成人している子が親と同居している場合、親が子どもから家賃をとることはあまりありません。
子が複数人にいて、例えば、長女が長年親と同居しており、次女は独立して自分で部屋を借りて住んでいるような状況で親が亡くなり相続をするとき、長女の家賃のことが問題になることがあります。
次女としては、自分は家賃を払っているのに長女が無償で親の家に住み続けていることに対して不公平感を感じるかもしれません。
この不公平感から、相続のときに長女が無償で住んでいた期間の賃料相当額を計算して、その分を長女の相続分から差し引くべき、と次女から主張されることがあります。
この場合、無償で親の家に住んでいたことについてどう処理するか、次女の主張は認められるかについて解説します。
同居の子の家賃の扱い
親と同居していない子が、相続において同居している子が支払っていない家賃を特別受益として問題にすることがあります。
例えば、10年間、次女は親から全く家賃の援助を受けていないのに、長女はその周辺の相場から見て月5万円くらいの賃料を全く払ってなく600万円もの支出を親によって免れている。
この浮いた家賃分の600万円は、親から長女への実質的な贈与(特別受益)だから長女の相続分から引かれるべき、と主張されることがありますし、実際にそのような裁判もあります。
次女の心情は分からなくもないですが、その主張は以下の理由から認められることなないでしょう。
特別受益に該当しない
子は親の家に居住していますが、1人で住んでいるのではなく親と同居しています。
家の占有者は親で子は占有補助者に過ぎず、独立の占有権原はないので受益には該当しない、と判断した審判があります。
あくまでも補助者なので、家を自由に使える立場ではなく、同居による精神的な負担も考えられます。
また、親の財産から金銭が実際に長女に渡されたわけでもありません。
長女が受けたとする600万円の賃料相当額は、親から実際に渡されたわけではありません。
あくまでも数字上の問題であり、長女が同居していなければ他の第三者が住んで同額の賃料を払っていて親の財産が増えていた、とも言えません。
もちろん、いろいろなケースがあるでしょうから、絶対に特別受益にはならないとは断言できませんが、非常に難しいと言えます。
子のみで居住していたら
親との同居ではなく、親名義の家に子供1人(又は子供家族のみ)で住んでいたらどうか。
先に述べた、自由に使えない、同居による精神的負担がありません。
このような場合、特別受益に該当しそうですが、そう簡単ではありません。
賃貸物を無償で借りることを使用借権(使用貸借)と言います。
この場合、親と子の間に使用貸借が成立していると見ることができ、賃料そのものが発生しないことになります。
また、賃料ではなく使用借権を親が子へ与えたことが特別受益ではないかと主張されることもあります。
この場合、特別受益の額として使用借権の価値を当該不動産の価値から算定するようなことになりますが、そのような複雑なことはせずに現実的には、不動産から使用借権相当額を引かず、特別受益も認めない、つまり、子供が無償で住んでいることは相続に影響しない、ということになる可能性が高いです。
仮に特別受益があったとしても、親が子に無償で住まわせる行為は特別受益の持ち戻しの免除の意思表示とみられることになる場合が多いです。
収益不動産は別
親がアパートやマンションを所有していて、その1室を子に無償で住まわせているようなケースは事情が変わってきます。
賃料相当額が特別受益に該当する可能性が出てきます。
この場合、そこに相続人が住まなければ第三者に貸すことができ、その分の賃料収入を得られ財産が増えているはずなのに、無償で相続人を住まわせたことにより財産が増えず、賃料を払っていない分相続人の財産が減らずに済んだと見ることもできるので、特別受益が認められる可能性が出てきます。
戸建でも、完全2世帯住宅のような場合も対象になり得ます。