夫が亡くなり、一緒に住んでいた家を終の棲家として妻が相続するために夫の名義から自分名義にする相続登記をする。
子供たちはすでに独立してそれぞれに家庭を持っているので、自分が今住んでいる家を1人で相続することに反対しないだろう。
手続きに必要なので独立している子供たちにその旨を話して遺産分割協議書に実印の押印と印鑑証明書を求めたら、子供の1人から予想に反して強く反発されてしまった。
このような状況は珍しいことではありません。
お子さんたちも独立してそれぞれに生活をしていろいろな問題を抱えており、親が思っているようにはいかないこともあります。
では、この場合はどうするか、どのような対処方法があるか?
遺産分割は相続人全員で
遺言書があれば、その内容に従って手続きを進めればよいのですが、なければ相続人全員で協議して決めなければいけません。
親といえども子供の意思を無視して1人で決めることはできません。
この場合、考えられる対処方法としては以下の3つがあります。
- 家族間で納得いくまで話し合って決める。
- 家庭裁判所に遺産分割調停の申立をする。
- 弁護士に依頼する。
家族間での話し合い
一番の良いは、当事者である家族同士で話し合って決めることです。
反対する理由をじっくり聞きましょう。
感情のもつれで会話ができなくなっていれば、無理やりあっては話してもなかなかまともに話はできないでしょうから、手紙を送ることも考えましょう。
通常、先に述べた事例(母と子供たちが相続人で、父名義の家を母が単独で相続する)で子供が反対する理由としては、父に対する自分の相続分がないことだと思われます。
母親としては、自分が家を相続してもいずれは子供たちが相続することになるので一緒だろう、と思われるかもしれません。
しかし、反対している子は、「いずれ」ではなく「今」を問題にしているので、まとめるのは簡単ではありません。
相続人が母A、子B、Cで、Bが反対している場合、反対の理由が自分の相続分(4分の1)がないことであれば、4分の1に相当する金銭の供与(代償分割)や家の4分の1を持ち分として与えることを提案してみるのもよいかと思います。
ただし、共有にした場合、Bが主張するかしないかは別として、「4分の1は私のものだからその分の賃料を払ってほしい」「共有物分割を請求をするので、4分の1相当の金銭で持ち分を買い取ってほしい、でないと第三者の持ち分を売却する」と主張できる状況になります。
このような心配がないのであれば共有として相続するのもよいですが、相当額が準備できるので金銭を供与する方がよいかと思います。
遺産分割調停
当事者間で話し合いがつかないような場合は、第三者に解決をお願いします。
当事者間に埋めがたい決定的な溝ができる前にお願いしましょう。
調停の段階では裁判官は表に出ず、調停委員が当事者の間に入ってそれぞれの言い分を聞いて調整を図ってくれます。
費用も被相続人1人につき収入印紙1200円分と数千円程度の切手代で済みます。
申立先は相手方のうちの1人の住所地を管轄する家庭裁判所になります。
上記事例ですと、BかCの住所地を管轄する家庭裁判所になります。
ただし、調停は当事者の合意が必要なので、合意できない場合は審判に移行することになります。
審判は裁判と同様で裁判官が事案について決定(判決)を出します。
その決定に不服であれば控訴となり、争いは続くことになります。
弁護士に依頼
当事者が代理人をたてて相手と交渉、話をまとめようとする場合、弁護士に依頼することになります。
司法書士は協議がまとまった後に、協議の内容に従って手続きを進めることはできますが、まとめることに介入することはできません。
相談にいらした方から相手に応じるように話してもらえないかと言われることがありますが、司法書士は家事紛争に介入して調整することはできません。
まとめ
普段、仲の良い親子関係でも相続のように財産が絡むと、それぞれの抱えている背景により意見がまとまらないことがあります。
「互いに歩み寄る」よく言われることですが、それができれば紛争にはなりません。
考えが対立している状態で互いに意見を押し通し続ければ決裂しかありません。
まずは家族間で十分話し合って、ダメであれば溝が深くならないうちに早めに第三者に解決を依頼しましょう。