親子関係も様々です。
関係がこじれて、親から「勘当する」と言い渡された、子どもが連絡を一切絶って絶縁状態になっている。
このような関係になった後に、親が亡くなり相続が生じたらどうなるかが問題になります。
親としては、自分が死んだ後、絶縁・勘当状態にある子が相続にどのように関与するか気になるところですが、相続に関して絶縁・勘当は全く影響しません。
親子関係である以上、絶縁・勘当状態にある子も他の子と同等の相続権が発生します。
勘当や絶縁は親子間の個人的な問題であり、法律的には何の影響もありません。
子供が絶縁状態にある親の戸籍から抜けて、新たに自分の戸籍を作る、、ということは可能です。
この場合、戸籍は別になりますが、法律上の親子関係は変わりありません。
親子関係を法律的に終了させることはできません(養親子関係は除外)。
絶縁・勘当状態にある子の相続割合
先に述べたように、絶縁・勘当状態にあっても法律的に親子なので親が亡くなれば子は相続人となり、相続する権利が生じます。
子が相続できる割合は、遺言書がある場合と無い場合で異なります。
遺言書がある
遺言書がある場合、絶縁・勘当状態にある子の相続権は遺留分(※1)が基準になります。
遺留分とは、相続人である以上、故人とどのような関係であっても相続人として主張できる相続割合です(相続欠格、相続人廃除、相続放棄は除外)。
例えば、相続人が母と子(A、B)の2人の場合、子の遺留分は各8分の1になります。
Bとは絶縁状態であっても、Bは遺留分として故人の遺産の8分の1まで相続人として相続権を主張することができます。
故人がBには何も相続させない、又は8分の1に足りない分しか相続させないような遺言書を残していても、Bは8分の1に相当する額まで相続分の取得を主張でき、他の相続人は拒否することはできません。
※1:詳細はこちらを参照下さい。
遺言書がない
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い分割方法をきめることになりますが、そのときの基準が法定相続割合(※2)になります。
上記の例の母、子2人が相続人の場合、子の法定相続割合は各4分の1になります。
絶縁、勘当状態にある子Bは、遺言書がなければ遺産分割協議で遺産の4分の1まで相続人として相続権を主張することができます。
遺言書がある場合と比べると相続分は2倍になります。
この点から、絶縁・勘当した子がいて遺産をできる限り渡したくない時は、遺言書は必須と言えます。
ただし、法定相続割合は基準であってこの通りに分配しなければいけないというものではありません。
各相続人と故人との関係を考慮して調整を行うことが認められています。
「特別受益」と「寄与分」(※3)と呼ばれる制度が民法雄で規定されており、これを踏まえて法定相続割合と異なる割合で分配することができます。
この2つは全く逆の効果をもたらします。
「特別受益」は、特定の相続人が生前に故人から「特別受益」に該当するような財産をもらっていたら、その分その人の相続分から差し引くというものです。
「寄与分」は、特定の相続人が故人の財産維持・増加に寄与し、又は療養看護しているような場合、その分をその人の相続分に加算するものです。
このことから、特別受益は絶縁・勘当状態の子に有利、「寄与分」は他の相続人に有利となります。
例えば、絶縁・勘当状態にあった子が相続の場面で、他の相続人対して「私は〇才から故人と離れて一切何の援助も受けていないが、あなたは家を建てる時に500万円の援助を受けている、それは特別受益に該当するので、その分をあなたの相続分から差し引く」と主張されるかもしれません(※4)。
「特別受益」「寄与分」問題を回避するには、遺言書を残しておくことが最善です。
※2、3:詳細はこちらを参照下さい。
※4:ただし、主張するには証拠等が必要なので認められる(家庭裁判所)のは簡単ではありません。
絶縁・勘当状態にある子が所在不明の場合の相続手続き
絶縁・勘当状態にある親子関係では、連絡も取り合わないでしょうから、子がどこに住んでいるのか、生きているのかさえ分からない場合も多いです。
そのような状態が続いていると、いない事が当たり前になり相続が発生してもいないものとして手続きをしても問題ないと思われる方もおられます。
しかし、所在・生死不明でも死亡届が提出されていない限り生きているものとして相続人となり相続権を取得するので、その権利を無視して相続手続きをすることはできません。
