相続や共同購入等によって複数人で一つの不動産の共有者になるケースがあります。
不動産を共有した場合、使用や管理方法を共有者間でいろいろ協議しながら決めていくことになりますが、考え方の違い等で紛争も生じやすいです。
また、共有者が亡くなると、その相続人が新たな共有者となるので人数もどんどん増えていき、協議して何かを決めること自体が難しくなります。
このような状況から抜け出したい、共有状態を止めたい、と思われる方もおられます。
そこで、ここでは共有の解消方法についてご説明します。
共有とは
不動産の共有者となる場合、その持分を当事者間で自由に決めることができます。
一つの土地を2人の所有者が均等に所有する場合、各所有者の持分は2分の1となり、登記簿には持分2分の1の所有者として登記されます。
持分について
不動産の共有者になると「持分」を取得することになります。
2分の1や3分の1、中には1250分の13というようなケースもあります。
「持分」を取得すると、それに相当する権利を取得し義務を負うことになります。
権利として分かりやすいところでは、共有不動産を売却した場合、売却額における持分割合に相応する額の取得を主張できます。
負担分としては、維持管理に要した費用に関して、持分に相応して負担することになります。
また、ここでは詳細を省略しますが、共有物を利用・改良する行為(管理行為)は、持分の価格に従ってその過半数で決めるとされています。
共有と占有
民法249条には「各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じて使用をすることができる」と規定されており、共有者各自は共有物を占有・使用することができます。
A、Bの2名が各2分の1で土地を共有している場合、共に当該土地に対して2分の1の権利がありますが、物理的に土地に対して2分の1の占有・使用権があるわけではありません。
権利は持分としての2分の1であって、土地面積の2分の1ではありません。
過去において、共有者間で占有が争われた裁判があります。
土地・建物の共有者は4人、それを持分6分の1の共有者が単独で全部を占有、他の共有者が明渡しを求めた裁判で最高裁は次のような判断を示しました。
過半数に満たない持分の共有者が他の共有者と協議することなく勝手に単独で当該土地を占有する権原はないと認めるが、他の共有者は自己の持分に基づいて占有している共有者に対して当然には明渡しの請求はできない。※1
自分の持分に基づいて合法的に占有しているので、その占有を他の共有者は否定することはできない、つまり、持分6分の1で土地全部を占有していても、6分の5の共有者は占有している共有者を追い出すことができない、ということになります。
ただし、明渡が認められなくても、他の共有者は占有している者に対して、持分に応じた地代相当額を損害賠償として請求できるとされています。
※1.判決文には「当然には」と記されていますので、単独占有を否定する理由があり、それが認められれば明渡しが認められる可能性があります。
共有の解消
共有状態を解消するには、以下の方法が考えられます。
- 持分放棄
- 現物分割
- 代償分割
- 換価分割
- 持分の売却
持分放棄
自分の持分を放棄して共有関係から離脱する方法です。
放棄なので、対価はなく無償で他の共有者に譲渡することになります。
放棄する相手は他の共有者全員であり特定の共有者にのみ放棄することはできません。
また、法規する相手は共有に限定され、以外の第三者に放棄することもできません。
※放棄は共有者に対してしかできないので、「先にやった者勝ち」と言えるかもしれません。
例えば、ABC3名が各3分の1で共有していてAが持分を放棄する場合、BCに各6分の1と共有割合に従ってAの持分が分割されて移転することになります。
ポイント
放棄に相手の承諾は必要ありません。
相手方に放棄する旨を伝えれば(意思表示)成立するので、単独で簡単に共有関係から離脱することができます。
共有物に価値があり、持分を手放す際に相応の対価を得たいとする場合、無償で譲渡する持分放棄は検討対象にならないでしょうが、原野商法等で価値のない不動産や無償でもいいから直ぐにでも共有関係から離れたいと希望する場合は有効な方法となります。
ただし、問題もあります。
放棄の意思表示により放棄された持分は共有者に属することになるのですが、そのことを公的に確定させるためには登記が必要になります。
しかし、この登記は放棄した者と他の共有者の共同申請によるので、他の共有者の協力が必要になります。
価値のある不動産であれば協力してくれるかもしれませんが、価値のないものであれば押し付けられると感じて協力を拒否されるかもしれませんし、もともと関係がこじれていれば話しすらできない、という状況も考えられます。
相手から拒否されたら登記できないということはありませんが、その場合、登記手続を求める訴訟をすることになり、かなりハードルが高くなります。
現物分割
言葉の通り分割(分筆)して、それぞれが単独で所有者となります。
ポイント
これができればスッキリしますが、分割するにはそれなりの広い土地であることが必要でしょうし、建物であれば分割することはできません。
また、どのように分割するかをまとめるのも容易ではありません。
土地の分割にあたって、接している道路や方角、広さ、形状等々によりそれぞれの価値観に違いにより紛争になるおそれもあります。
代償分割
自分の持分を他の共有者に有償で譲渡することで共有関係から離脱する方法です。
通常は金銭による譲渡になりますが、当然に協議により互いが納得する譲渡額を決めることは容易ではありません。
換価分割
土地全部を売却して、持分割合に応じて売却額を分配する方法です。
売却額を持分割合によって分けるだけなので、現物分割や代償分割における面倒な協議は不要になります。
ポイント
問題点としては、売却するには共有者全員の承諾が必要です。
1人でも反対者がいると土地全体の売却ができなくなります。
また、売却することに同意があっても、いざ売る段になって、売却額でもめるおそれがあります。
買い主提示額が妥当と思う人、そんな安い額では売りたくないと思う人、捉え方は人さまざまです。
持分の売却
持分を第三者に売却して共有から離脱する方法もあります。
持分のみの売却も可能です。
ポイント
問題は、買い手が限定されることです。
権利関係がややこしく、お金を払っても自由に使えない不動産を一般の方が購入しようとは思はないでしょう。
購入するとしたら業者になり、価格もかなり低くなるおそれがありあます。
市場価格1000万円の土地の持分2分の1が500万円で売れることは難しく、価格はかなり下がることが予想されます。
まとめ
共有解消として上記の方法を検討していくことになりますが、共有者のそれぞれの事情により何を選択検討するかは変わってきます。
どうしても保有したい者がいれば、その者を中心に代償分割で協議を進めていくことになるでしょうし、全員が保有に固執していないのであれば、現物分割や代償分割の話しをしてもめるようなことをせず、いきなり換価分割で進めていく方がトラブルも少なくなります。
持分の売却は、最終手段とお考え下さい。
安く売って共有関係から離れることができますが、残った他の共有者にとってはいきなり全く知らない第三者が共有者として出現することになり、特に親族間共有の場合、解消後に関係を保つことは難しくなるおそれがあります。
上記に示した方法で共有解消のために共有者間で協議をしていくことになりますが、協議がまとまらない場合は、最終的には共有物分割請求(訴訟)をして解決を図ることになります。