故人が株式を所有している場合、当該株式は当然に相続の対象になります。
遺言書が無ければ相続人全員で協議して相続する者を決定します。
相続する株式が証券会社で管理され市場で売買されているような株式であれば、証券会社に名義を相続人に変更するよう申立することで手続は完了します。
その後は、そのまま保有することもできれば、売却して換金することも可能です。
では、故人が所有する株式が非上場株式の場合はどうなるか?
ここで説明する上場株式の相続は、故人が会社経営に全く関係ない状態で株式を保有しているケースであり、故人が会社経営者として株式を保有していて、その株式を事業と共に承継するケースは除外しています。
非上場株式の相続
故人が非上場の株式を保有している場合、その株式も相続の対象になるので、選択肢としては相続するか相続放棄するかになります。
相続放棄の場合、株式だけを放棄することはできず他の遺産全てを放棄することになるので、慎重に検討する必要があります。
遺産は全く相続するつもりはない、というのであればそのまま家庭裁判所にて相続放棄を手続をすれば株式を含めて他の遺産全部を相続することはなくなります。
そうでなく、株式も相続することを念頭に考えているのであれば、正式に相続する前に株式の評価額を算出して決めることをおススメします。
非上場株式の評価
非上場株式も相続税の対象になるので、株式の評価額を出さなければいけません。
評価額の計算方法がいくつかありますが、個人で計算するのは難しく専門的な知識が必要であり、会計士や税理士の先生に算出してもらうことになります。
算出された評価額が予想以上の高額であった場合に注意が必要です。
普通に考えれば、価値のある遺産を相続できるのはありがたいことですが、非上場株式については喜んではいられない状況になる場合もあります。
非上場株式に対する相続税は、その評価額がベースになります。
相続があったことを知ってから10か月以内に相税の申告をしなければいけないので、早急に評価額を算出しなければいけません。
非上場株式は市場価格がないので、会社の純資産、規模、類似業種との比較等々をベースに算出され、場合によっては評価額が予想以上に高額になる場合もあり、当然、相続税も高額になってしまいます。
土地に対して高額な相続税が発生した場合、一部を売却して相続税を支払う、または物納することも可能ですが、非上場株式は市場がないので売却することは簡単ではありません。
また、非上場株式の多くは譲渡制限株式(第三者に売却する場合は会社の承認が必要)であり、国税庁は、譲渡制限株式は物納に不適格な財産(管理処分不適格財産)としています。
売ることもできない株式を相続するために高額な相続税を準備しなければいけない、という深刻な問題が生じるおそれがあります。
非上場株式の処分
相続人としては、株式を相続しても当該会社には縁も興味もなければ、相続税を払うために手放したいと思うでしょう。
また、多くの会社は配当もないでしょうから経営に参加しない立場の人間にとっては、このような株式を相続して保有し続けたくないと考えるかもしれません。
このような場合、株式の処分を検討することになりますが、市場がないので簡単には処分できませんが、処分方法としては、第三者に売却するか、会社に買取ってもらうかが考えられます。
第三者に売却
市場価格のない株式を第三者に売却することは難しいです。
会社とは全く縁もない人が、比較的規模も小さく経営状態も詳細に把握していない会社の株式を欲しがることは考えにくく、売却額の合意はもちろん、取得しようとする人を探すこと自体がかなり難しいでしょう。
また、非上場株式の多くは譲渡制限株式なので、第三者に譲渡するにしても会社の承認が必要になります。
譲渡制限株式の会社(非公開株式会社)は、経営陣や株主が親族や知り合いであることが多く、知らない第三者が株式を取得して株主として株主総会に出現することを嫌う傾向があります。
どのような目的で非上場の株式を取得しようとしているのかも会社には分からないので、承認されないケースも多いです。
ただし、承認請求をする際、「譲渡の承認をしないなら会社(又は会社が指定する者)が買い取ってくれ」と買取請求できることが法律で認められています。
これを利用して処分することが考えられます。
買取請求のある承認請求に対して会社が承認しない場合、会社又は会社が指定する買取人が株式を買い取らなければならないことになっています。
買取価格は当事者間で協議して決定しますが、協議が整わない場合は会社又は承認請求者が裁判所に売買価格決定の申立てを行い、最終的には裁判で決めることになります。
他の株主に譲渡
譲渡制限株式でも、「当会社の株主に譲渡する場合には、承認をしたものとみなす。」というような規定を設け、他の株主へ譲渡する場合は会社の承認は不要としている会社もあります。
定款や登記簿で譲渡制限の内容を確認し、上記のような規定があれば、買取の意向の有無を他の株主に問合せし、買取交渉を進めるのも一つの方法です。
会社へ任意の買取請求
また、任意で経営陣(又は会社)に対して買取できないか打診して買い取ってもらう方法もあります。
相手が経営者個人であれば、相対取引による売買になります。
経営者としては買取により分散した議決権を集約することができ、自身の経営権を安定させることができるので、状況によっては協議に応じる可能性は十分にあります。
最大の懸案事項は株式の評価額、買取額になりますが、第三者(公認会計士や税理士)が算出した価格を基準にすることで、まとまりやすくなるでしょう。
経営者ではなく会社が株式を買取る方法もありますが、特定の株主から自己株式の買取るには基本的に株主総会特別決議が必要になります。
この場合、他の株主も同様の条件で買取るよう会社に要求することができるので、会社としては買取のための資金準備等ハードルが高くなり、また、分配可能額の範囲内でしか買取ることができないという制約もあります。
株式を売却した場合の課税
税金面の負担を無視することができません。
株式を売却に関しては、譲渡所得税やみなし配当課税があり高率課税されるおそれがあるので注意が必要です。
ただし、相続により取得した非上場株式をその発行会社に譲渡した場合(相続発生から3年10ヶ月以内に譲渡要)、課税に関して特例があるので、売却するにあたっては、事前に税理士の先生にも相談しておくことが必須になります。
まとめ
経営に参加しない、会社に興味がない、配当が一切ない、このような場合、相続人が非上場株式を相続しても、保有し続ける意味はないかもしれません。
その上、株式の評価額が以外に高くて相続税が高額になるようなことになれば、保有し続ける意思のない株式を処分(売却)したいと思うのも当然です。
会社に全く関係ない方に非上場株式を購入してもらうのは難しく、売却先としては他の既存の株主、経営陣、会社になります。
評価額の交渉、税金問題と懸念事項も多いので、専門家に相談しながら話しを進めていくことをおススメします。
このように非上場株式は相続財産としては、好ましいものでない場合が多いです。
保有者が生前中に処分すれば相続の対象とはならないので、ご本人やご家族で相談して事前に処分することも、相続対策になります。