お父さんが亡くなり相続人がお母さんと子供2人(A、B)の場合、遺言書が無ければ3人で父の遺産の分割方法を協議して決めることになります。
この時、子供2人が将来生じるであろうお母さんの相続に関して何らかの取決めをして、それをもとにお父さんの遺産分割をする、というようなことができるか?
例えば、父母が住む家は母が相続し、母が亡くなったときはBが家を相続することをAB間で話し合って決め、それを条件に家以外の父の遺産はAが相続する、とした場合、このような取決めは有効かどうかを検討します。
当事者間の協議
上記のような特定の相続人間における協議は、めずらしい事ではありません。
子供間で話し合って、父と母の財産全体を見て、できるだけ公平に割り振りすることを考え、父の遺産はAへ、将来生じる母の遺産はBへ、とすることもあります。
ただし、父の相続時に相続人である母を除外して子供だけで何らかの取決めをしても、それは遺産分割協議にはなりません。
父に関する遺産分割協議にはなりませんし、存命中である母の遺産分割協議にもなりません。
子供間の約束事になります。
母の相続において、この約束が守られれば問題ありませんが、仮にAが父の相続と母の相続は別問題として、母の相続人として法定相続分を主張されてしまうと厄介な事になってしまいます。
母に自分の遺産は全部Bに相続させるという遺言書を作成してもらっても、母の遺産の4分の1を遺留分としてAから請求されてしまう可能性もあります。
対応策
対応策として、父の遺産分割協議書に父の遺産をAが相続するのは将来生じる母の遺産はBが相続することが条件であることを明記します。
これにより、母の相続が生じた時にBが遺産全部取得することにAが応じない場合、Bが相続することを条件とした父の遺産分割協議を解除、又は無効であり取消すと主張すことができます。※1
ここで注意すべきは、あくまでも父の相続のやり直しであり、母の相続でBが全部を相続すると主張することは難しいです。
遺産分割協議に加えて母には、Bに自分の財産全部を相続させる旨の遺言書を作成してもらっておきます(死因贈与契約も可)。
父の遺産分割協議が調う前に作成し、父の遺産はAが全部相続することになったので自分(母)の財産は全部Bに相続させる等の内容を書いておくのが良いでしょう。
可能であれば、この時点でAに母に対する遺留分放棄の手続きをしてもらうことも求めます。
以上が対策となりますが、完璧な対策とは言えない点もあり、約束をほごにされると面倒なことになってしまいます。
家族間、兄弟姉妹間の仲が良く、相続においても当初の取決めとおり問題なく終わることも多々ありますが、それぞれを取り巻く状況の変化とともに心境も変化することがあります。
遺産分割協議の取消し、遺留分請求となると、当事者間だけでは解決できず、調停や裁判になってしまうおそれも高く、そうなってしまうと時間もお金もかかり、精神的に負担も大きくなります。
できれば、父の相続、母の相続、それぞれ単独で完結できるようにした方が良いでしょう。
※1.ただし、父の死亡後から母が亡くなるまで長期間経過している場合、父の遺産分割協議を解除してもBが法定相続分を取得できるかは父の遺産がどのくらい残っているか、A独自の財産がどのくらいあるかで変わってきます。
参考文献:相続・遺言の落とし穴(新日本法規)