黄金株

株式会社の基本は普通株式です。
平均株価が景気の指標として使われていますが、市場で売り買いされている株式は「普通株式」です。
名の通り、当該株式を取得して株主となり、株主として普通の権利を取得します。
他の種類の株式と比べて特に有利、不利な部分がありません。

これとは別に「優先株式」や「種類株式」というものもあります。
剰余金の配当が優先されている株式であったり、ある種の権利や制限が付いている株式であったりします。

今回、取り上げる「黄金株」は会社法上で種類株式として規定されている中の「拒否権付種類株式」と言われる株式になります。

「拒否権」と言えば、たまに、国連安保理事会で○○国が拒否権を発動したため議案は可決されませんでした、とのニュースを聞かれたことがあると思いますが、拒否権を持っている国が1国でも反対すれば、他国が全部が賛成していても可決されなくなる非常に強い権利です。

会社法上、拒否権付種類株式も同様にとても強い株式ですので、使い方によってプラスになりますが、逆に大きくマイナスに働くおそれもあります。

今回、この黄金株について司法書士が分かりやすく解説します。

黄金株とは

会社法では、「株主総会又は取締役会において決議すべき事項のうち、当該決議のほか、当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とする」株式を発行できると規定しています。

この株式に該当する種類の株式の一つが、いわゆる「黄金株」です。
正式には拒否権付種類株式といいます。

通常、株式会社の最高意思決定機関は株主総会です。
議案によって、過半数可決、3分の2以上の可決等々の規定が会社法で定められていて、当該規則に従って可決された議案に基づいて会社が運営されていきます。
つまり、「株主の意思」による決定が基本になっています。

しかし、黄金株が発行されている会社は、株主総会に加えて黄金株主だけの株主総会(種類株主総会)の決議が必要になります。
株主総会決議で可決されていても、または、取締役会で可決されても、拒否権付種類株主総会で否決されれば、会社として議案は否決されたことになります。

例えば、黄金株を持つ株主が1人である場合、実質的にこの株主の意思だけで議案の可否を決定できることになります。
※このように黄金株の株主にはとても強い力を持つことになるので、上場の大企業等は株主平等の観点から特別なケースを除いて発行されていません。

黄金株を発行するには

黄金株(拒否権付種類株式)を発行する方法としては、以下の方法が考えられます。

  1. 既存の株式を黄金株に変更する。
  2. 新株として黄金株として発行する。

黄金株を発行するには定款にその旨を規定しなければいけません。
つまり、定款を変更する必要があります。
定款を変更するには株主総会の特別決議(出席株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。

既存株を黄金株に変更する場合は、既存株主と変更についての合意が必要ですし、黄金株発行により損害を受ける種類株式があれば、その種類株式の株主総会決議が必要になったりします。

また、新株として発行する場合は、募集株式の発行手続き(発行のための株主総会決議等)が必要になります。

全ての手続きを完了により黄金株が発行され、その旨を登記することになります。

黄金株発行で注意すべき3つのポイント!

黄金株についていは経営権保持、防衛等のプラスの面が語られていますが、マイナスの面も考慮して黄金株を運用しなければ大きな落とし穴にはまってしまいます。
黄金株は諸刃の剣と言えます。

1.内部対立

中小企業のオーナー会社で事業承継の際に、この黄金株が利用されます。
典型的な例としては、息子に経営を任せたいが任せたら自身が経営から完全に排除され何の意見もいうことができなくなるのではと不安に思うオーナーが、息子に会社を譲る際に黄金株を発行して自身が所有したりします。

こうすることで、普段は息子に全面的に経営を任せ、重要事項については自身の意向が反映できるようになります。

この効果は経営権を譲る前経営者にとっては心強いものになりますが、譲られる新経営者にとっては重要な部分で手足を縛られることになりかねません。
ありがちなのが、前経営者は自身の成功体験をベースにものを考え、新経営者は時代の流れに乗った新たな視点でものを考え、この2つの意見が対立することで会社内部がそれぞれの意見で対立し、内部分裂に発展するような深刻な状態になるおそれがあります。

