相続登記

人が亡くなり相続が発生すると、相続手続きは相続人によって行われます。
遺言書があって遺言書に遺言執行者が指定されていれば、その者が相続手続きを行います。
遺言執行者は故人の意思により指定されているので、指定されていれば相続人以外でも手続きを行うことができます。

このように、相続人や故人に指定された遺言執行者が行うことには何ら違和感がありませんが、以外の第三者が相続人に何ら承諾を得ずに、事前に知らせることもなく、勝手に相続人名義にするための相続登記を行うことが法律で認められています。
もちろん、誰もが好き勝手にできわけではありませんが、今回は第三者による相続登記について説明します。

他人による登記

登記申請は、自分の意思で自分の名で申請します。
相続登記に関しては、新たに登記名義人にとなる相続人や受遺者が申請に係ります。
我々司法書士が相続登記申請のご依頼を受けることも多いですが、司法書士はあくまでも申請者の代理人であり、申請の当事者はご本人です。

登記申請は当事者よることが原則であり、これを当事者申請主義と言います。

しかし、申請は当事者だけしかできないとしてしまうと、当事者が申請を怠ったり、故意に放置することでいろいろと支障がでることも予想されます。
そこで、ある一定の条件の下、当事者以外の第三者が当事者に代わって登記申請することが認められています。
これを「代位申請」、「代位登記」と言います。

債権者代位

民法第423条には

  1. 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
  2. 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、被代位権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。
  3. 債権者は、その債権が強制執行により実現することのできないものであるときは、被代位権利を行使することができない。

と規定されています。
このように債権者は一定の要件の下、債務者に代わって(代位して)債務者が持っている権利を行使することが認められています。
これを債権者代位と言います。

債権者代位の典型的な例としては、無資力状態の債務者には第三者に貸したお金があるのに返金請求をしないようなときに、債権者が債務者に代わって返金請求するようなケースです。
返金してもらったお金は、自分の債権の返済として取得することができます。

そして、債務者の登記申請行為も債権者代位権の対象とされています。

相続登記の代位申請

民法第423条の7に「 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産を譲り受けた者は、その譲渡人が第三者に対して有する登記手続又は登録手続をすべきことを請求する権利を行使しないときは、その権利を行使することができる。この場合においては、前3条の規定を準用する。」と規定されています。
以前から判例では債務者の登記請求権を債権者が代位行使することが認められていましたが、民法が改正されそのことが明文化されました。

登記が必要なものとして不動産があります。
債権者としては債務者が約束通り返済してくれれば何の問題もありませんが、中には返済してくれない・返済できない債務者もいます。
この場合、債権者は債務者の財産から返済してもらおうと考えます。
回収方法として銀行口座や給料を差押えることがありますが、債務者名義の不動産があればそれを差押えて競売して回収することも方法の一つです。
対象不動産に価値があれば買い手もあるでしょうから、より確実に債権を回収することができます。

では、債務者名義の不動産はないが、すでに亡くなっている債務者の親名義の不動産があるとどうなるか。
亡母名義の甲土地があり相続人は債務者である子Aのみ。
甲土地は実質、唯一の相続人であるAのものですが、Aが相続登記をしなければ名義は亡母なので債権者は差押えることはできません。

そこで、法律は債権者が債務者に代わって相続登記(権利行使)することができるとしています。
債権者は代位申請で甲不動産をA名義に変更することで差押えることが可能になります。
このとき、代位申請による相続登記と同時に差押えの登記をすることになります。※相続登記だけをすることはできません。

代位申請の対抗力

対抗力とは、端的に言えば相反する権利に対して勝つか負けるかの効力です。
不動産の場合の対抗力は「登記」になります。
登記をすることで相反する権利に対して自己の権利を主張することができます、つまり、相手の権利を否定することがきます。

例えば、債務者Aには亡父名義の甲土地がある場合、Aが相続登記をしないと債権者は甲土地に手出しできません。
また、Aが自己名義に相続登記をしてすぐに第三者Bに売却しB名義に登記されたら、債権者は基本的に甲土地に手出しすることはできません(差押えを逃れるためにBと共謀しているような場合は除く)。
この場合、売買代金を差押えることは可能ですが、特定の銀行口座にじっとおいておかないでしょうし、現金化されていたりして簡単ではありません。
このようなケースを回避するために、債権者が積極的に債務者名義に相続登記すると同時に差押えをしたりします。

相続人が複数人である場合の注意点

相続人が複数いて、その中に返済を滞納している債務者がいる場合は注意が必要です。
以下の例をご覧下さい。

亡父名義の甲土地あり、相続人は3人の子(A、B、C)。
甲土地は長男Aに相続させるとする亡父の遺言書があるが、甲土地の相続登記はまだしていない。
CはXに借金があり返済を滞納している。

この状況で債権者XがCに代位して甲土地に相続登記(法定相続割合に従って持分各3分の1とする)をして、Cの持分3分の1に差押えの登記をしたら、差押えは登記により対抗力を得ることになります。
この後、Aが「この土地は父の遺言書で私が全部を相続している」と主張してもダメです。
Aが遺言書の基づいて甲土地全部を自分の名義に相続登記するか、Cの債権者Xが差押えの登記をするか、早い者勝ちとなります。
これが登記の対抗力です。

まとめ

第三者によって相続登記が行われるには、明確な目的のもとで行われます。
好き勝手にできるものではありません。

第三者による相続登記がされる場合、同時に差押え、仮処分のような強力な権利が登記されます。
このような登記が一旦されてしまうと、その後の対応は非常に難しくなります。
登記を消すには、返済する等元になっている問題を解決することが必要になります。

相続登記は私たち相続人だけの問題、だから、いつ相続登記するかはゆっくり考えてからやろう、、、、、、と思っていると、思いもよらない事態になるこもあります。
相続登記は、放置せずにすぐやる、できるときにすぐやる、が重要です。