特別受益の内容
相続手続きの中で、故人の相続人への生前贈与が問題になることがあります。
特定の相続人が何等かの財産を故人から生前のもらっている場合、それを特別受益として遺産分割に反映することが認められています。
贈与されるものとしては、お金であったり、土地や建物であったりすることが多いかと思います。
では、特別受益を計算する上で「お金」を贈与された場合と「不動産」を贈与された場合で違いはあるか?
現金1,000万円の贈与と1,000万円相当の土地の贈与で違いはあるか?
これが問題になりますが、違いはあります。
場合によっては、相続時の計算で大きな差が生じることがあります。
ここでは、この違いについて解説します。
特別受益額の基準
故人の生前中に何らかの財物を贈与された場合、それを遺産分割時に特別受益額として反映させる額は「相続時」の価値となります。
よって、金銭であればもらったお金の相続時の貨幣価値、不動産であればもらった不動産の相続時の価値が特別受益額となります。
金銭での特別受益
生前に1,000万円もらったから、1,000万円が特別受益額になるのではなく、故人が亡くなった「相続時」の貨幣価値、つまり、当時もらった1,000万円の「相続時」(故人が亡くなった時)の価値になります。
お金の場合、総務省統計等の数値である消費者物価指数等を利用して、当時もらったお金を現在の貨幣価値に換算します。
もらったのが2,3年前であればほとんど変わらないでしょうが、20年、30年前となると変わってきます。
例えば、昭和45年に1,000万円の金銭贈与を受け、平成22年に故人が亡くなっている場合、1,000万円は3,067万円の価値に換算されます。
約3倍ですね。
相続の際、3,067万円他の相続人より多くもらっているので、その分が取得する遺産から引かれることになります。
多いように感じますが、贈与から亡くなるまで40年も経っていますので、このように大きな額になっています。
不動産での特別受益
不動産も同様に「相続時」の価値が特別受益額になります。
当時1,000万円相当の親名義の土地の贈与を受けた場合、特別受益額は親が亡くなった時の土地の価値になるので、不動産市況に大きく影響されることになります。
バブルがはじけて以降、土地の価格は下がり続けていましたが、ここ最近は多くの都市で値上がりしています。
再開発によって土地の価格が急騰しているような場合は、短期間でもらった当時の価値からかなり上がっているようなこともあるでしょう。
土地を保有し続けていたら、当該土地が急騰していてもその価値の土地を保有しているので、その額が特別受益となることに抵抗感はあまりないかもしれません。
しかし、土地の贈与を受けた後に、当該土地を既に売却していた場合はどうなるか。
この場合、売った額ではなく、やはり当該土地の「相続時」の価値になります。
もらった後に急騰して売却し、相続時には暴落しているような場合、暴落した価値が受益額になるので受益者に有利になります。
逆に、売却した後に急騰していたら、実際には手にしていないですが急騰した額が受益額になってしまいます。
まとめ
金銭か不動産か、どちらの形で贈与を受けるのが有利かは一概に言えません。
消費者物価指数は現在上昇傾向にありますが、短期間で大きく上がるということはあまりないでしょう。
不動産でも建物であれば、時間の経過とともに老朽化により価値は下がる方向にいくでしょう。
特別受益が問題になりそうであれば、建物でもらった方がよいとも考えられますが、老朽化した建物の価値をどう判断するか、長年経た建物を価値ゼロとし、受益もゼロと主張できるかは、議論の余地がありところです。
以上述べたことを念頭に、それそれの事情・環境に応じて判断することになります。
参考・引用)相続・遺言の落とし穴(新日本法規)