相続問題

もめないための相続対策

相続は争族と言われるように、仲の良かった家族でも遺産分けでもめてしまうことがあります。
もめる原因は相続財産の存在であり、それをどのように分配するかでもめることになります。

そこで相続対策の一つとして遺言書を残しておくことがあげられます。
遺産の分配方法を本人があらかじめ決めておくことで、分配をめぐる相続人間の争いを防止できます。
遺言書に書かれた分配内容に不満があったとしても、相続人としてはそれに従うしかありません。

ただ、遺言書があっても、書いた当時本人は認知症にかかっていた、無理やり書かされたものだ、本人が書いたものではない、偽造されている等々としてトラブルが発生しないわけでもありません。
実際に、そのような内容で裁判にもなったケースもあります。

そこで、もう一つの対策として、本人(被相続人となる方)が生前中に先に財産を渡しておく方法があります。
本人の意思で本人の財産を渡す(贈与)ので、他の者が口をはさむことはできません。

もちろん、家族の一部の者が不平を言うかもしれませんが、本人が対応すればよいことですし、更に言えば、他の者に知られずに渡すことも可能です。
本人が亡くなったときは、既に特定の相続人個人の財産になっているので手の出しようがありません。

ただし、何の対策もなく漫然と特定相続人に渡すと、相続時に特別受益として相続財産に組み入れるよう要求されることもあり、また、相続税より税率が高い贈与税が課せられてしまうので注意が必要です。

家の先渡し

相続財産の中身のほとんどが不動産の場合、相続人間で分けるのが大変になります。

例えば、相続人は妻と子2人で、相続財産が故人名義の200万円の預金と現在夫婦で住んでいる故人名義の1000万円の家・土地である場合で、仮に、子が法定相続割合通りの遺産分割を強く主張したらそれぞれの相続分は妻が600万円、2人の子は各300万円となります。

この場合の選択肢は2つ。
1.預金から2人の子に各100万円払い、残りの200万円(計400万円)を妻が自分の財布から(又は借入て)支払い、家は妻が相続する。
2.家を処分して換金して相続割合に従って分割する。

1の方法であれば妻は住む家を確保できますが、2の方法では家を失ってしまいます。

実際に高齢の妻が家を失ってしまうケースが起こっていたので、国はこの対策として新たな制度を設けました。

配偶者が相続争いで家を失う事がないように、居住している家(またはその敷地)配偶者に生前贈与(又は遺贈)した場合、2000万円まで贈与税がかからないようになりました。
※暦年贈与として110万円の非課税枠も使えるので、合計2110万円が非課税(※1)となります。

相続が生じた時点では、家は既に妻の名義になっており(遺贈であれば夫の死亡と同時に妻の所有になる)故人の相続財産ではなく遺産分割の対象とならないので、家の所有をめぐる相続争いを防止することができます。
先の例で言うと、故人の相続財産は預金の200万円だけになるので、妻は家を保持したまま預金から100万円を相続することができます(子は各50万円)。

贈与税の控除を受けるには、20年以上夫婦関係(内縁関係は不可)にある必要があります。

※1:先渡し対策をしなくても配偶者が家を相続できるのであれば、配偶者の相続には1億6000万円まで相続税がかからないので普通に相続した方が税金面で有利となる場合があります。

遺産の先渡し

60歳以上の父母(または祖父母)の18歳以上の子(孫も可)に対する生前贈与に対して税制上の軽減措置がとられ制度があります。

「相続時精算課税制度」という制度で、事前に税務署で所定の手続をしておくことで、2500万円まで贈与税が非課税となります。
家のような不動産だけでなく、金銭も贈与対象となるのでとても便利です。

同一の父母または祖父母からの贈与であれば限度額の2500万円に達するまで何回でも贈与することができます。
また、贈与額が限度額を超えた場合、超えた分に一律20%の贈与税が課税されますが、支払った贈与税は贈与者が亡くなったときに生じる相続税額から差し引かれます。

分かりにくいのですが流れとしては、

  1. この制度での生前贈与について、2500万円まで非課税、超える分に対して一律20%の贈与税を課す。
  2. 贈与者が死亡したら、1で贈与した分を全額相続財産に加えて相続税の計算をする。
  3. 2で計算した相続税から1で支払っている贈与税を差し引く。贈与税の方が多ければ、その差額を還付(返金)する。

このように、生前贈与時に一時的に2500万円を超える部分に対して贈与税を支払うことになりますが、相続時に相続税と相殺される(制度の名が示す通り、相続時に精算されることになります)ので実質的に贈与税を支払うことなく相続人に生前贈与できることになります。

