相続問題

換価分割について

相続が発生して遺言書がない場合、遺産は相続人全員で遺産分割協議して分割することになります。

遺産が現金・預貯金だけであれば、割合を決めさえすれば簡単に分割できます。
相続人が子供3人であれば、現預金を各3分の1に分けて相続手続き終了となります(協議で均等以外の割合にすることも可能)。

しかし、遺産に不動産が含まれていると簡単にはいきません。

不動産を相続する場合、いくつかの選択肢があります。

1.単有・共有で相続
2.現物分割
3.代償分割
4.換価分割

1は、遺産分割協議で相続人の内1人が不動産を相続する、又は全員で共有するケースです。
例えば、故人と同居して亡くなるまで世話をしていた長男が、故人名義の家・土地を相続するということに他の相続人が承諾すれば、長男が単独所有者として相続します。

また、もめるのを回避するために、相続人全員が共同所有者として相続するということ考えられます。
※ただし、共有での相続は直近の相続問題を回避できたとしても、管理・維持・処分方法でもめたり、共有者に相続が生じるとその相続人が新たな共有者となり、問題を次の世代に先送りすることになるので、極力避けるべき方法と言えるでしょう。

2は、不動産を物理的に分割して相続する方法です。
土地がかなり広ければ可能でしょうが、故人の家が遺産であるような場合は小さく分割することで用途も限られ土地の価値も下がってしまいます。

3は、相続人の1人が単独で相続し、他の相続人に相続分相当を金銭等で支払う方法です。
単独所有になるので共有による弊害は避けられます。
しかし、この方法では他の相続人に代償として支払う額をいくらにするか、そもそも支払うことができるかの問題が生じます。

以上のような問題から、4の換価分割が選択されることが少なくありません。
換価分割は、不動産を売却した額を各相続人に分割する方法です。
不動産価格も市場によって決定されるので、相続人によって不公平が生じることもありません。

これらを踏まえて、今回は「換価分割」についてご説明します。

換価分割とは

換価分割とは、言葉の通り財産を換価(売却)して得たお金を分割して相続すること言います。
対象となる財産は不動産に限らず、株・国債等の有価証券などの売却することができる遺産が対象となります。

例えば、遺産として40坪の土地がある、相続人は2人(A、B)で相続分は各2分の1。
この土地をどうやって相続するか?

40坪を各20坪に分筆して相続(現物分割)することも考えられますが、仮に40坪の価値が1000万円とした場合、20坪に分筆したら500万円になるかというとそうではありません。
20坪だと用途が限られ500万円をはるかに下回る価値になる可能性があり、また、狭小土地のため買い手を見つけることも難しくなるおそれがあります。

他に、Aが土地を単独で相続しBに2分の1相当額を支払う代償分割もありますが、この場合、AB両者で土地の価格を決めることになります。
Aはできるだけ安く、Bは高く土地を評価したいでしょうから、合意するのは簡単ではないでしょう。

このことからも、不動産市場で決まった価格で売却し、それを各2分の1で分割する「換価分割」は、揉め事を回避する有効な分割方法と言えます。

換価分割の注意ポイント

相続人全員で売却することに合意できたら公平感のある最適な分割方法ではありますが、注意すべきポイントもあります。

維持・管理費

直ぐに売却できれば良いですが、買い手がみつかるまでに半年、1年、2年とかかることもあります。
その間、建物や土地の維持管理をしなければいけません。
当然、固定資産税の支払いも必要です(納税者を役所へ通知します)。
誰がするか、費用の分担は、等々決めておく必要があります。

経費・税金

代償分割は相続人間での金銭等のやりとりだけで済みますが、換価分割は通常、不動産会社が関与するので仲介料が発生します。
売却額が1,000万円だと、30万円(代金の3%)+6万円=36万円を不動産会社に仲介料(上限)として支払うことになります。

不動産を売却することによる譲渡所得税が発生する場合もあります。
譲渡所得税とは、不動産を取得した時の額より高い額で売却(売却のための経費は差し引く)できた場合、その差額にかけられる税金です。

バブル崩壊以降、土地の価格は下がり続けていたので売却額が取得額より高いケースは多くはなかったのでが、近年、都市部を中心に不動産価格も上昇しているので予想以上の税金が生じるおそれもあり注意が必要でしょう。

また、故人のみが住んでいた家を得る場合(相続人が同居していない)、居住用不動産の売却による特別控除を受けることもできません

空家売却特例

故人が居住していた家屋または故人が居住していた家屋の敷地等を、令和9年12月31日までの間に売って(相続開始から3年以内に売却要)、一定の要件に当てはまるときは、譲渡所得の金額から最高3,000万円まで控除することができます(被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例)。

相続税

相続税が生じる場合、故人が亡くなって10ヶ月以内に申告しなければいけません。
不動産を売却したお金で相続税を支払おうと思っている相続人は、申告期限までに売却できなければ自分の財産から支払うことになります。

換価分割時の登記

不動産を換価分割で売却する場合、故人名義からいきなり買主名義に変更することはできません
故人はいないので売却の当事者とはなり得ないので、いったん、相続人に名義変更(相続登記)した後、相続人から買主へ売却による名義変更(移転登記)をすることになります。

この場合の相続登記には2通りあります。
相続人全員で共有として登記する方法と、相続人の中から代表者を決めてその人の単独所有として登記する方法があります。

基本的には全員共有として相続登記することになりますが、相続人がかなり多い、相続人の中に遠方に住んでいる方がいる、海外在住者がいるような場合、売却手続きにおいてかなり面倒になることがあります。

売却手続き過程で何らかの判断、ハンコが必要なときは都度、全員に確認し承諾を得て、ハンコをもらうわなければいけませんが、相続人の数が多いと手間も時間もかかってしまいます(買主に移転する際は、全員の実印と印鑑証明書が必要になります)。

そこで、相続人の代表者を決め、その者が単独所有(便宜上)して売却手続きも所有者として行えば、ハンコも代表者だけで済み手続きも簡単になります。
※代表者は最終的に売却契約をする前に、相続人全員に売却意思、売却額の確認をしなければいけません。また、不動産会社に支払う仲介手数料等の売却にかかわる費用は売主である代表者が支払うことになります。一時的に代表者が負担して後で清算するのか、相続人全員で負担するのかを決めておくことも重要です。

税負担

共有名義はもちろん、便宜上誰かの単独名義で相続登記しても、相続税、譲渡所得税は各相続人に課せられます。

遺産分割協議書

代表者1人の単独所有とする場合、換価分割における単独所有であることを遺産分割協議書に明記する必要があります。
この記載がなければ、外形的には相続人の1人が不動産を相続して売却し、売却額の一部を他の相続人に「贈与」したとみなされ高額な贈与税が課せられるおそれがあります。

遺産分割協議書に換価分割である旨を明記していれば、贈与税は課せられないとは言いきれません。長期間にわたって単独所有のままでいた後に売却した場合、換価分割のための便宜的な単独所有ではないと判断され贈与税が課せられるおそれがあります(また、換価分割が否定された場合、代償分割として売主である単独所有者に対する譲渡所得税の追納の可能性もあります)。単独所有で換価分割をする場合は、売却の見通しがある場合に行うのが良いでしょう。

単独所有はあくまでも換価分割のためであり、売却して得た額は遺産分割として各相続人に分割される旨を記載しておくことが重要です。
あいまいな記載はトラブルを引き起こしかねないので、専門家である司法書士にご相談下さい。

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