電話で伝えて、書留通便で送付しておくことも重要です。

電話をする場合、相手もプロです。簡単に意思表示させないようにいろいろな話術を用いて回避しようろすることもあります。
不安な場合は、クーリングオフする旨の書留郵便を送付した後に電話で伝えるパターンも良いでしょう。

連鎖販売取引と特定継続的役務提供は中途解約可

これら2種類での取引は1回限りに取引ではなく継続性があるので、クーリングオフによって中途解約が認められています。

受けた商品、サービスに対しての代償には上限が設けられているので、例えば、「途中解約はできません。」、「途中解約の場合でも全額請求します」、「途中解約でも一切返金しません」という業者側の主張は通りません。

詳細はこちへ

クーリングオフした場合の弁償義務

契約後、商品を一部使ってしまった、既に一部のサービスを受けてしまった等々でクーリングオフをしたら業者から「使った分を弁償しろ」「再販売できなから全額弁償しろ」と言われることを心配される方もおられます。

クーリングオフを行った場合、損害賠償金や違約金を支払う必要はありません。
代金を支払っていても、全額返金請求ができます。

例)訪問販売のクーリングオフに関する法律(特商法9条3~8項):

  • 申込みの撤回等があつた場合においては、販売業者又は役務提供事業者は、その申込みの撤回等に伴う損害賠償又は違約金の支払を請求することができない。
  • 申込みの撤回等があつた場合において、その売買契約に係る商品の引渡し又は権利の移転が既にされているときは、その引取り又は返還に要する費用は、販売業者の負担とする。
  • 販売業者又は役務提供事業者は、商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合には、既に当該売買契約に基づき引き渡された商品が使用され若しくは当該権利が行使され又は当該役務提供契約に基づき役務が提供されたときにおいても、申込者等に対し、当該商品の使用により得られた利益若しくは当該権利の行使により得られた利益に相当する金銭又は当該役務提供契約に係る役務の対価その他の金銭の支払を請求することができない
  • 役務提供事業者は、役務提供契約につき申込みの撤回等があつた場合において、当該役務提供契約に関連して金銭を受領しているときは、申込者等に対し、速やかに、これを返還しなければならない。
  • 役務提供契約又は特定権利の売買契約の申込者等は、その役務提供契約又は売買契約につき申込みの撤回等を行つた場合において、当該役務提供契約又は当該特定権利に係る役務の提供に伴い申込者等の土地又は建物その他の工作物の現状が変更されたときは、当該役務提供事業者又は当該特定権利の販売業者に対し、その原状回復に必要な措置を無償で講ずることを請求することができる。
  • 前各項の規定に反する特約で申込者等に不利なものは、無効とする。

ただし、以下はクーリングオフ対象外になるのでご注意下さい。

  • 3,000円未満の取引で商品を受け取り、同時に代金を全額支払った。
  • 通信販売で購入した場合
  • 化粧品や合成洗剤などの消耗品を一部使った。(但し、消費者がそのことを書面で知らされていない場合は除く)
  • 乗用車の購入。
一部支払いが必要なケースタイトルが入ります。

連鎖販売取引と特定継続的役務提供で中途解約する場合、受領し商品価格相当額や契約残額の10%相当等の支払い義務があるので注意が必要です。
詳細はこちら

上記以外でクーリングオフが認められるれるケース

上記のクーリングオフは特定商取引法で規定されていますが、この法律以外でもクーリングオフを認めているものがあります。

  1. 宅建業法:訪問販売での取引に対しては、8日以内のクーリングオフが認められています。
  2. 割賦販売法:業者が自身の商品を販売する場合で、2ヶ月以上かつ3回払い以上の割賦販売であればクーリングオフが認められます。
  3. 保険業法:生命保険等の保険販売についても認められる場合があります。

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クーリングオフが使えない場合

クーリングオフ期間が過ぎてしまっている場合や特定商取引法で規定されている業種に該当しない場合等でクーリングオフが使えないときは、消費者契約法による契約の取消し又は契約条項の無効を検討します。

消費者契約法による取消し

以下に該当する場合は契約を取消すことができます。

  1. 不実告知:重要事項についてウソを言われた。
  2. 不利益事実の不告知:重要事実について不利益になることを故意に、又は重大な過失により伝えなかった。
  3. 断定的判断の提供:不確実な事について必ず値上がりしてもうかる等と告げる。
  4. 過量契約:通常の量を著しく超える物を買わされた。
  5. 不退去:お願いしても帰ってくれなかった。
  6. 退去妨害:契約するまで返してくれなかった。
  7. 不安を煽る告知:不安を持っていることを知りながら不安をあおり契約を迫った。
  8. 好意の感情の不当な利用:相手に好意を抱かせて、その感情を利用して契約する。
  9. 判断力の低下の不当な利用:高齢で判断が低下していることにつけこんで契約をする。
  10. 霊感等の知見を用いた告知:霊やご先祖様等々について言及し不安をあおり契約をする。
  11. 契約締結前に債務の内容を実施等:契約前なのに強引に代金を請求する。