この制度での生前贈与は最終的に相続税の対象となるので、生前贈与という名の遺産の先渡しになります。

20%の一時的な贈与税を支払うことができるのなら、贈与額に限度はないということになります。

相続時精算課税制度の利用する場合、事前に税務署に申告しておく必要があります。
詳細は税理士の先生にご相談下さい。

相続時精算課税制度の注意点

この制度を利用する前に知っておかなければいけない点があります。
知らないで利用してしまうと後で後悔することにもなりかねないので注意下さい。

利用する前に知っておくべき点は、

  • 一度利用したら取消すことができない。
  • 暦年贈与(毎年110万円までの贈与が非課税)が利用できない。

また、相続税の観点から暦年贈与と相続時精算課税制度を比較すると、暦年贈与を利用すると相続時における相続財産を減らすことができますが(相続税の課税対象となる額を減らすことができる)、相続時精算課税制度を使うと減らすことはできません。

例えば、3000万円の財産があり暦年贈与を使って毎年110万円を贈与し10年後に贈与者が亡くなった場合、相続税の課税対象となる相続財産は1900万円(3000万円ー110万円x10)になります。

対して、相続時精算課税制度を使って2500万円を贈与し10年後に贈与者が亡くなった場合、贈与した額は課税対象となる相続財産に加算されるので3000万円のままとなります。
相続財産が非課税枠に収まるのであれば相続税のことを気にする必要はありませんが、財産が多い場合はこの点を検討すべきでしょう。
※税金に関しては税理士の先生にご相談下さい。

相続時精算課税制度と相続放棄

相続時精算課税制度は遺産の先渡しと捉えられるので、既に遺産を取得しているから相続放棄ができなくなるのでは、と思われるかもしれませんが、この制度を利用していても相続放棄は可能です。

贈与者が亡くなると贈与額は相続財産として相続税の課税対象となり、非課税枠を超えていれば相続税が課税されますが、故人に多額の借金があるような時は相続放棄をすることができます。
ただし、この制度を使って贈与した時点で既に贈与者に多額の借金があったような場合は注意が必要です。

債権者からは、本来、返済にあてられるべき財産が相続人に生前贈与され、その相続人は故人の財産をもらっておきながら相続放棄して返済を逃れている、と見ることもできます。
贈与者と受贈者に債権者を害する意図があったことが認められれば、詐害行為として贈与を取消されるおそれがあります。
※詐害行為による取消しは、先に述べた配偶者控除を使った夫婦間での家の生前贈与も対象になり得ます。

特別受益との関係

家を含む遺産を生前に相続人に先渡ししておくことで、遺産の分割方法で相続人がもめる原因を軽減することができます。

では、先渡ししておけば大丈夫かと言うと、そうではありません。
ここで問題になるのが特別受益です。

特別受益とは、特定の相続人が故人が生前中に(又は遺贈)受けた何らかの利益のことを言います。
通俗的に言えば、「あいつだけが〇〇をもらって(〇〇してもらって)得をしている」というようなケースです。

相続人に対する特別受益行為に期間制限はないので、何年、何十年前の「〇〇をもらった」ことが問題になります。
特別受益は民法で規定されているので、認められるかは別として主張することは可能です。

これで相続人間がもめてしまいます。
そこで、特別受益対策が必要になります。

特別受益対策

遺産を先渡しをする側から見る特別受益の問題は、分割でもめないように遺産の先渡しをしても、先渡しした分が相続財産として引き戻されることにあります。

特定の相続人に500万円相当の財産を先渡しして亡くなった場合、他の相続人の主張により先渡し分の500万円は相続財産に持戻される(組み入れられる)おそれがあります。
こうなると、遺産分割でもめないように先渡しにより相続財産から除外したにも関わらず、先渡し分も含めて遺産の分割について協議をしなければいけなくなります。

ただし、この持戻しは、先渡しした者(贈与者)の意思表示により免除することができます。
先渡しした財産が相続紛争の原因にならないように、持戻し免除の意思表示をしっかりやっておきます。
意思表示の方法に規定はないので口頭でも良いことになりますが、言った言わないの紛争になるので、免除する旨を記載した書面(遺言書や贈与契約書等)を残しておくことが重要です。

※配偶者への居住用不動産の生前贈与については、民法903条で贈与者の持ち戻し免除の意思表示が推定されますが、「みなされる」ではなく「推定」なので争われるおそれがあります。
よって、この場合でもしっかり書面で意思表示しておくことが大切です。

遺留分に注意

遺留分(相続人として取得を主張できる最低限の相続割合)に免除規定はありません。
他の相続人の遺留分を侵害する遺産の先渡し(生前贈与)(※2)は、紛争の原因になるので注意が必要です。
※2:遺留分を計算する場合に対象となる生前贈与は、過去10年という期間制限があります。
遺留分についての詳細はこちら

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