黄金株

会社と会社の取締役(及び代表取締役)との何らかの取引で、互いの利益が相反するような場合を利益相反取引と言います。

典型的な例としては、取締役が所有する土地を会社に売却するような取引です。
取締役は売主としてできる限り高く、会社はできるだけ安く取引しようとするでしょう。
高く売れれば取締役の利益は増え、逆に会社の利益は減る、という利益相反関係になります。
安く売れば利益関係は逆になります。

取引の当事者は「取締役」と法人である「会社」になります。
会社は独立した一つの法人格ですが、会社という漠然としたものが何かを決定するのではなく、経営者である取締役が決定することになります。

会社の取引相手が会社の取締役であるような場合、実質的には取引の両当事者が取締役になることになります。
この場合、個人としての取締役に有利な取引が行われ、会社に損失を及ぼすおそれがあります。

代表取締役であれば、代表取締役個人が所有する実勢価格500万円の土地を代表取締役として会社が800万円で購入することを決定することも可能でしょう。
この場合、会社は300万円の損失を被ったことになります。

そこで、会社法は特定の取締役の独断による利益相反取引で会社が損失を被ることがないように規制を設けています。

利益相反取引の制限

会社法356条(競業及び利益相反取引の制限)に「取締役は、次に掲げる場合には、株主総会において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。」と規定しています。
次に揚げるものとして、

  1. 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。
  2. 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。
  3. 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。

の3つの行為が規定されています。
2は取締役と会社との直接取引、3は第三者が関与する間接取引として利益相反関係になります(1は競業行為の制限)。

利益相反になる取引の具体例としては、

  • 取締役と会社間の売買契約
  • 会社から取締役への財産の贈与
  • 会社による取締役の借金の保証
  • 取締役から会社への金銭の貸付
  • 会社による取締役個人の債務の引受等々

取締役と会社との取引であっても、一方的に会社側に利益をある場合は利益相反に該当しません。
例えば、取締役から会社への贈与や取締役が会社への債務免除するような場合、利益相反行為にはなりません。

取引当事者と利益相反関係

取引の当事者としては取締役個人と取締役になっている会社との取引が典型ですが、会社間取引でも利益相反に該当する場合があります。
取引の当事者である両方の会社に取締役として同一人物がいる場合に問題になります。

甲社と乙社の取引で、Aが両社の取締役をしている場合を考えます。

  • 両社の代表がAであれば、両社共に利益相反取引に該当します。
  • 甲社の代表がA、乙社の代表がBであれば、乙社のみが利益相反に該当します。
  • 両社の代表が共にA以外であれば、両社共に利益相反に該当しません。

利益相反に該当する場合の対応

利益相反取引に該当する場合、会社法356条に規定されているように、取引内容を株主総会に開示して、総会で賛成の決議(承認)を得なければいけません。
この場合の決議要件は、普通決議(過半数の賛成)になります。

取締役会を設置している会社は株主総会普通決議にかえて取締役会決議(過半数の賛成)でよいとされています。
※取引の当事者・利害関係人となっている取締役は取締役会決議に参加できません。

不動産関連の利益相反と重要事項

不動産に関連する取引で利益相反となるケースがあります。

  • 取締役と会社間での土地の売買
  • 取締役が第三者から金銭を借入る際に会社保有の不動産に抵当権を設定等々

よくあるケースとしては、税金対策や会社経営上の判断として代表取締役が自身が所有する土地を会社に売却する取引です。
この場合、売却額の安い、高いに関係なく会社がする取引は利益相反に該当します。
利益相反は外形的に判断されるので、取締役が実勢価格より安く売却して実質的に会社は利益を得たとしても会社の取引は利益相反になります。

不動産の売買や担保として抵当権を設定する場合、登記をすることになります。
そして、この申請の際に会社法356条に基づいて承認を受けたことを証する書面の提出が必要になります。

証する書面として提出するものは、株主総会議事録(または取締役会議事録)になります。
これを添付しないと、登記することができません。

承認のない利益相反行為

取引において当事者間で利益相反に該当するか、該当する場合に承認がなされているかを互いに確認するようなことはあまりありません。
よって、承認のない利益相反取引は会社法356条に違反するものであり、その有効性が問題になります。

過去、裁判でも争われています。
取締役と会社との取引(直接取引)で会社側に承認決議がなかった場合、会社側はそれを理由に取引の無効を主張できるとされています。
また、会社間取引で取引の相手方が承認決議をしていないことを知っていた(又は、知らないことに過失があった)とき、そのことを立証できた場合は取引相手に対して無効を主張できるとされています。

ただし、承認のない取引は会社法違反だから全てを無効としてしまうと、取引後に新たに権利を有した第三者が損害が被るおそれもあります。
取引に第三者が関与している場合は、取引が無効になることで第三者が不利益を被らないように、無効を主張するには以下の立証が必要とされています。

  • 承認を得ていないということを第三者は知っていた。
  • 第三者が知らなかったことに重大な過失(落ち度)があった。

必要な承認決議を行わなかったことを取締役として任務懈怠であるとして、個人の責任(損害賠償責任)を問われこともあります。
この場合、代表者だけでなく承認決議に参加した他の取締役も、過失がないことを証明できなければ損害賠償責任をとわれることになります。

まとめ

このように利益相反取引は、一部の経営者の独断により会社に大きな損失をもたらすおそれがあるので、会社法で厳しく規定されています。
利益相反行為に該当するかの法律的判断は、特に、取締役が当事者間で重なる会社間取引においては簡単ではありません。

利益相反に関係しそうな不動産取引を行う場合は、当事務所へお気軽にご相談下さい(初回相談無料)。
承認決議の要否の判断、議事録の作成、登記申請等々をしっかりサポートさせていただきます。

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