家庭裁判所

遺言書がない場合の相続手続きは、相続人全員で行います。

まず、全員で遺産分割協議をして、遺産をどのように分割、分配するかを全員で決めなければいけません。

相続手続きに非協力的な相続人

遺産分割協議の決定過程に相続人に内1人でも欠いていたら、当該遺産分割協議は無効になりますし、法務局(相続登記)や金融機関等で手続きができません。

相続人全員が協力して手続きをしなければいけないのですが、中には話しをしたくない、かかわりたくない等で手続きに非協力的であったり、遠距離に住んでいていなかなか集まることができない等々で手続きが進まないことがあります。

かかわりたくないのであれば、相続放棄してくれればその方抜きで手続きをすすめることができるのですが、そうでなければ無視して進めることもできません。

ここでは、このような場合にどう対応するかについてご説明します。

相続分の放棄・譲渡

相続手続きを長期間放置していて法定相続人の数が多数になってしまった場合、一堂に会して協議をすることは難しくなります。

ただ、通知されるまで自分が相続人になっていることを知らない方も多く、相続自体に関心がない、関わりたくない、という方もおられます。

この場合、相続放棄してもらえれば一番簡単なんですが、相続放棄は本人による家庭裁判所への申立てが必要であり、自分で申立をするのも簡単ではなく司法書士に依頼すれば数万円の費用がかかってしまいます。

相続権を主張されいない方で相続放棄をお願いできない(期待できない)場合は、相続放棄よりは簡単にできる「相続分の放棄」「相続分の譲渡」をお願いしてみるのも一つの方法です。

「相続分の放棄」「相続分の譲渡」をした相続人は、遺産分割協議に参加する必要がなくなります。

相続分の放棄

「相続分の放棄」とは、特定の相続人が自身の相続分の取得を放棄することを指します。

「相続放棄」と違って家庭裁判所の手続きは必要なく、相続放棄する旨を記載した相続放棄書を作成することで当該相続人抜きで遺産分割協議ができるようになります。

ただし、放棄書が放棄者の意思によって作成されたことを証するため、放棄書に実印による押印、及び印鑑証明書が必要になります。

相続分の譲渡

「相続分の譲渡」とは、自分の法定相続分を特定の相続人に譲渡することで、その旨を記載した相続分譲渡証書を作成することで当該相続人は遺産分割協議に参加する必要がなくなります。

この証書にも当然実印による押印、印鑑証明書が必要です。

相続分の放棄・譲渡の注意点

相続分の放棄・譲渡は、負の遺産について第三者に効果はありません。
負の遺産があったり、後から判明した場合、放棄・譲渡しても法定相続割合に従って負債を相続することになります。
この点を曖昧にしたまま相続分の放棄・譲渡を依頼すると、負の遺産があった場合に大きな問題になります。

相続した者が全額返済できれば良いですが、そうでない場合は放棄・譲渡した者も返済を請求されることになります。

遺産分割調停の申立

協力を得られない場合は、家庭裁判所にお願いすることになります。

家庭裁判所に遺産分割調停の申立をしますが、申立先は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所になります。

調停の申立は、相続人のうちの1人もしくは何人かが他の相続人全員を相手方とするので、調停には相続人全員が申立人か相手方として関与することになります。※1

非協力者Aが遠方にいて協力者Bが近くにいる場合、A、Bを相手方としてBの住所地管轄の家庭裁判所に申立てをすれば、申立人にとって便利ではあります。※2

しかし、そもそも非協力的な者が遠い場所にある家庭裁判所に調停のために何度も来ることはあまり期待できません。

それを考慮すると、不便ではありますが(※3)、非協力者の住所地管轄の家庭裁判所に申立てることの検討も必要でしょう。

※1.基本的に全員が家庭裁判所に赴き調停の協議に参加することになりますが、調停条項案に合意する旨の受諾書面を提出すれば、その者は調停に参加しなくても調停が成立することができます。

※2.裁判官の職権で非協力者住所地管轄の家庭裁判所に移送される場合もあります。

※3.裁判所の許可があれば、管轄裁判所まで行かずに電話会議で参加することができます。

調停不調

調停は当事者間の合意により成立するものなので、合意に至らず調停不調だったり、一部の相続人が調停の場に現れなかったような場合、出席している者だけで調停が成立することはありません。

その場合、自動的に審判に移行し、審理の上、裁判官が決定をくだします。

審判は裁判と同様に当事者が審判の場に出なくても決定を出すことができます。

決定の内容に不服があれば、抗告し上級の高等裁判所で更に争うことになります。