
賃料トラブル
アパートやマンション、テナントにおいて、周りの環境等により時として賃貸人から賃料増額の要求があったりします。
賃貸人側としては、固定資産税や維持管理費用の上昇や周辺の家賃相場を考慮して賃料の増額が必要として考えているので、賃借人が承知できませんと回答してもそれで話しは終わらないでしょう。
逆に、賃料が高いので減額して欲しいと賃借人が請求する場合もあります。
借地借家法で賃借人の立場は守られているので、現行の賃料がイヤなら賃貸借契約を解除するので出て行ってくれと、一方的に賃貸人が主張することはできません。
退去時の原状回復に関するようなトラブルであれば、賃貸借契約は解消され賃貸人と賃借人としての関係は消滅するので最悪訴訟までいっても関係性としては問題ないかもしれません。
しかし、賃料の増額問題は、賃貸借契約を維持しながらトラブルを解消しなければいけないので、訴訟でどちらかが勝つというより互いに譲歩することで合意点を見出すことで解決する和解等が望ましいと言えます。
賃料増減額問題
賃貸借の賃料に関して、借地借家法では「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。ただし、一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う。」と規定されています。
この条文にあるように、賃料の増減請求は権利として認められています。
請求する前提として、税金や土地・建物価格、近傍の賃料があげられていますので、請求するにしてもこれらの事情が必要になります。
何の根拠もなく賃料をあげたい、売上が悪いから賃料を下げて欲しい、というような理由であれあば、当事者間で合意すれば問題ないですが、調停や裁判においては認められることは難しいでしょう。
賃料増減問題は賃貸借契約継続を前提としているので、出来る限り当事者間の話し合いで決めるようにしましょう。
当事者間で協議が整わないからといって、すぐに訴訟を起こして白黒ハッキリさせるとどちらかに遺恨を残すおそれもあり、その後も続く賃貸人と賃借人間で良好な関係を築くことが難しくなってしまいます。
そこで、賃料増減紛争に関してはいきなり訴訟ではなく、まず、調停手続きによって問題解決が図られるようになっています(調停前置主義)。
調停の手続きなしに訴訟を提起しても、基本的に裁判所は当該事件を調停に回すことになります。
調停手続き
賃料増減に関する調停は、建物の所在地を管轄する簡易裁判所、又は当事者間の合意による地方裁判所に申立をします。
調停においては、調停委員が調整役として両者の意見を聴きながら互いが合意できる妥協点を探ります。
当事者間で直接意見を言い合うのではなく経験豊富な調停委員が間に入ることで協議も進めやすく、裁判所も不動産に詳しい調停委員(不動産鑑定士等)を選任する等の配慮もあったりするので、まとまるケースは少なくありません。
しかし、調停で合意できなかった場合は、当事者により訴訟を提起して裁判で決着をつけることになります。
※適正賃料は、多くは不動産鑑定士に算出させることになり、その分の費用負担が生じます。
調停手続きは、ご自身でもできます。
裁判と違い調停委員がいるので、分からないことがあれば調停委員に聞きながら手続きを進めることができます。
ただし、より専門的な主張をしたいと思われるのであれば、弁護士や認定司法書士に依頼するのが良いでしょう。
供託
賃貸人の賃料増額請求に対して承諾していない賃借人が従前の賃料を提供、又は賃借人が賃料減額請求して減額した賃料を提供した場合、賃貸人が受け取ってくれない場合もあります。
受け取ってくれないからとその状態を放置すると、賃料を滞納していることになってしまいます。
そこで、賃借人は自分が考える相当額を法務局に供託(法務局に預かってもらう)することができます。
供託することで賃料支払い義務は履行されたことになります。
但し、供託した賃料が適正賃料として法的に有効となるわけではないので、後に新たな賃料が合意されれば、差額に1割の利息(※1)をつけて相手に支払う必要があります。
よって、合意される賃料を考慮した上で差額ができる限り小さくなるように供託することが大切になります。
紛争が長引き賃料の供託期間が長くなると、差額が大きければ利息の負担も大きくなるので注意が必要です。
※借地借家法32条2項「建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年一割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない。」
3項「建物の借賃の減額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、減額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃の支払を請求することができる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払を受けた額が正当とされた建物の借賃の額を超えるときは、その超過額に年一割の割合による受領の時からの利息を付してこれを返還しなければならない。」