何らかの事項を会社の最高意思決定機関である株主総会で決議する場合は多々あります。
総会を開くには、事前に日程や決議案件等を知らせる招集手続きや開催場所の準備等々が必要で、時間も費用もかかり会社にとっては大きな負担になります。
そこで、このような手間を省くために会社法は、定められた要件を満たせば総会を開催しなくても、総会で決議がなされたみなす(みなし決議)としています。
何か急に決議が必要になった場合の臨時総会だけでなく、定時総会もみなし決議は可能です。
この方法は、株主が1人(又は1社)だけであったり、株主が少数ですぐに連絡が取り合える親族等である状況でよく使われます。
総会みなし決議
会社法319条1項に「 取締役又は株主が株主総会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき株主(当該事項について議決権を行使することができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。」と規定されています。
この条文には、「株主全員(議決権のある株主)」が「書面又は電磁的記録」で「同意」すれば、株主総会を開かなくても総会決議したものとみなすと規定されています。
このことを「みなし決議」や「書面決議(または電磁的記録決議)」と言います。
通常、総会決議は出席株主の出席株式数の過半数により決議されます。
対して、みなし決議をする場合は、過半数どころか全員の同意が必要なので、先に述べた1人株主や少数株主でないと難しいでしょう。
株主が100人を超えるような場合、株主全員に承諾をとる手続きをするくらいなら、総会を開いて過半数で決議した方がよほど楽、と言えるかもしれません。
ある程度の株主がいても、全員が「経営に関しては社長に全部お任せします」みたいなケースもあるので、この場合はみなし決議は有効でしょう。
次に、手続きについて説明します。
手続き
株主総会を開催する場合、事前に規定に従って株主の招集手続きをしなければいけませんが、みなし決議では総会を開催しないので招集手続きは不要になります。
提案書面
株主に決議する内容を記載した提案書を送付します。
取締役会設置会社においては、提案をする際には取締役会決議が必要です。
提案書を送付すときに同意書(期限を設定しておいた方が良いでしょう)も同封しておきます。
実務的には、いきなり提案書を送り付けても株主は戸惑うでしょうから、事前に内容を書面や電話等で知らせた上で正式に提案書・同意書を書面や電子メール(PDF)で送付し、署名、押印した同意書を返送してもらう形が多いかと思います。
※同意書への押印は必須ではありませんが、意思確認のためにも押印してもらった方が良いでしょう。
※提案は書面やメールでしなければいけないという規定はありません。
口頭も認められるので、株主が1人であったり、家族だけであるような場合は口頭だけでも良いかもしれませんが、後で取り決め事項を確認できるようにするためにも書面等で行うようにすることをおススメします。
同意は条文にあるように、書面(電磁的記録)でなければいけません。
みなし決議日
株主全員から同意を得たとき(同意書を受領したとき)に決議があったものとみなされます。
全員の同意が揃った日(全員の同意書を受領した日)が「みなし決議日」となりますが、提案書・同意書に期日を指定して、みなし決議日をあらかじめ定めておくこともできます。
特に、役員選任事項が含まれるみなし決議日が事業年度の最終日前後になりそうな時は、役員の任期に影響するので考慮する必要があります。
議事録
総会は開催しませんが、議事録は作成しなければいけません。
議事録には以下の事項を記載します。
- みなし決議の内容
- 提案者の氏名
- 決議があったものとみなされた日
- 議事録作成の職務を行った取締役(多くは代表取締役)の氏名
みなし議事録に押印義務はありませんが、代表取締役が作成し会社印を押印することが多いです。
但し、決議事項に代表取締役の選定等が含まれている場合は、規定の印鑑が必要になりますし、総会がされていないので議事録を就任承諾書に援用することはできません。
登記が必要な場合、この議事録(株主リスト含む)を法務局に提出ますが、提案書や同意書は提出不要です。