相続放棄

故人に借金がある、相続争いに関わりたくない等、さまざまな理由で故人の財産を相続したくない場合、相続放棄をすることになります。

「相続放棄は3ヶ月以内にしなければいけない」ということをご存知の方もいらっしゃると思いますが、多くの方が故人が亡くなった日から3ヶ月以内と思われています。

多くの場合はその認識で良いのですが、そうでない場合もあります。

ここでは、相続放棄における3ヶ月の期間制限について解説します。

相続放棄の熟慮期間

相続放棄における「3ヶ月」は、相続放棄をするかどうかの「熟慮期間」とされています。

相続するかどうか決まってない状態が長く続いてしまうと、誰が相続財産を引き継ぐのか宙に浮いたままで相続財産に対する権利・義務があいまいのままになってしまい、いろいろな場面で支障で出てきます。

故人に借金や税金等の支払義務がある場合、相続するかどうか一定期間を定めて決める必要があります。

また、相続人にとっても故人の相続財産を引き継ぐかどうか、検討する時間が必要になります。

故人に借金がある場合は、安易に相続すると自分の生活に大きく影響しかねないので、慎重に検討しなければいけないでしょう。

そこで、民法は相続するかどうか検討する時間を「熟慮期間」として3ヶ月と規定しました。

規定は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」となっています。

※3ヶ月の期間が申立により延長することができます。

お気づきのように、「故人が亡くなってから3ヶ月以内」とはなっていません。

つまり、故人が亡くなっても自己のために相続の開始があったことを知らなかったら熟慮期間はスタートせず、後日、自己のために相続の開始があったことを知った時から熟慮期間がスタート(起算点)し、それから3ヶ月以内であれば相続放棄が認められることになります。

自己のために相続の開始があったことを知るまでの時に期間制限はありません。

故人が亡くなって5年、10年経過していても、その後に自己のために相続の開始があったことを知ったなら、その時から3ヶ月以内であれば相続放棄をすることができます。

故人が亡くなって10年も経っているので相続放棄はできないだろう、というのは間違いになります。

当事務所では、最長20年前に亡くなった父親の相続放棄を認めていただいた事例があります。

では、「自己のために相続の開始があったことを知った」時とは、いつのことを指すのかが問題になります。

自己のために相続の開始があったことを知った時

「自己のために相続の開始があったことを知った」とはどんな事実を知ったときを指すのかが過去裁判でも争われていましたが、最高裁は「死亡の事実及びそれによって自己が相続人となったことを覚知した時」と示しました。

よって、配偶者及び子は、故人が死亡したことを知ったときに自身が相続人になったことを知ることになるので、その時から熟慮期間の3ヶ月がスタートすることになります。

故人の親、兄弟姉妹は次順位相続人になるので、先順位の相続人に相続権がなくなり自分に相続権が移転したことを知ったときから3ヶ月以内となります。

例えば、Aが亡くなり妻と子が全員相続放棄した場合、Aの両親は既に亡くなっていれば相続権は次順位相続人であるAの兄弟姉妹に移転します。

Aの家族が相続放棄をしたことをAの兄弟姉妹に伝えれば、その時点で自分が相続人になったことを知るので、それから3ヶ月以内であれば相続放棄が可能です。

また、Aの家族から伝えられず自分に相続権が移転しているのを知らないまま2年が経過し、Aの戸籍を調査した債権者から「あなたがAの相続人になっている」とAが負っていた債務の返済を請求された場合、その請求により自分がAの相続人になっていることを知ったことになるので、その日から3ヶ月以内であれば相続放棄ができることになります。

例外規定

親が亡くなり自分が相続人になったことを知っても、「親に相続するような財産はない」と思っている場合、その相続人はどうするか?

普通は「何もしない」ということになると思います。

そして、半年後に金融業者からの請求で親に多額の借金があったことを知った。

この場合、既に3ヶ月が経過しているので相続放棄ができない、とすると相続人に過酷と言えます。

相続放棄されないように3ヶ月が経過するまでは何もせず、経過してから相続人に故人の借金の返済請求をするような業者も現れたりしていました。

そこで、最高裁は例外として「 相続人が被相続人に相続財産が全く存在しないと信じていたので相続放棄の申述をしないまま熟慮期間を徒過し、 このように信じるについて相当な理由があると認められる場合は、相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識可能な時から熟慮期間を起算すると」と示しました。

借金も被相続人の財産の一部なので、業者から返済求されてはじめて故人に借金あったことを知ったときは、その時から3ヶ月以内であれば相続放棄が可能になります。

3ヶ月という熟慮期間制限は変わりませんが、例外規定に該当すれば熟慮期間の起算点を後に繰り延べすることができることになります。

例外規定を適用してもらうには、申請時に例外規定に該当することを説明する上申書を裁判所に提出しなければいけません。

故人との関係性や亡くなった時の状況、死亡の事実を知った経緯、相続する財産がないと判断した理由、後に借金等を知った経緯等々を上申書にまとめて裁判所に例外規定に該当することを認めてもらわなければいけません。

このようなケースの相続放棄は、司法書士にご相談されることをおススメします。

注意点

「あとで故人に借金があることが分かっても、その時から3ヶ月以内であれば相続放棄できる」ということではないことにご注意ください。

「相続するような財産が全くないと信じていた、そう信じたことに相当な理由があった」という要件があります。

「財産が全くない」という文言の捉え方ですが、「言葉の通りに全く存在しないと信じた場合に限定される」とする考え方と、「一部相続財産の存在は知っていたが、知れば当然相続放棄をするような債務は存在しないと信じていた場合も含まれる」とする考え方があります。

これに関して統一されておらず、家庭裁判所は後者、高等裁判所は前者の考え方に近いと言われています。

また、家庭裁判所で相続放棄が却下されると他に救済手段がなくなることもあり、「却下すべきことが明らかな場合以外は、相続放棄の申述を受理すべきであるとされています。

相続放棄は家庭裁判所で審理されるので、一部財産の存在を知っていたとしても認められる可能性があるので、諦める必要はありせん。