
相続放棄を家庭裁判所に申述することで、申述した相続人は故人(被相続人)の権利義務を一切承継しないようになります。
預金や不動産、車等の財産はもちろん、借金や未払いの税金、光熱費、保証人としての立場も引き継ぎません。
このように、相続放棄は故人との関係を遮断する強力が手続きですが、相続放棄ができる期間に制限があることからしっかり検討せずに急いで放棄してしまうと思わぬ事態が生じることがあります。
相続放棄の順序
Aが亡くなり相続人Bが相続放棄をすると、BはAの権利義務を受け継ぐ必要はなくなります。
言葉を変えれば、義務を受け継がず、権利を行使できないことになります。
相続がAとBだけの関係であれば良いのですが、A自身が誰かの相続人であった場合、Bの相続放棄の仕方によって他者に大きく影響することがあります。
数字相続と相続放棄
以下に説明させていただく事例は、相続・数次相続・相続放棄が関係します。
そして、相続放棄の順序を間違えてしまった場合、残された相続人が不動産を処分するときに大きな問題抱えてしまう事例になります。

家を所有しているAが亡くなり、Aは遺言書を残していなかったので、家の相続権は基本的に3人のお子さん(W、B、V)が各3分の1を取得することになります(法定相続権)。
この時、3人で遺産分割協議をして、例えば長男であるWが家を相続することに決めれば、Wが家を自分名義に相続登記することができます。
しかし、決めない間に次男Bが亡くなると、Bの3分の1の権利はBの相続人Cが受け継ぐことになります(数次相続)。
この場合、Bに替わってCが遺産分割協議に参加して家の処分を決めることになります。
しかし、この状況でも遺産分割協議をすることなくCが亡くなると、その権利はCの子Dが受け継ぐことになります。
ここまでが「相続」「数次相続」の話しです。
受け継いだDにとっては、祖父の兄Wと妹Vと相続の話しをすることになります。
そこで、Dは自分の相続権を主張するのではなく、家の処分は家の名義人である曾祖父の子供であるWとVの2人で決めてもらおうと思い、また、父Cには財産らしいものもなかったのでCに対して相続放棄をしました。
この良かれと思って行ったDの相続放棄は、WとVに大きな負担をかける結果となりました。
何故か?
相続放棄の順番が重要
上記では、Bが亡くなった時点でBさんの相続権は何もせずにCに移行し、Cが亡くなったことでDに移行しています。
しかし、DがCの相続を放棄したのでDに移行していた相続権はCに戻ります。
とすると、戻った相続権はD以外のCの相続人に移行することになります。
相続人は範囲が限定されています。
故人の配偶者、子(直系卑属)、親(直系尊属)、兄弟姉妹のみです。
W、VはCの叔父、叔母であり、Cの相続人にはなれません。
つまり、Cには上記に該当する人はDしかいなかったので、唯一の相続人であるDが相続放棄すると相続人がいない状態になってしまいます。
Dは他の2人の相続人がCの相続権を取得できると考えて相続放棄したのですが、残念ながらCの相続人でないW、VはCの相続権を取得できません。
一般的に考えれば相続人がいないならW、Vに任せればいいじゃないと思われるのも理解出来ますが、法律で規定されている以上無視することはできませんし、無視して登記を申請しても法務局は受け付けてくれません。
これを処理するには、W、Vが相続人のいないCの財産を管理する人(相続財産管理人)の選任を家庭裁判所に申立て、その管理人と協議して処分していくことになります。
当然、時間も費用もかかり、管理人との協議においてW、Vの意見が100%通る保証もありません。
やるべきだった行為
Dが家を相続する気はなく相続放棄をすることでW、Vに処分を任せたいのであれば、まず、Bに対して相続放棄をするべきでした。
DがCの相続人としてBの相続放棄をすると、CはBの相続人ではなくなります。
すると、W、Vは兄弟姉妹としてBの相続人となるので、WとVで家を処分することができることになります。
先にCに対して相続放棄をするとDはCの相続人ではなくなるので、その後、Cの相続人としてBの相続放棄をすることができなくなってしまいます。
このように、簡単に見える相続放棄ですが、やり方を間違えると後でかなり面倒なことになってしまうこともあるので、慎重に検討して行う必要があります。