相続人が複数人いて、特定の者に相続財産全部を、又は大部分を渡したいと思われている方もおられます。
- 代々の農地を全部、農業を継いでくれた長男に相続させたい。
- 他の子供たちには既に多くの金銭的援助をしているので、援助をしていない子に多くを渡したい。
- 一緒に住んでいて生活面でいろいろ世話になっている子供に全部を渡したい。
- 折り合いが悪いく、全く連絡を取り合っていない子には財産を渡したくない。
- 結婚をしていない独り身の子の将来が不安なので、多くをこの子に渡したい。
- 障がいがある子の将来の生活費として全部を渡したい。
等々、いろいろな事情で自身の財産をどのように相続人に分配する悩まれている方も多いです。
自分が築き上げた財産をどのように分配するかはその方の意思による、、が基本ですが、何も考えずに思い通りにしてしますと(思いのまま遺言書を書く)残された家族間で争いが生じてしまうこともあります。
特定の者に全財産(大部分)を相続させる方法
特定の相続人に全財産(大部分)を相続させる方法としては以下が考えられます。
- その旨の遺言書作成。
- 相続人全員で特定の相続人が相続するように遺産分割協議する。
- 特定の相続人以外の相続人が相続放棄する。
- 特定の相続人以外の相続人が遺留分放棄をする。
- 相続人廃除する。
2,3は被相続人が亡くなった後に相続人自身が行う手続きなので、不確定要素が大きいです。
生前、親が子供たちにそのように言い聞かせていたとしても、実際にそのように協議されるかは分かりません。
親が事前に相続放棄書面を書かせていても、死亡前に作成された書面は無効になります。
4は被相続人の生存中でも可能ですが家庭裁判所の許可が必要で、許可の要件として遺留分に相当する財産が贈与されている等が必要で簡単ではありません。
5は家庭裁判所の審判を必要とします。
認められるには、虐待・重大な侮辱、著しい非行等の要件が必要です。
そこで、現実的な方法としては、遺言書の作成が最善と言えるでしょう。
遺留分問題
遺言書に特定の者に全財産を相続させると書いても法的に問題はありませんが、遺留分対策が必要です。
遺留分とは相続人に認められている最低の相続割合です。
遺留分は、法定相続分の半分(相続人が親のみであれば、遺産の3分の1)になります。
相続人が妻と子2人の場合、妻の法定相続分は1/2なので、その半分である1/4が妻の遺留分になります。
2人の子の法定相続分は各1/4なので、子供の遺留分は各1/8になります。
遺留分は必ず相続させなければいけないものではありません。
各自に認められた「請求権」なので、請求されなければ何も渡す必要はありません。
相続人が3人の子で、遺言書には長男に全財産を相続させると書かれていても、他の子供が遺留分を請求しなければ問題なく遺言書の通り相続が行われます。
しかし、他の相続人が遺留分を請求すると、全部を相続した者は拒否することはできません。
遺留分に相当する金銭を用意しなければいけなくなります。
※民法改正により、遺留分は金銭で支払うように規定されています。
相続財産中に遺留分に相当する金銭財産があれば問題ないでしょうが、なければ多くを相続した者が自分で金銭を用意することになります。
用意できなければ、不動産等の相続財産を売って工面することになります。
このような状況を回避するために、事前に遺留分請求された場合の対策が必要になります。
対策1・遺言書で遺留分相当を分配する
特定相続人に全財産を相続させるのではなく、遺言書に各相続人に対して遺留分相当額を相続させる旨の遺言書を作成しておけば遺留分問題は回避できます。
ただし、この対策ができる前提として、現金・預貯金のように分割できる財産があることが必要です。
相続財産が預貯金の3,000万円だけであれば、遺留分相当額の金額を他の相続人に渡すようにして残りは全部特定相続人に相続させることで問題は生じません。
しかし、主な財産が不動産だけであれば簡単ではなくなります。
相続財産が2,700万円の不動産と300万円の預貯金で相続人が3人の子で長男が2,000万円の不動産を相続させようとする場合を考えます。
この場合、長男以外の相続人の遺留分は各500万円の計1,000万円です。
遺言書で遺留分を渡そうとしても預貯金は300万円しかありません。
足りない分は不動産の持分を与えるとする方法もありますが、後日、不動産の使用、処分方法でもめたり、次世代が相続すると更に共有者の数が増えることになり不動産を共有で相続することはおススメできません。
長男が2人から遺留分を請求されたら、預貯金の300万円の他に自分で700万円を用意しなければいけなくなります。
遺言書で遺留分を渡すようにする方法は、相続財産から個別的に遺留分として各相続人に渡せる状況にあるか、特定の相続人が自身の財産から遺留分を支払える状況にあるかになるでしょう。
対策2・遺留分相当額を渡しておく
事前に生前贈与として遺留分相当額を渡すことも可能です。
不動産を生前贈与する場合、遺留分としての評価額は相続発生時の評価額となります。
よって、贈与時より評価額が下落してしまうと遺留分相当額を下回ることもあるので注意が必要です。
不動産を遺留分対策として生前贈与する場合は、評価額推移を考慮して贈与することが重要です。
この生前贈与は「特別受益」として相続財産に組み入れられますので、あとあと証拠となるように金額や内容を記載した書面を残しておくことが大切です。
対策3・生命保険の活用
遺留分相当額を金銭で用意できない場合の備えとして、生命保険の活用が考えられます。
遺留分を請求されるであろう相続人を生命保険金の受取人に指定します。
こうしておくと、被相続人の死亡により生命保険金が特定相続人に支給され、これを遺留分として渡すことができます。
※保険金は遺産分割の対象になりません。
受取人が全額受領できます。
ただし、遺産総額と比較して保険金が大きいと相続財産に組み込まれて遺産分割の対象となった判例もあるので注意が必要です。
遺留分額の計算は大変
遺留分対策したのに、その額が実際の遺留分額より少くないと足りない額について相続人間で争いになってしまうおそれがあります。
遺留分額の計算は以下のようにします。
「相続開始時点での相続財産額+被相続人が生前に贈与した額」ー「被相続人の債務」を差し引いた額が計算基準額となります。
この額に対して遺留分を算出します。
被相続人が生前に贈与した額は、相続人への贈与は死亡時から10年前まで、第三者への贈与は死亡時から1年前までになされたものが対象になります。
ただし、贈与する側、される側双方が他の相続人の遺留分を侵害することを知ってされた贈与であれば、期間制限が付きません。
遺留分請求の時効
民法で「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。」と規定されています。
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