Aさん所有の土地をBさんが購入しBさんが新たな所有者になると、当該土地の名義変更手続きをします。
「所有権移転登記申請」といい、当該土地の所有権がAさんからBさんに移転したので、新たな所有者としてBさんが登記簿に記録されることになります。
しかし、中には「所有権移転仮登記」と記録されている登記簿もあります。
父が亡くなり土地の相続登記をするために初めて登記簿を見たら、「所有権移転仮登記」というものが記録されていた、なんてこともあります。
所有権に関するものだけではありません。
「抵当権設定仮登記」なんてものもあります。
「仮」って何?
仮の登記に何か効力があるの?
仮登記の意味
まず、「仮登記」のみの状態で何かに影響するということはありません。
登記簿に記録されている「所有権移転仮登記」の権利者が、所有者に対してここは私の土地だ、土地を渡せ、使わせろ、というような主張はできません。
その点は、あくまでも「仮」なので、実体的な力はありません。
なんだ、力がないなら無視していいのか、、、というと、そうではありません。
民法177条に「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と規定されています。
条文に記載されている「登記をしなければ、第三者に対抗することができない」という部分が重要になります。
「第三者」とは、当事者以外の者を指します。
不動産売買で言えば、売り手、買い手は当事者になり、それ以外の者が第三者(除外者あり)になります。
「対抗できない」とは、自分の権利を主張できない、ということを意味します。
対抗できないとは
対抗できない=自分の権利を主張できない?
持ち主(X)から私(A)が直接買ったんだから、私の土地ですよ、と言えばいいだけででしょ、と思われるかもしれません。
しかし、もしかしたら当該土地にはいろんな人が関係しているかもしれません。
例えば、以下のようなケースがあるかもしれません。
- XがBから当該土地を担保にお金を借りていた。
- XがCから借金の返済を滞納し訴訟を起こされていて敗訴していた。
- XがAに売った直後Dにも同じ土地を売っていた。等々
Bさんには当該土地に抵当権を設定する権利があります。
Cさんには、借金返済のために当該土地を差押えできる権利があります。
Dさんには、Aさんと同様に当該土地の所有権の権利があります。
上記のどれも、Aさんの当該土地の所有権に大きく影響します。
特にDさんの権利とは真っ向対立で、どちらかが所有権そのものを失うことになります。
もし、B、C、Dさんが自分の権利をAさんに主張してきたら、Aさんが登記をしていなければ「この土地の所有者は私です」という主張ができない、とういうことになります。
もちろん、B、C、Dさんも当該土地に自分の権利を登記していなければ、Aさんに自分の権利を主張できないのは同様です。
この場合どうなるか?
「登記をしなければ、第三者に対抗することができない」ということは、「登記をすれば、第三者に対抗することができる」ということになります。
先に登記した者が勝つ。
Aさんが、先に所有権移転登記をすればB、C、Dさんを退けることができます。
もし、B、C、Dさんに先に登記されてしまったら、AさはBさんの抵当権付の土地の所有者に、Cさんの差押えの登記がある土地の所有者に、Dさんに先にされたら登記自体ができなくなります。
仮登記は順位の確保
なぜ仮登記するか。
それは、順位の確保にあります。
XからAさんが土地を取得したら、権利確保のためにすぐに所有権移転登記をすべきですが、何らかの事情ですぐに移転登記ができない場合もあります。
移転登記するための書類が揃わなかったり、移転することは当事者間で決めていても何らかの条件がありその条件が成就するのを待たなければいけなかったり等々いろいろな理由ですぐに名義変更のための移転登記ができない事情がある場合があります。
すべてが整ってから移転登記をするようにすると、その間に第三者に何らかの登記がされてしまうおそれがあります。
そこで、順位を確保するために「仮登記」をしておくことになります。
※どんな事由でも仮登記できるわけではありません。
上記の例でいうと、Aさんが「仮登記」をして順位を確保しておくと、その後にBさんが抵当権設定の登記をしても、その後にAさんが「仮登記」をベースに通常の移転登記をすれば(仮登記の本登記と言います)、Bさんの抵当権は効力を失います。
このように「仮登記」は、「仮」なので登記に何か実体的な効力を持つもにではありませんが、順位の確保により仮登記に基づいて本登記された場合に大きな効力を発揮することになります。
よって、「仮」であっても、あなどったり、無視したりすることは危険です。