賃貸アパート

築年数が多いアパートや一軒屋を借家として賃貸している大家さんで、対応に苦慮されている方も多いと思います。
建物が古くなると借り手も見つかりにくくなり空室も増えますし、修繕費の負担も大きくなっていきます。
この場合、対応策としては以下のようなことがあげられます。

  1. 新築アパート・マンションを建て直す。
  2. 解体して駐車場等として使用する。
  3. 現状のまま売却する。
  4. 解体して更地で売却する。

3の方法であれば買い手の交渉だけで済みます。
ただし、買い手の購入後の目的で売却額も変わってきます。
買い手が賃貸物件として引き続きアパート、貸家として所持することを目的に購入するのであれば、売却額は現行の賃料に大きく影響されるでしょう。
買い手は利回り(賃料総額/投資額)をベースに購入検討するので、賃料が低いと売却額も低くなってしまいます。
それ以前に、古くなって今後多額の修繕維持費がかかるであろう物件を賃貸目的で買う人自体あまりいないでしょう。
買い手が解体目的(自分で新たにマンションを建てる等)で購入するのであれば、解体費用や立退き費用が絡んでくるので、それら費用をいくらに想定するかで価格交渉も簡単ではなくなります。

3以外の方法を選択した場合、賃借人に立ち退いてもらう必要があります。
立退き交渉を大家さんが賃借人とすることになります。

「賃借人の権利は強い」と聞かれたことがある方もおられるでしょう。
確かに賃借人の立場、権利は強いです。
単に建物を壊すから出て行って、と言っても賃借人は従う必要はありません。

では、出て行ってもらうことはできないのか? と言うと、そうではありません。
今回は、大家さんが賃借人に立退きをお願いするときに押さえておかなければいけないポイントを解説します。

賃貸借契約

大家さんは賃貸借契約により賃借人に建物・部屋を賃貸しています。
この場合、通常、賃貸期間・存続期間を定めて契約します。
※期間がない契約及び期間が1年未満の契約は、存続期間の定めのない契約となります。
また、最初の期間経過後も期間を設定した更新をせずにそのまま賃貸借を継続したよう場合(法定更新)も、以後は期間の定めのない賃貸借契約となります。

大家さんが契約を更新を望まない場合、期間満了の1年前から6か月前までに更新しない旨を賃借人に通知しなけれければいけないと法律で規定されています。
また、きかんの定めにない契約においては、通知をして6ヶ月経過後に契約は終了するとされています。

では、この通知をすれば問題なく契約を解除できるかというと、そうではありません。
解除するには、通知の他に「正当な事由」が必要です。
そして、「建物も古くなったので建て替えるから出て行って」だけでは、特別な状況(*1)でない限り正当な事由になりません。

*1:賃貸人が平屋の倉庫を賃貸。老朽化に伴い近代的建物に建替えるため賃借人に立退き要求。賃貸人の経済的利益、賃借人の経済的損失を比較して、賃貸人の利益を重視し賃貸人から立退料の提供がなくても立退きに正当な事由ありと認めた判例があります。
これは、賃借人が居住目的ではなく事業目的で、さらに用途が倉庫であったことが判断に影響しているので、老朽化による建替えに対して常にこのような判断がされるわけではありません。

立退きの正当な事由

建物の賃貸人による更新しない・解約の通知以外に考慮されるべき事由として借地借家法は24条で以下のように規定しています。

  1. 建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用が必要とする事情。
  2. 賃貸借に関する従前の経過
  3. 建物の利用状況、現況
  4. 明渡しの条件又は明渡しと引き換えにする財産上の給付

立退きが問題になり裁判で争われるとき、裁判所は上記の項目を考慮して判断することになります。
よって、大家(賃貸人)さんが賃借人に立退きを求める場合、上記の4っのポイントを意識して行う必要があります。

ポイント1.建物使用の必要性

賃貸人と賃借人双方の建物使用を必要とする事情を比較して正当な事由の有無が検討されます。
従来は、賃貸人の使用の必要性のみが検討されていましたが、最高裁の判例で賃貸人の事情だけでなく賃借人の事情も考慮されなければならないとされました。

必要性については、使用目的が居住か事業かで異なってきます。
目的が居住と事業で対抗すた場合、居住の必要性の方が重く評価されます。
高齢で1人暮らしの賃貸人が建物を解体して家族と同居するための家を建てるなどのように、居住が目的の場合は正当な事由として認められ易くなります。
※借家人も居住目的で借りており移転が容易ではないようであれば、比較考量されることになります。大家側としては、認めてもらうために相当の立退料の提示することも必要になります。

