自己破産と相続

借金が多くあり返済できない状態になっている方が相続人になったときに、相続しても自己破産したら財産全部を取り上げられるので相続はしない。

親名義の不動産を相続して借金の返済に充当されるくらいなら、兄弟に全部渡した方が良いと考えられる方もおられるでしょう。

この場合、やり方によっては他の相続人に相続財産を渡した行為が否定されたり、後でする自己破産手続きに影響することがあるので注意が必要です。

遺産分割協議と相続放棄

遺産分割協議とは、相続人全員で協議して遺産の分割方法を決めるやり方です。

各相続人には法定相続分があるので、基本的に各自の相続分をベースに協議することになります。

協議において法定相続分の取得を主張することもできれば、相続分を一切取得せずに他の相続人が取得するようにすることもできます。

対して相続放棄は、他の相続人は一切関係なく単独で行う手続きです。

家庭裁判所に所定の相続放棄申述書を受理されれば相続放棄が成立し、初めから相続人とならなかったものとみなされることになるので、被相続人(故人)の財産は一切相続しない(できない)ことになります。

遺産分割協議と自己破産

相続人が子供A、Bの2人の場合、各自の法定相続分は各2分の1になります。

Bには多額の借金があり自己破産が念頭にあるような場合、自分が相続した後に自己破産すると返済に充当されることになるのでAに全部相続してもらった方が良いと考え、遺産分割協議にてAが全部相続するようにしたらどうなるか?

債権者としては、相続人として2分の1を遺産を取得して返済充当して欲しい、取得せずに自己破産して借金をチャラにしようとする行為は認めがたい、と思うでしょう。

ここで法律的に関係するのが以下の条文になります。

破産法160条3項

破産法160条3項に「破産者が支払の停止等があった後又はその前6月以内にした無償行為及びこれと同視すべき有償行為は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。」と規定されています。

遺産分割協議でBがAが全部を相続すると決めることは、Bの法定相続分をAに無償で譲渡した行為と見られ自己破産手続きにおいて否認されるおそれがあります。

否認とは、破産管財人(清算手続きをする人)が160条3項に該当する行為と判断した場合に、否認権を行使して対象となる財産を回復(取り戻す)することを意味します。

条文にあるように、行為は支払停止等の前後6ヶ月以内と時間的制約ありますが、6ヶ月を過ぎていれば大丈夫かというとそうもありません。

また、「支払の停止等のあった」とはどのような状態をいうかで争いもあるので、前後6ヶ月をいつからいつまでとするのも簡単ではありません。

破産法252条1項

破産法252条1項に免責の要件として「債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をしたこと。」に該当しないことと規定されています。

遺産分割協議で本来相続できる財産を他の相続人に渡した場合、債権者に不利益な処分で破産財団(返済に充当する財産)に含まれるべき財産を不当に減少させたと判断されるおそれがあり、このように判断されたら免責不許可となり自己破産が認められなくなってしまうおそれがあります。

遺産分割はリスクが高い

以上のように、遺産分割で何も相続しない、法定相続分より少なく相続すると、その後の自己破産で本来返済に充当されるべき財産が損壊、減少したとして問題になる可能性があります。

相続放棄を選択

自己破産をしなければいけないような状況で相続が発生した場合、相続財産を返済に充当させることなく他の相続人に相続してもらうようにするには、相続放棄が最適と言えるでしょう。

相続放棄をすると相続人ではなくなるので、相続放棄後に自己破産しても債権者は相続財産に口出すことはできません。

相続放棄は相続人として自身で考えて行う行為(身分行為)なので、裁判所も他人の意思によって相続することを強制すべきでないとしており、相続放棄が債権者によって否定されることはありません。

期限に注意

相続放棄をする上で注意すべき点は、期限になります。

相続放棄はいつでもできるわけではなく、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立てをしなければいけません。

3ヶ月の期間についての詳細はこちらを参照ください。

期間を経過してしまうと相続放棄ができなくなり、遺産分割協議で相続手続きをすることになると先に説明した法定相続分について問題になってしまいます。