取消しの事例

上記の取消し事由に関して具体的な事例を揚げます。(東京都港区HP抜粋)

  1. 不実告知事例:
    訪問販売で「持病の手先のしびれ、リウマチに効く、病院へ行く回数も減りタクシー代が助かる」といわれて、年金暮らしで買えないと何度も断ったが、錠剤の健康食品を5箱購入。飲んでも効果がなく、医者には「持病には効かない」といわれた。
    ➡太文字がウソの告知。
  2. 不利益事実の不告知:
    「介護やガンの保障が付く」と外交員に勧められ生命保険を転換。転換後の保険は60歳以降は高額な保険料を負担しないと、介護やガンの保障が転換前の保険と同様でないものだった。転換を勧められたときに、60歳以降の条件などを比較した説明は一切なし。
    ➡太文字が不利益事実の不告知。
  3. 断定的判断の提供事例:
    雑誌広告を見て資料請求。テープ起こしの内容と1本5千円の報酬と記載。その後、事業者から電話があり「簡単な研修で月3万円~6万円の収入になる」「研修費として17万円が必要」といわれ契約。ところが認定試験は難しく、簡単な研修では合格しないことがわかった。
    ➡太文字が断定的判断の提供。
  4. 不安を煽る告知:
    就職セミナー運営会社の就職活動セミナーを受講後、「ここで入塾しなければ就職活動もうまくいかない。後悔する」などと繰り返し告げられて勧誘されたため契約した。
    ➡太文字が不安を煽る告知。

消費者契約法による契約条項の無効

消費者契約法では、契約自体は取消し事由に該当しないが、契約書に記載されている各項目に関して個別に無効を主張できるケースを規定しています。

以下の項目は契約書に記載されていても無効とすることができます。

  1. 事業者は責任を負わない。
  2. 消費者(契約者)はどんな理由があってもキャンセル・返品できない。
  3. 成年後見制度を利用すると契約は解除される。
  4. 平均的な損害額を超えるキャンセル料の規定
  5. 消費者の利益を一方的に害する条項

無効の事例

  1. 事業者は責任を負わない:
    ジムの入会契約書に「会員の施設利用に際し生じた障害、盗難等の人的、物的ないかなる事故について一切責任を負わない」とする項目
    ※「当社が過失を認めた場合に限り損害賠償責任を負う」とする規定も無効になります。事業者自身で過失の有無を判断することはできません。
    同様に「当社が過失を認める場合を除きキャンセルできない」とする規定も無効です。
  2. 成年後見制度を利用すると契約は解除される:
    賃貸借契約書の「賃借人が後見開始の審判を受けた時は賃貸借契約を解除できる」との条項は無効です。
  3. 一方的に消費者の利益を害する条項:
    マンションの賃貸契約で、「退去時には敷金全額をもって修繕、補修費に充当する」という特約。
  4. 平均的な損害額を超えるキャンセル料の規定:
    中古自動車販売店で売買契約、その2日後にキャンセル。自動車注文書に記載された「特約条項として、消費者の都合で契約を撤回した場合には、車両価格の15パーセントの損害賠償金と作業実費を請求されても異議はない」との条項。

消費者契約法による取消しでの弁償義務

クーリングオフでは弁償義務はありませんが、消費者契約法により契約を取消した場合は弁償義務が生じます。

消費者契約法6条の2に以下のように規定されています。
「民法第百二十一条の二第一項の規定にかかわらず、消費者契約に基づく債務の履行として給付を受けた消費者は、消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。」
※「給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったとき」とは、給付を受けた当時に取消し原因があることを知らなかったことを意味します。
不実の告知等取消し事由があることを知って契約した場合は、除外されることになります。

ちょっと難しい条文ですが、

ここでのキーポイントは「現に利益を受けている限度」です。

民法上、取り消したら初めから何もなかったことになるので、法律行為(契約)に基づき何らかの商品やサービスを受けた者は、原状回復義務を負うこととなります。つまり、受けたものを返還しなければいけません。

しかし、消費者契約法に基づく取消しの場合、返還範囲が「現に利益を受けている限度」に限定されます。

以下の具体例で、「現に利益を受けている限度」についてご説明します。

返還の事例

サプリメント5箱を1箱1万円(合計5万円)で購入、代金支払済。
2箱(2万円分)を使った後、勧誘時に当該サプリメントに含まれる成分(アレルギー成分)について説明を受けていなかったので不実告知を理由に契約を取り消した。
この場合の返還範囲は?

民法に基づき両者(消費者と業者)は取消しにより原状回復義務(何もなかった状態に戻す)を負うとすると、業者は代金の5万円を、消費者は商品5箱を返還しなければいけません。
しかし、消費者は既に2箱使用して手元にないので、商品の替わりに相当額の2万円を返還することになります。
結果、消費者は手元にある3箱返還、業者は貰った代金5万円から2箱分の2万円を差し引いて3万円を返すことになります。

うん?  となりませんか?