比較して賃借人の使用の必要性が賃貸人と比べてかなり高いと、立退料を提示しても認められないケースがあります。
事例として、賃貸人には差し迫った必要性が認められず、賃借人は家業を営んでおり退去によって収入を失う生活できなくなることは明瞭とし、賃借人の被る不利益は金銭によって補償されないとした判例があります。

しかし、最近は土地を有効に利用した方が経済も活性化するとの判断も加わり、相応の立退料を提供することで営業上の必要性(古い低層建物を崩して高層建物を建てる等)が正当な事由として認められる傾向にあります。

ポイント2.賃貸借に関する従前の経過

内容は多岐に渡ります。
賃貸借契約設定時の事情、設定時からの変化、設定からの期間、賃料推移、当事者間の信頼関係等々があります。

契約設定時や更新時に一時使用の建物賃貸借契約公正証書が作成されていたら、更新拒絶による立退き要求の正当な事由と認めてもらう可能性が大きくなるでしょう。
また、建替えが計画されていることを承知の上で賃借しているような場合も同様に正当な事由となる確率が上がります。

賃借人による無断改築・増築、近隣妨害行為等は、信頼関係破壊による正当な事由として認めら易くなるでしょう。
信頼関係の破綻に関しては賃料滞納が指摘されますが、1,2か月程度の滞納では他にも何らかの原因がないと信頼関係破壊とは認められにくいです。
3ヶ月以上の滞納が必要と言われますが、3ヶ月以上の滞納で信頼関係破壊と決まっているわけではありません。

ポイント3.建物の利用状況・現況

賃借人が賃貸借契約に従ってて適切に建物を使用しているかが問題になります。
建築基準法や消防法等に従て使用しているか等で判断されます。

現況とは、現在の建物の現状であり、老朽化の有無、社会的・経済的効用の有無が関係します。
建物として耐用年数に達していて、腐朽、破損が甚だしく早晩朽廃するのが明らかであるような場合、朽廃すれば賃借人の賃借権もなくなるので正当な事由として認められ易くなります。
ただし、契約解約により賃借人の生活や仕事に影響がでる場合は相応の立退料が必要になるでしょう。

取り壊して新たに賃貸物件を建てる計画の場合、新築建物の再利用契約をしていると認められ易くなります。

ポイント4.明渡しの条件又は明渡しと引き換えにする財産上の給付

前記3っの事由について説明しましたが、実際は前記3っの事由のみで正当な事由として契約解除、更新終了が認められるケースはそう多くはありません。
4っ目の事由である、明渡条件、明渡しと引き換えにする財産上の給付(=立退料)の有無が正当な事由として認めてもらう重要なポイントになります。
もちろん立退料を提供すれば良いとうものではなく、裁判所も「金員の提供は、それのみで正当事由の根拠となるものではなく、諸般の事情と総合考慮され、補完し合って正当事由の判断の基礎となるものである」と判示しています。

明渡しの条件としては、通知から立退きまでの期間の賃料を無償にするや、新たに建てるマンションに優先的に入居させる等が考えられます。

立退料は、これという基準はありません。
賃借人が住居目的か事業目的かで大きくことなるでしょうし、地域によって相場のようなものがある場合もあります。
住居目的であれば家賃をベースに決めることが多いです。
3ヶ月分だったり、6ヶ月分だったり、プラス引っ越し代や新居の礼金等の費用を付けたりと様々です。
場合によっては上記をはるかに超える退去費用が支払われるケースもあります。
裁判になった場合も、明確な基準はなく個々の背景、事情等が考慮された上で決定されることになります。

まとめ

立退き交渉をする際、はじめが重要です。
立退きのお願い、交渉ですので、誠意をもって対応することが大切です。

最初の段階で、ある程度の金額の提示も必要かと思います。
賃貸人の立場から高圧的な交渉をしてしまうと、相手も感情的になりまとまるものもまとまらなくなり、交渉が長引き裁判になってしまえば、多額の金銭と時間を費やす結果になってしまいます。
特に、賃借人が賃借建物で大きく事業をしていれば立退料や営業補償等の問題が生じ金額も大きくなることが予想されるので、自身で対処するより弁護士に交渉を委任することもご検討下さい。

認定司法書士は訴額が140万円以下の簡裁事件であれば、大家さんの代理人として相手と立退交渉(建物明渡請求訴訟を前提として交渉)ができます。
この場合の140万円は、アパート・マンションの1部屋が基準となります。
建物の固定資産評価額x(専有部分の床面積/建物の総床面積)x1/2で算出した金額が140万円以下であれば司法書士で対応できます。
※多くのケースで140万円以下になります。

交渉は精神的にも負担が大きいですが、ご自身でやられる場合は慎重に丁寧に、こじれそうになったら早急に専門家にご相談、ご依頼されることをおススメします。

ご相談は事前にご予約下さい。土、日、祝日や仕事終わりの夜(20時まで)のご相談も対応可能です。