
「明日から来なくていい」「今月一杯で辞めてください」と言われたら。
突然、解雇を言い渡された従業員は諦めるしかないか、とそのまま受け入れますか?
売上が落ちて従業員を削減しないと会社をやっていけない、という切実な事情もあれば、単に気に入らない、自分のも思う通りに働いていない、というような曖昧な理由の場合もあります。
解雇を言い渡す側にもいろいろと事情があるでしょうが、収入が無くなってしまう解雇される側の生活への影響は甚大です。
このような状況になってしまった場合、どのように対応したら良いのかについて検討します。
法律と解雇
雇用主から一方的に言い渡される解雇(労働契約の終了)は、雇用主の都合で自由にいつでもできるわけではありません。
解雇は従業員の生活に大きく影響することなので、解雇するにしても法律で規定されている要件に該当していることが必要で、要件に該当していないと判断される場合は解雇無効となる可能性もあります。
また、解雇するにしても解雇される側の影響を鑑みて金銭的補償が必要になります。
解雇の制限事由
労働契約法16条に「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。
次いで、労働契約法17条には「使用者は、期間の定めのある労働契約について、やむを得ない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することができない。」と規定されています。
雇用主が従業員を解雇するにはいろいろな理由がありますが、解雇するには「合理的な理由」「社会通念上相当な理由」が必要になります。
よって、雇用主が気に入らないというだけでは解雇は認められません。
勤務態度に問題がある、業務命令に従わない等、従業員側の落ち度を理由として解雇する場合でも、従業員の落ち度の程度や行為の内容、それによる会社への影響、損害、従業員の悪意性、やむを得ない事情の有無等々を考慮して解雇の正当性が判断されます。
また、法律は特定の理由で解雇することを禁止していますので代表的なものをご紹介します。
育児・介護理由
育児・介護休業法10条に「事業主は、労働者が育児休業の申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」と規定されています。
育児や介護を理由に解雇することは、法律で禁止されています。
この「解雇」には、正規社員の解雇はもちろん、期間を定めて雇用される者の契約を更新しないことも含まれます。
女性労働者の結婚・妊娠・出産・産前産後の休業理由
男女雇用機会均等法第9条に、女性に関して以下ような理由で解雇してはいけないと規定されています。
- 女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。
- 女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
- 女性労働者が妊娠、出産、それに伴う休業請求、休業したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由等で解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
- 妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、無効とする。ただし、事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない。
このように、女性労働者に対して結婚、妊娠、出産を理由に解雇することは認められていません。
また、労働基準法により、産前産後休業中とその後30日間は、この労働者を解雇することは禁止されています。
参考として、法律(労働基準法第65条)は妊娠中の女性労働者への対応として使用者に対して以下のように規定しています。
- 6週間(多胎妊娠の場合にあつては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。
- 産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは、差し支えない。
- 妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない。
労働者の性別理由
男女雇用機会均等法5条では「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」と規定され、また、6条では退職の勧奨、定年及び解雇並びに労働契約の更新に関して労働者の性別を理由として差別的取扱いをしてはならないと規定さています。
その他
その他に、業務上災害のため療養中の期間とその後の30日間の解雇禁止や労働基準監督署に申告したことを理由とする解雇も認められていません。
いきなり解雇はダメ
解雇事由は、予め就業規則に記載されていなければいけません。
※解雇事由は、就業規則の絶対的必要記載事項です。
そして、解雇事由に該当し解雇するにあたって合理的な理由があったとしても、30日前に当人に解雇予告をする必要があります。
解雇予告なく解雇する場合、雇用者は解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。
予告したとしても日数が30日に満たないときは、30日に不足する日数分の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。
まとめ
犯罪や会社に重大な被害を与えたり、背信行為を行ったと認められるような場合は懲戒解雇、事業存続のための人員整理は整理解雇、以外の会社による解雇は普通解雇とされます。
会社側はいろいろな解雇理由を言って解雇の正当性を主張するでしょうが、上記に述べたように解雇に関しては会社側の濫用を防止するために法律で規制しています。
突然、会社側から解雇を通知されてしまったら、主張すべきことはしっかり主張しましょう。
解雇に無効理由が認められれば、裁判所に解雇無効の訴えを提起し社員としての地位の保全を争うことも可能です。
しかし、現実的には会社を訴えて勝訴しても、従来通りに仕事を続けることは精神的にも厳しいものがあります。
会社を辞める前提で金銭的賠償を勝ち取ることが現実的かもしれません。
お悩みの方は、弁護士や司法書士(140万円以下の訴訟)に早めにご相談ください。