賃貸契約を結び賃貸住宅に居住しているAが亡くなった場合、賃貸住宅の賃借権は相続の対象になります(公営住宅は別)。
Aに妻Bがいれば、相続人であるBが賃借権を相続し、Bが賃借人として現状の賃貸住宅に染む続けることができます。
Bが新たに賃借人になることについて、貸主の同意は必要ありません。
では、内縁関係にある妻や正式に縁組はしていないが事実上の養子が同居している場合、その者は法定相続人ではないので賃借権を相続、承継することができず、Aが亡くなったことにより追い出されてしまうのか?
この点について、解説していきます。
相続人でない賃借権の承継
内縁関係にある妻や事実上の養子が同居している場合について、借地借家法36条に以下のように規定されています。
「居住の用に供する建物の賃借人が相続人なしに死亡した場合において、その当時婚姻又は縁組の届出をしていないが、建物の賃借人と事実上夫婦又は養親子と同様の関係にあった同居者があるときは、その同居者は、建物の賃借人の権利義務を承継する。ただし、相続人なしに死亡したことを知った後一月以内に建物の賃貸人に反対の意思を表示したときは、この限りでない。」
このように、内縁関係にある妻や正式に縁組みをしていない事実上の養子について、賃借人としての権利義務を承継する。
つまり、賃貸借契約上の賃借人が亡くなっても新たな賃借人として現在の賃貸住宅に居住し続けることができます。
法律で規定されているなら安心、かというとそうでもありません。
あくまでも、上記の規定は被相続人に法定相続人(法律上の配偶者、子、親、兄弟姉妹)がいない場合の規定です。
先に説明したように、賃借権は相続の対象になるので、亡くなった方に相続人がいれば(例えば、離婚していない妻、その妻との子等)、その者が相続することになります。
問題点
亡くなった方に相続人がいれば、相続人全員が相続放棄をしない限り賃借権は相続人が相続することになります。
同居の内縁関係人、事実上の養子は、賃貸人に対しては相続人が相続した賃借権を援用(賃借権は相続人が相続しているので消滅していないと主張)することができますが、相続人とは特殊な関係になってしまいます。
賃借人は相続人になり、内縁妻、事実上の養子は居住者として相続人に賃料を支払うという複雑な関係になります。
賃借人である相続人から明渡しを要求されるかもしれませんし、相続人が賃貸人との間で賃貸借契約を合意解除したら、内縁妻、事実上の養子が住み続けるのは困難になってしまいます。
過去において、相続人がした合意解除を無効としたり、明渡し要求を権利の濫用として無効と判断した判例もありますが、仮に相続人から退去等の要件をされてしまうと、裁判で争うか退去するかという厳しい状況になってしまいます。
相続人がいなければ承継
被相続人に法定相続人がいなければ、36条に従って内縁妻、事実上の養子が賃借権を承継します。
この場合、以下の注意点があります。
- 承継するのは、居住用建物の賃借権である。
ただし、小規模な事業・商売のための店舗として併用されていても承継の対象になるとされています。 - 被相続人が亡くなった時点において、婚姻、養子縁組をしていないが事実上夫婦、養親子として同居している者。
同居とは「生活の本拠地」を意味するので、一時的に療養等で当該建物から離れている場合も含まれる。 - 賃借権を承継しない意思表示をしていない。
死亡したことを知ってから1ヶ月以内に賃貸人に賃借権を承継しない旨の意思表示をすれば、賃借権契約は終了します。
まとめ
内縁関係にある配偶者、正式に縁組みをしていないが事実上の養親子関係にある子は、賃借権を当然には相続できません。
相続は相続人にのみ認められており、何十年も生活を共にしていても法律的に婚姻関係、養親子関係にない者に相続権は認められていません。
被相続人に法定相続人がいなければ、被相続人の賃借権を引き継ぐことができますが、いる場合は簡単ではありません。
例えば、相続人が賃借権を相続して、その賃借権によって内縁の妻が現在の住居に住み続けるとしても、賃貸人と居住者の間に賃借人としての相続人が入り、関係も複雑になってしまいます。
最善策としては、居住している内縁妻を賃借人として新たに賃貸借契約を結ぶことを賃貸人及び相続人に了承してもらうことになるかと思われます。
当事者間で交渉するのはハードルが高いでしょうから、まずは、弁護士にご相談することをおススメします。