取得時効

この土地は私の土地です。すぐに立ち退いて下さい。引き渡して下さい。
と突然言われたら・・

実際のこのようなトラブルは起きています。
昔から土地の境界争いはよくある話しです。
多くの方は、普段の生活で自分の土地の境界なんて意識することはないでしょう。
ましてや、塀や道などの境界っぽいものがあれば、そこまでが自分の土地だと思うでしょう。

しかし、実際に塀で区切られている境界と公図(法務局にある境界を示す公の地図)での境界が違っていて、それに気づいた所有者から土地を返してくれと求められることがあります。
自分の土地が知らない間に使われているので、返還を求めるのも当然でしょう。

求められた側はどう対処したら良いか?
求める側はどう返還請求するのか?

これには、「取得時効」が大きく関係します。

今回は取得時効について、司法書士が分かりやすく解説します。

取得時効とは

時効という言葉を聞かれたことがあると思いますが、時効とはある一定の時間の経過により権利が発生又は消滅することを言います。

一番身近なのは、犯罪ドラマに出てくる時効(公訴時効)、、ですよね。
犯罪の種類によって、一定期間が経過すれば犯人を逮捕できなくなります(公訴して裁判にかけることができなくなります)。

また、借金の時効、、も良く聞きます。
債権法が改正されて借金は一律5年で時効により消滅することになりました。
※改正前からの借金は、改正前の時効が適用されるので注意。

土地に関しても時効があります。
土地の場合、一定時間の経過で土地を取得する権利を得る、そしてその権利を主張(援用)することで所有者は所有権を失うということになります。

ちょっと難しくなりますが、他人の土地を許可なく勝手に使用している人を「占有者」と言います。
不法占有、、ですね。
占有者の立場で何年も他人の土地を使い続けても占有者の立場は変わりませんが、一定期間を経過して時効が完成すると、占有者は所有者に対して「時効が完成したのでこの土地は私のものです」と主張することで(この主張を援用と言います)、占有者から新たな所有者になることができます。

奪われる側としては、「なぜ、法律はそんなことを認めるのか!」なるでしょう。

この時効の完成には、最短のケースでも10年(最長20年)の期間を要します。
10年もの間、勝手に使わせたままの状態で支障なかったんでしょう?
支障があったのなら、明け渡すように裁判等何らかの行動をとってますよね?
そうせずに長期間ほっといたのだから、もう、このまま使わせていいんじゃないですか?となってしまいます。

「権利の上に眠る者を法は保護しない」と言われます。
所有権という権利があって、それが占有により侵害されているのなら、そのままにせず(眠らずに)きちんと侵害されていると主張しましょう。
あなたが正しければ、法はきちんと占有者を追い出します、それをしないのなら法はあなたを助けません、、という感じです。

それに、時の経過と共に記憶や証拠も曖昧になるので、10年も経過した後に問題になっている土地の所有権争いについて、どちらが正しいのか判断するのも難しくなります。

奪われる側に立てば、時効が完成する前にしっかり法的に対象しましょう、奪う方に立てば、時効が完成したら時効の完成を主張(援用)して所有権を取得しましょう、となります。

時効の完成期間

土地の所有権についての時効期間は、10年と20年の2つのケースに分かれます。
この違いは、占有者が土地を使用(占有)し始めたときの意識によって分かれます。

時効10年のケース(短期取得時効)

民法162条(所有権の取得時効)の2項に
「10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。」と規定されています。

他人の土地でも10年占有し続けたら自分の物になる、ということですが、それには以下の条件があります。

  1. 所有の意思による占有であり、平穏かつ公然であること。
  2. 占有の開始が過失なく善意であること。

占有は所有目的であることが必要です。
よって、賃貸借や地上権等により土地を占有している人は、10年経過しても時効を主張することはできません。

平穏かつ公然とは、無理やり、暴力的に、かつ、人知れず、こっそり占有していない状態を言います。

過失なく善意の「善意」とは、紛らわしいのですが私たちが日常で使っている善意とは意味が異なります。
ここで言う「善意」とは知らないということです。何を知らないかというと、この場合は土地が他人の所有であることを知らないということです。
自分の土地であると信じ、そう信じていることに過失がない(そう信じても仕方ない)という状況を指します。

