離婚による財産分与
離婚する際、結婚後に得た財産は基本的に夫婦共有財産として財産分与の対象となります。
どのように財産を夫婦間で分配するかは、基本的には協議で、協議でまとまらない場合は調停、審判、裁判で決めてもらうことになります。
ここでは、離婚による財産分与で不動産を現在の名義人から他方へ名義変更する手続きについてご説明します。
協議による財産分与
当事者間で離婚する際の取り決め事項を文書にしておくことが重要です。
離婚協議書に財産分与として家は一方が取得し、居住し続ける旨の内容を記載します。
離婚にともなって家の名義変更をする場合、多くは夫名義の家を妻の名義にすることが多いでしょう。
妻はそのまま今の家に、夫が家を出るパターンで、家の名義を夫から妻へ変更する手続きが必要になります。
この場合の名義変更の登記申請は、共同申請になります。
つまり、夫の実印、印鑑証明書、家の権利証(登記識情報又は登記済証)が必要になります。
リスクとしては、合意後に夫が、名義変更手続きに非協力的なり、手続きができなくなることが考えられます。
この場合、訴訟を提起して裁判所に手続きをするように判決してもらいますが、お金も時間もかかってしまいます。
相手が協力的で名義変更手続きも問題なくできればよいのですが、協議の段階でもめていて合意後もすんなりいかないかも、と思われる場合、協議の内容に法的効力を強める意味で公正証書による作成をおススメします。
第三者である公証人が作成するので、あとで訴訟になった場合、公正証書が強い証拠能力を発揮します。
調停・審判・裁判による財産分与
当事者間でまとまらない場合、家庭裁判所に申し立てます。
調停により合意できれば調停調書で、調停で合意できなければ審判に移行し裁判官の決定によって決めます。
審判による決定に不服があれば、2週間以内に異議を申し立をして上級裁判所で裁判が継続することになります。
調停調書や審判の決定書、判決書は、裁判所によるものなので公正証書より強い効力を持っています。
協議による財産分与での名義変更手続きは共同申請になりますが、調停調書、決定書、判決書にもとづく名義変更手続きは、名義変更を受ける妻が単独で申請できます。
夫の協力は必要ありません。
ただし、審判や裁判に関しては、その内容が確定(上級の裁判所で争われていない)している必要があるので、手続きには「確定証明書」が必要です(裁判所からもらう)。
記載内容が重要
単独で申請するには、調停調書や審判書、判決書に名義変更手続きをすることが明確に記載されている必要があります。
調書や決定書、判決書には、夫名義である○○を妻に財産分与として渡すことが記載されていますが、「年月日財産分与を原因として所有権移転登記手続きをする(手続きをせよ)」と記載されていることが重要です。
「妻が家を取得する」という文言だけでは、判決書といえども単独申請することができないので注意が必要です。
手続きでの注意ポイント
名義変更手続きをする際、事前に別の手続きや金融機関との調整等が必要になる場合があります。
夫の住所
離婚の協議中に夫婦は既に別居状態になっていていることも少なく、夫は別居先に住所移転していることも多いです。
家の登記簿には、所有者の夫の名前と住所が記載されますが、住所は家の住所が記載されています。
所有者である夫が妻へ名義変更する前にその住所別居先に変更しているので、その変更を登記に反映させなければいけません。
この場合、移転登記をする前に夫の住所変更登記が必要になります。
本来、住所変更申請は本人(夫)が申請するもですが、名義変更登記の前提としての住所変更登記なので、妻が単独で申請(代位申請)することができます。
ただし、申請には夫の住民票が必要なので、夫に取得してもらってもらわなければいけません。
※司法書士に依頼された場合、職権で夫の住民票を取得することができます。
住宅ローンが残っている
住宅ローンが残っている場合、名義を妻に変更する上で残債をどうするかが問題になります。
名義変更する際に、財産分与の際に夫が残債を一括で返済すれば、抵当権を抹消して移転登記することができます。
また、妻が残債を一括返済することで抵当権を抹消することもできます。
このように、財産分与の際に一括返済できれば良いのですが、残債はそのままで分割返済を継続する場合は問題があります。
名義変更手続き自体はローン会社の承認がなくてもできますが、通常、ローン会社との契約書には所有権移転登記をする際はローン会社の承認が必要と規定されおり、契約に違反すると残債の一括返済を求められるおそれがあります。
よって、残債がある状態で名義を変更する場合、事前に抵当権者であるローン会社と相談することが必要です。
特に、債務者をどうするか、誰が返済するかが問題になります。
夫は家出て行くが債務者は夫のままにして引き続き夫が返済していく、又は債務者を妻に変更して妻が返済していくということが考えられますが、いずれもローン会社の承諾を得るのは簡単ではありません。
妻が債務者になるには、妻の経済力が審査されることになり、残債額が大きければそれだけ大きな経済力が求められます。
また、新たな保証人を求められることもあります。
ローン残高が僅かであれば交渉しやすいでしょうが、多くが残っている場合は難しくなります。
既存のローン会社との交渉がうまくいかない場合は、他の金融機関からの借り換えも検討しなければいけないでしょう。
財産分与による移転登記のタイミング
離婚に伴い不動産を財産分与する場合、「〇年〇月〇日財産分与」を原因として所有権移転(名義変更)が登記されます。
原因日付である「〇年〇月〇日」に所有権は夫から妻に移転したことになりますが、この日付を決めるのに2っのケースがあります。
離婚を前提に協議や調停、審判等を行い、財産分与の内容が決まった後に離婚届を提出した場合、離婚届提出日が原因日付になります。
離婚届提出後に協議や調停等により財産分与が決まった場合、合意した日、審判・判決が確定した日が原因日付となります。※財産分与は、離婚後2年以内であれば請求できます。
離婚前の協議で財産分与で家を取得することになった側が、離婚届を出す前に協議書や調停調書等に基づいて移転登記できないかとの相談を受けることがあります。
離婚におよぶ状態になっているので、分与が決まった後何があるか不安なので急いで自分名義に変更したいとの思いは理解できますが、財産分与は離婚に伴うものなので、離婚届前に合意書や決定書で名義変更することはできません。
離婚届を出す日が決まったら事前に司法書士に連絡をすることで、届出提出日と同日に移転申請をする、ということは可能です。