
親が亡くなり親名義の土地を相続する際、登記簿を取得して見ると、甲区の登記の目的の欄に「条件付所有権移転請求権仮登記」、「原因 年月日売買(条件 農地法第3条の許可)」と記載されているが、どういう意味?
所有権が移転する登記が仮として登記されている、ということは今後、この土地の所有権は第三者に移転するのか?
「仮」と書かれているので、そんなに気にする必要はないか?
このように「仮」という文字で軽い意味に思われる方もおられますが、場合によってはその後に続く登記を吹き飛ばすほどの力があり、軽視することはできません。
相続する土地に仮登記がされている場合にどう対処するかですが、まず、仮登記について説明し、その後に対処方法をご説明します。
仮登記の種類
仮登記には、1号仮登記、2号仮登記と呼ばれる2種類があります。
1号仮登記は、既に権利変動は生じていて所有権移転登記ができる状態にあるが、書類の不備等の問題ですぐに登記申請ができないときに変動した権利を確保しておくために、とりあえず「仮」としてする登記です。
「所有権移転仮登記」「原因 売買」と記載されている場合、それは1号仮登記になります。
売買が成立して所有権(物権)は買主に移転していますが、書類が揃わず登記申請できないようなケースで、揃ってなくてもできる仮登記をします。
2号仮登記は、権利変動はまだ生じていないが変動させる請求権は成立したので、それを確保するためにする仮登記です。
今回は、仮登記でよくみられる「所有権移転仮登記」と「所有権移転請求権仮登記」についてご説明します。
所有権移転仮登記
1号仮登記である所有権移転仮登記は、既に物権は変動している(所有権は移転している)が、手元に移転登記に必要な書類(登記識別情報等)が足りないために移転登記がすぐにできないようなとき、その書類がなくてもできる仮登記を行って順位を保全します。
仮登記は通常の登記と同様に共同申請(権利者と義務者)で行いますが、登記義務者(売主等)の承諾があれば登記権利者(買主等)が単独で登記することができます。
その後、書類が揃ったところで仮登記を通常の移転登記に切り替える登記をします(これを仮登記の本登記と言います)。
所有権移転請求権仮登記
所有権移転請求権仮登記は2号仮登記に分類されます。
まだ物権変動は生じていないが、物権変動を将来に生じさせる請求権は発生している場合や、期限や条件等が付けられてその期限が到来したり、条件が成就した場合に物権が変動するようにした場合、その請求権を保全するために仮登記として登記します。
例えば、売買契約を締結したが売買代金の支払いが後日の場合、普通、所有権移転登記は代金支払いと同時に行われます。
その場合、まず、移転登記できる請求権を確保するために下記のような仮登記をします。
「条件付所有権移転仮登記」「原因 年月日売買(条件 売買代金完済)」。
また、農地を売買する場合、農地法の許可が必要ですが許可がまだ下りてない場合、「原因 年月日売買(条件 農地法第3条の許可)」のように仮登記がされます。
仮登記の意味
仮登記がされる目的は、順位保全であり、権利保全にあります。
順位・権利の保全
民法177条に「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定されています。
この規定により、不動産に関して権利が衝突する場合、先に登記したものが勝つ事になります。
例えば、所有者AがB及びCに二重に土地を売却した場合、Aから取得した当該土地のBとCの所有権は、相容れない衝突する権利になります。
この場合、先に登記した者が勝つ、ということになります。
このように登記は絶大な効力を持ちますが(対抗力)、何らかの事情で登記がすぐにできない場合、登記の順位及び権利を保全する必要があり、それが仮登記になります。
登記簿には、「順位番号」という欄があります。
登記をすると、この欄に1,2,3と順位が付されていきます。
例えば、順位1番で所有者Aと記録されている土地の登記簿に、順位2番で「所有権移転」「所有者B」と記録されたら、Bは「対抗力」を得たことになるので、仮に同じくAから当該土地を買ったCがいても、CはAから所有権を取得したとする所有権移転登記をすることができません。
しかし、BはAから当該土地を買ったが、書類の不備で「順位2番」で「所有権移転登記」をすぐにすることができない場合、書類が揃うまで登記をしないでいると、その間にCに「順位2番」で「所有権移転」の登記をされるかもしれません。
そうなれば、Cが所有権を取得することになります。
そこで、Bができることは、「順位2番」を確保するために書類が不備でもできる「所有権移転(請求権)仮登記」をします。
これにより「順位2番」という順位及び権利を保全できます。
「順位2番」の登記は仮登記なので、Cさんは「順位3番」で自己を所有者とする「所有権移転」登記をすることは可能です。
しかし、その後、Bが順位2番の仮登記の本登記をすると、この登記と権利が衝突する下位順位3番のCを所有者とする所有権移転登記は抹消されることになります。
これが仮登記の威力です。
「仮」ではありますが、遅れる登記を吹き飛ばす力を持っています。
相続する土地に仮登記があったら
以上が「仮登記」の効果です。
仮といえどもあなどれない事をご理解いただけたと思います。
では、相続する土地に仮登記が付されている場合はどうするか、が問題になります。
仮登記があると、その後に登記をしても権利がぶつかる場合は抹消されてしまいます。
ただし、全部の仮登記が本登記されるとは限りません。
仮登記されたのが、昭和や平成初期の何十年も前でものあれば、仮登記の権利者は本登記をする気がない、と考えることもできます。
仮登記がされていても、名義人を変更する相続登記は可能なので、例えば順位3番で所有権移転仮登記がされていても、順位4番で相続を原因とする所有権移転登記をして所有者として不動産を保有することができます。
しかし、このままでは売却は難しくなります。
仮登記と言えども、わざわざ他人の権利が付いている不動産を買う人はいません。
いたとしても、仮登記を理由に安く買いたたかれるでしょう。
そこで、相続した不動産に役目をはたしていない古い日付の仮登記がある場合は、抹消することを検討しましょう。
仮登記の抹消
基本的に登記の抹消は、登記権利者(仮登記の名義人)と義務者(設定者)との共同申請になります。
また、登記権利者であれば、単独で抹消することもできます。
しかし、古い仮登記だと権利者と連絡をとるもの難しいでしょうし、連絡がとれても抹消に協力してくれるとも限りません。
ましてや、権利者がみずから単独で抹消申請してくれることを期待するのも難しいでしょう。
この場合、現実的な抹消方法は、登記義務者である所有者が単独で申請して抹消する方法です。
義務者も単独申請できるのですが、この場合、申請に権利者の承諾書(印鑑証明書も要)が必要になります。
権利者に抹消することを承諾してもらうようお願いすることになります。
場合によっては、いわゆる「ハンコ代」が必要になることもあります。
権利者が亡くなっていると、その相続人全員から承諾をもらうことになるので、時間も費用もかかることになります。
裁判による抹消
登記権利者が協力してくれない、行方不明で連絡がとれない、というような場合は裁判をして抹消することを検討します。
「所有権移転請求権仮登記」は、当事者間において相手側(権利者)は義務者に所有権を移転ことを請求できる権利を得ていることを意味します。
例えば、原因が「売買予約」であれば、権利者(買主)は売買に関する予約を完結する権利(予約完結権)を取得しますが、これは債権(当事者間の約束事)なので、10年(2020年民法改正後に成立した債権であれば5年)で時効で消滅します。
この時効期間が経過、完成していれば、仮登記の抹消を求める訴訟を起こし、勝訴判決を得られれば単独で抹消できる可能性があります。