以上のような状況で他人の土地を10年占有した後、所有者に対して取得時効を主張(援用)することで、占有していた土地が正式に自分のものになります。
そして、当該土地の所有権を自分名義に変更登記することで、完全に自分のもにすることができます。※登記簿には、占有を開始した日から所有権者であると記録されることになります。

時効20年のケース(長期取得時効)

民法162条1項に、
20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。」と規定されています。

時効完成20年については、10年の時にあった「過失なく善意」という条件がなくなります。
つまり、他人の土地と知って占有を始めても、それが所有の意思をもって平穏、かつ公然に20年間占有し続けると、合法的に自分のものにできることになります。

例えば、実家には母が1人暮らし、子供は東京で働いている。
母が亡くなり家は解体して更地の状態にした。
20年ぶりにどんな状況になっているか実家のあった土地に行くと見知らぬ人が家を建てて住んでいた。
家を壊して土地から出ていくように言ったところ、家を建てて住み始めて20年経っておりこの土地は時効完成により自分のものであると主張された。
相手の主張が正しければ、土地を奪い返すことはできません。

時効完成の主張

通常、占有者が取得時効が完成していると所有者に主張した場合、裁判になります。
このときに問題になるのが民法186条です。
以下のように規定されています。

  1. 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
  2. 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。

時効が完成する条件として、「所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有」とありますが、186条1項の規定により占有さえしていれば「所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有」していたことが自動的に推定されることになります。
つまり、占有者は自身が善意であり、占有が平穏、公然であったことを証明する必要がありません。

また、時効期間完成を主張するにはその期間ずっと占有していたことが必要ですが、2項の規定により、占有開始時点と時効完成時点の2点において占有していたことを証明すれば、その期間、例えば20年間ずっと占有していたと推定されます。

このように法律は、取得時効を主張する側に有利になっています。
長期間占有している事実を重視しているのだろうと思います。

では、主張される側はどう対処するか?

時効主張に対する反証

時効完成を阻止する側としては、相手の主張を覆さなければいけません。

ここで、また、少し法律的になってしまいますが、、、
前述の時効を主張する側に有利な民法186条ですが、各条文の最後の言葉に着目下さい。
「推定する」となっています。
法律で何かを規定する時、
・・・・・・とみなす。
・・・・・・と推定する。
の2種類の言葉が使い分けられています。

「みなす」と規定された場合、○○という事実があると法律的に△△というように扱います、反証は認めません、という事になります。
強力な規定です。

対して、「推定する」と規定されている場合は異なります。
あくまでも推定なので、反証してその推定を覆すことが可能です。

民法186条は推定規定なので、条文に規定されいていることに反する事実を立証できれば取得時効を阻止することができます。
10年時効を主張する者に対しては、占有開始時は自分の土地ではないと知っていたでしょ!や、○○から〇〇までの期間占有していなかってでしょう、、というように証拠をあげて反論していくことになります。

まとめ

土地を時効により取得する場合、話し合いでまとまることは少ないです。
主張する側は、これだけ長期に使っていて何も抗議してこなかったのだからもう自分の物にしてもいいでしょう、と思うところもあるでしょう。
取られる方は、知らない間に勝手に使われていたのにただで奪われるなんて納得いかない、となりがちでしょう。

取得時効は、長年問題なく使い続けているという現状を重視し、今後の紛争防止のためにその現状を法律的に確定するもとして認められた権利です。
取得時効を主張することに何ら問題ありません。

名義をそのままにしておくと、将来のトラブルのタネになってしまうので、相手が認めているのであれば、お願いして当該土地の所有権移転登記(一部の土地であれば分筆登記)の申請に協力してもらいましょう。
※現実的には、相手にハンコ代等としていくらかの協力金を支払ったりします。
取得時効を認めない、所有権移転登記に協力してくれないとなれば、裁判で決着することになります。※裁判になった場合、時効取得による所有権移転登記手続きをする旨の判決を得れば、単独で移転登記申請することができます。
この場合、係争地の測量図が必要になります。