このような場合の相続手続きも、遺言書の有無で異なります。
遺言書がある
遺言書に不明者に一切の遺産を相続させないような内容を記載していれば、不明者を無視して相続手続きを進めることができます。
不明者には遺留分の権利がありますが、この権利はあくまでも請求権なので請求することで権利が生じます。
請求がなければ遺留分を渡す必要はありません。
例えば、遺言書に「甲土地をAに相続させる」と書いておけば、相続登記は不明者の関与なしにAだけでできます。
このように不動産相続登記は遺言書があれば問題ないのですが、故人の預貯金口座解約時に問題が生じることがあります。
金融機関によっては遺言書があっても内部規則と言って相続人全員の実印を要求することがあります。
この場合、不明者対応(後述参照)をしなければいけなくなります(※5)。
※5:事前に遺言書がある場合の口座解約手続きを調べて、全員の印鑑を要求する金融機関から要求しない金融機関に預貯金を移動しておくのも対策の一つです。
遺言書がない
遺言書がなければ所在・生死不明であっても相続権のある相続人になるので無視して手続きを進めることはできません。
この場合にとる手続きとして2つありますが、いずれも家庭裁判所に申立てが必要で簡単ではありません。
不在者財産管理人の申立
不明者に代わって遺産分割協議に参加していくれる者として、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任申立をします。
不明者が相続するものは不明者の財産になるので、言葉の通りその財産を不明者に代わって管理してくれる人として不在者財産管理人を選任してもらいます(利害関係人(相続人等)は不在者財産管理人にはなれません)。
不在者財産管理人の選任について注意すべき事は、まず、それなりの費用が必要になります。
裁判所申立費用は数千円程度なのですが、別途「予納金」が必要です。
これは、不在者財産管理人への報酬や管理費用に充当する金銭です。
相続財産の内容で異なりますが、大体20万円から100万円程度と結構な負担になります。
また、不在者財産管理人は不明者に代わって遺産分割協議に参加し、不在者の不利益にならないように協議することが求められます(協議内容に裁判所の許可が必要です)。
どこにいるのかさえ分からないのだからと不明者の相続分をゼロとすることは難しく法定相続割合が基準になるでしょう。
※不在者が取得した相続財産は不在者財産管理人が不在者に渡すまで維持管理することになりますが、いつ現れるか分からず管理費用もかさむことから財産内容・額によっては他の相続人が保管して不明者が現れたときに渡す方法が用いられることがあります(帰来時弁済)。
失踪宣告の申立
絶縁状態にあり所在・生死不明になって7年を経過している場合、家庭裁判所に失踪宣告の申立をします。
失踪宣告とは、不明者を「法律上」亡くなった者として扱う手続きです。
申立が認められれば、7年を経過した日に不明者は「法律上」死亡したものとなります。
死亡扱いになるので、不明者に相続が生じることになります。
例えば、父が亡くなり相続人が母と子2人(A、B)。
Bが所在不明で失踪宣告が成立した場合、亡父の相続人は母とAのみになり2人だけで遺産分割協議をすることできます(※6)。
ただし、Bに家族がいて家族を置いてBのみが所在不明になっている場合、失踪宣告によりBの家族がBの相続人として亡父の遺産分割協議に参加することになります。
※6:亡父が亡くなった日とBの失踪宣告が成立した日の前後で多少手続きが異なります。失踪宣告成立日が先であれば、Bは亡父の相続人にはならないので母とAで亡父の遺産分割協議を行います。
亡父の亡くなった日が先であれば、遺産分割協議は母、A、Bで行うことになりますが、Bは失踪宣告で亡くなったことになるので、母が亡父の相続人兼Bの相続人として遺産分割協議をすることになります(これは形式的な問題であり、協議自体は母とAで行う事に変わりません)。
以上のように、絶縁、勘当状態の家族に極力遺産を渡したくない場合、相続割合や手続き面からも「遺言書」があるかないかが大きく影響します。
ご自身の想いを反映させるには、また、残された家族の手続の負担軽減のためにも、「遺言書」を書いておくことが重要です。
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