結局、使った2箱分の料金を業者に払ったことになります。
使ったのだから仕方ない??
通常であればそうですが、「不実の告知」を忘れないで下さい。
業者の不実の告知がなければ、そもそも購入しなかったのでは?

もし、これを認めてしまうと、業者にとっては「不実の告知したもの勝ち」になります。
不実の告知をしなければ1箱も売れなかったものが、不実の告知をしたおかげで2箱分の代金を取得できた・・となってしまいます。

そこで、消費者契約法第6条の2で、「現に受けている利益の限度」と規定しました。
「現に受けている利益」とは、今現在の利益のことです。
今回の事例で言えば、2箱は既に使っていてありません。これは過去に受けた利益ではありますが、「現」に受けている利益ではありません。
この場合、「現」に受けている利益は、手元にある3箱となります。
つまり、手元にある3箱だけを返還すれば返還義務を果たしたことになり、払った代金5万円全額返してもらうことができます。

消費者契約法規定の取消し要件に該当しない場合の取消しでの弁償範囲

消費者契約法4条各項に規定されている取消し要件に該当しないものでも取消しは可能です。
※借地借家法のように、別の法律で契約解除、取消しが厳しく制限されているものもあるのでご注意下さい。

そして、取消した場合は、損害賠償の問題が生じます。
一旦、契約した以上、取消しで相手に損害が発生すればその賠償義務が発生します。
では、どのくらい賠償しなければいけないのか?
相手側に言い値になるのか?

この件に関して、消費者契約法第9条で以下のように規定されています(要約)。

  1. 契約の解除に伴う損害賠償額を予定し、又は違約金を定める条項で、これらを合算した額が解除の事由、時期等の区分に応じ、同じような契約の解除で生じる当該事業者の平均的な損害の額を超える部分は無効
  2. 契約に基づき消費者が支払期日までに支払わない場合における損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、支払期日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該支払期日に支払うべき額から当該支払期日に支払うべき額のうち既に支払われた額を控除した額に年十四・六パーセントの割合を乗じて計算した額を超える部分は無効

事業者が契約の解除の際又は契約に基づく金銭の支払義務を消費者が遅延した際の損害賠償額や違約金を予め契約書に記載していても、その額が一定の限度を超えるときは超える部分は無効とされます。

問題となる典型例

予約に対する高額なキャンセル料や学校、予備校、セミナー等で契約書に「受領した金額はいかなる理由があっても一切返金しない」と記載があることを理由に、長期の授業料・講習料を受領し後、すぐにやめても一切返金してくれない等のトラブルがあります。

この場合、「平均的な損害」とはいくらかが問題になりますが、業態、事業者ごとに環境が異なるので一概にいくらと言えないところが難しいです。

ただし、結婚式場との契約書に、式の日の1年以上前のキャンセル料を契約金額の80%と規定していた場合、明らかに平均的な損害を超えていると判断でき、平均的な損害について交渉する余地が十分あります。

また、予備校の授業料に関して、授業が開始されて間もなく辞めた生徒に対して「一切返金しない」との契約書条項をもとに返金を拒んでいた事例で、裁判所は「入学辞退が4月1日以降であっても、他の学生を入学させるチャンスを失うといった損害は発生しないとし、授業料を全額返さないことは平均的な損害を超えている」と判断しました。
※上記は判例は予備校のケースであり、大学等の授業料の返金は認められない傾向にあります。このように極端な請求は否定できますが、平均的な損害については賠償義務があることは変わりません。

まとめ

クーリングオフは、便利で簡単で何の負担もなく契約を取消すこができる制度です。
クーリングオフはご自身でやることも可能ですので、8日、20日の期限内に行うようにご注意下さい。

やり方が分からないときやクーリングオフできるかどうか分からないとき、又はクーリングオフの対象ではないが消費者トラブルに巻き込まれたときは、「国民生活センター」「消費生活センター」にご相談されることをおススメします。

電話番号は188
※相談料はかかりません。

消費者トラブルに関しての情報が各センター間で共有されており、同じ業者による被害に関しても素早い対応が期待できます。
また、日ごろからセンター相談員の方々は、弁護士や司法書士と定期的に講習や勉強会等を行っており法律的な知識も豊富です。
※私も相談員の方々と実際にあったトラブルをベースに法律的解決方法についての意見交換をさせていただいていますが、知識の豊富さに驚かされます。現場の強さ、困っている方をサポートしたいという意欲をひしひしと感じる頼もしい方々です。相談者に代わって相手業者と電話で話しをしてくれたりもするので、センターにお願いして問題が解決することも少なくありません。
相手と厳しい交渉が必要だったり、訴訟になるような場合は、弁護士や司法書士(争い額が140万円以下に限定)へのご相談もご検討下さい。

被害にあっても、泣き寝入りせずに行動しましょう!

ご相談は事前にご予約下さい。土、日、祝日や仕事終わりの夜(20時まで)のご相談も対応可能です。