黄金株は議案を否定することができますが、通常の株主総会にて議案を可決させる効力はありません。
対立が深まると、現経営者からの起案、前経営者による否決が繰り返されることになってしまいます。

こうなってしまうと抜け出せないドロ沼にはまった状態になります。
現経営者にとって思い通りの経営ができなくなり、黄金株の効力を消そうとしてもそのための総会決議も黄金株で否定されることになります。
また、前経営者は否定することしかできなく、経営方針を打ち出すことはできません。
前経営者が経営権を取り戻そうとすると大企業であれば株式の争奪戦になるのでしょうが、中小零細企業ではオーナーが大部分の株式を保有していて、それを子供に譲渡しているのでそもそも争奪すべき浮動株がありません。

膠着状態が続くことになり、機動的な会社経営ができなくなってしまいます。

2.最強の武器が敵対者へ

会社を敵対的に買収しようとする者が現れた場合、黄金株が防衛手段として威力を発揮します。
中小企業が業績を上げ規模が大きくなっていく過程で、資金調達手段として新株を発行するようになります。
これにより、オーナーの持ち株比率は下がり、50%を切るケースも珍しくありません。

オーナー側の持ち株比率が低下した段階で買収を意図した会社が一気に過半数を超える、又は過半数に迫る数を買い占め、他の株主を巻き込んで現経営陣と対立することがあります。
この状態で敵対側が自己に有利な議案を提出し株主総会で可決されてしまうと、現経営者にとっては致命的になりかねません。

このとき、現経営者が黄金株を保有していると株主総会で可決された議案を単独で否決することができます。
まさに、最強の防御手段です。

しかし、反面、この黄金株が敵対相手、不都合な相手に渡ってしまうと大変なことになります。
徹底的に黄金株を行使して経営のかく乱を狙ってくるでしょう。
そうならないようにするために、黄金株を発行する際にはしっかりした対策が必要です。
この場合の対策は、黄金株に譲渡制限を付することになります。
これは、黄金株の譲渡を禁止するのではなく、譲渡する場合は会社の承認が必要とする制限を付けるもので、会社にとって不都合な者へ譲渡されようとしたときに譲渡を拒否することができます。

発行する際、譲渡制限を付することを忘れ、発行後に付そうとすると総会決議等の面倒な手続きが必要になるので忘れずに付けておくことが大切です。

3.相続対策

黄金株については、いずれ相続が生じ黄金株の処置が問題になります。
何も対策していなければ、遺言書があればその通りに、無ければ相続人全員で協議して処分方法を決めることになります。

経営者と同一人が相続で取得すれば問題ありませんが、相続でもめて経営者と異なる人が取得したり、敵対している人の手に渡ると大変な問題になります。

このような事態を防ぐために事前に対策をしておく必要があります。
この場合は、通常、黄金株に取得条項を付けておきます。
取得条項とは予め決められたことが生じたら会社が強制的に当該株を取得できるとする規定です。
黄金株の所有者が死亡したら、黄金株は会社が取得すると決めておけば相続による散逸を防ぐことができます。

※同じような問題として認知症対策も必要です。
黄金株所有者が認知症になった場合に備えて、後見開始の審判が確定した場合は会社が取得する旨の規定を設けておくことも大事です。

まとめ

以上のように黄金株にはメリットとデメリットがあり、デメリットの部分が強くでてしまうと会社の運営自体が危ぶまれる状況になることもあります。

設定、発行する場合は、専門家に相談しながら慎重に設計し登記することが重要です。

黄金株はオーナー企業が経営権を自身や家族で保持しながら運営していく場合に有効と言えます。
対して、スタートアップ企業のように新株や新株予約権を使って資金を集めて会社を大きくしていずれ上場したい、会社の価値をあげてゆくゆくは売却したい等々を考えているのであれば、黄金株の発行は慎重に、というより控えた方が良いでしょう。
黄金株は強力なので、個人投資家や機関投資家はこのように黄金株所有者の影響を大きく受ける会社に投資することを避ける傾向にあります。