根抵当権継続

根抵当権付不動産の相続

相続財産に根抵当権が設定されている不動産がある場合、相続手続きをする際に注意すべきポイントがあります。

完済していて借入金が無ければ問題ありませんが、借入残高がある場合は相続に関して根抵当権特有の手続きが必要になります。

父A名義のビル(根抵当権設定者兼債務者A 借入残金2000万円)があり、相続人は母B、長男C、長女Dのケースで検討します。

相続手続き

根抵当権付不動産については、不動産の相続と根抵当権の相続の2っの相続手続きを行います。

相続人全員で協議して、父名義のビルは仕事を引き継いでいる長男Cが相続し、それに伴って父の債務者としての地位を引き継ぎ、借入残金2000万円もCが単独で引き受ける、と決めた場合の手続きについて説明します。

不動産の相続

相続人全員で遺産分割協議を行い、ビルは長男Cが取得する旨の遺産分割協議書を作成して相続登記をします。

この場合、遺産分割協議書に、条件として「債務は全額長男Cが引き受ける」ことも記載しておくことが大切です。

債務の相続

既に元本が確定している場合は、抵当権と同じような手続きになりますが、確定していない場合は根抵当権特有の手続きが必要になります。

今回のケースのように長男Cが債務の全額を引き受け、更に債務者として父の地位を引き継いで既存の根抵当権を利用して借入・返済を行っていくには、以下の事をしなければいけません。

債務者の変更

債務の相続は、相続人間で長男Cが全部引き受けると決めても、基本的に債務は相続人全員が法定相続分を相続することになります。

よって、「債務者 A」となっているのを相続を原因として「債務者 B、C、D」とする変更登記をします。

指定債務者の登記

続いて、長男Cが単独で債務者の地位を引き継ぐことを相続人間で決めます。

地位を引き継ぐ債務者のことを「指定債務者」と言います。

そして、根抵当権者とCが指定債務者となることで合意し、その旨の登記を共同申請します。

この2っの登記により、当該根抵当権はB、C、Dが相続したAの債務と相続後にCが指定債務者となって根抵当権者との間の生じる債権債務が担保されることになります。

※この指定債務者の合意の登記を相続が発生してから6ヶ月以内にしないと、根抵当権の元本が確定しこの登記ができなくなります。

免責的債務引受

次に、BとDの債務をCが単独で引受ける手続きをします。

これを免責的債務引受と言い、BとDは債務の返済義務から免責されます。
※対して、「重畳的債務引受」は、B及びDはCと共に連帯して債務を負うことを意味します。

債務者変更登記

免責的債務引受でBとDは債務者から離脱したので、債務者をCとする変更登記をします。

債権の範囲の変更登記

債務者をCに変更すると、当該根抵当権の担保範囲はCと根抵当権者間で生じた債権債務に限定されるので、B及びDから引受けた債務とCがAから相続した債務が担保されなくなります。

そこで、これらが既存の根抵当権で担保されるように、以下の2っを債権の範囲(※1)に追加する変更登記をします。

年月日債務引受(旧債務者B、D)にかかる債権
年月日相続によるCの相続債務のうち変更前根抵当権の被担保債権の範囲に属するものにかかる債権

債務者変更と債権の範囲の変更登記は一つの申請で行います。

※1.根抵当権を設定登記する際、当該根抵当権が担保する範囲を登記します。
登記された範囲外で生じた債権は担保されません。

まとめ

債務者が亡くなってから6ヶ月間何もしなければ、自動的に根抵当権はAが亡くなった時点の債権を元本として確定します。

確定してしまうと既存の根抵当権を利用して新たな借入ができなくなります。

しかし、Aが事業をしていてCが後を継いでいるような場合、Cは引き続き既存の根抵当権を利用して取引(借入)の継続を希望することも多いです。

継続するには、相続や債務引受で既存の債権が担保から外れることがないように上記で説明したような複雑な手続きが必要になります。

根抵当権の債務者に相続が発生した場合は、司法書士にご相談ください。