生命保険金は、基本的に遺産相続の対象になりません。
相続相談で生命保険金のことを質問された場合、このように回答させていただきます。
遺産がほとんどなく生命保険金が大半であるような場合は、過去の裁判で遺産として扱われた(=遺産分割の対象となる)ことがありますが、通常は、遺産分割の対象とはならず、保険契約で受取人を指定された方が受け取ることができます。
このことから、相続人が相続放棄をしても、その方が受取人になっていれば生命保険金は受領できます。
ただし、「保険金」であれば同じ扱いになるかというと、そうではありません。
それに関して令和7年に最高裁が一つの判断を示しました。
自動車保険と相続放棄
自動車を購入したら自動車保険に加入されると思います。
自動車保険の内容として「対人・対物賠償責任保険」や「人身傷害保険」がありますが、令和7年に最高裁で「人身傷害保険」と相続放棄について一つの判断(判例)が示されました。
「人身傷害保険」とは、事故で運転者や同乗者がケガをしたり、亡くなった場合に支払われる保険金です。
「被保険者が亡くなったら支払われる保険金」と見れば、生命保険金と同様と考えられなくもありません。
このことから、相続放棄と保険金請求権に関して保険会社と相続人間で裁判になりました。
争いの内容
人身傷害保険に入っているAさんが自損事故を起こし亡くなられました。
Aさんが亡くなった後、相続人であるお子さんは相続放棄をしました。
これにより法定相続人は第2順位であるAさんの母親になり、母親が保険会社に人身傷害保険に基づき保険金の請求をしたのですが、保険会社は支払を拒否しました。
保険会社の主張は、
請求権は被保険者自身であり、亡くなった場合はその法定相続人になる。
保険金請求権は第1順位の子供に原始的に帰属し、保険金は相続財産ではないので母親は請求権を相続しない、として母親からの請求を拒否しました。
約款に「被保険者が死亡した場合はその法定相続人とする。」とあるので、被保険者(Aさん)の請求権は子供が固有に取得したもので相続財産ではないので、子供が相続放棄をしたらその請求権は次順位である母親に相続されることはない、と主張しました。
最高裁の判断
最高裁は、人身傷害保険契約における死亡保険金の請求権は、被保険者の相続財産に属する、と示しました。
人身傷害事故による保険金請求権は、被保険者自身に生じており、約款の「ただし、被保険者が死亡した場合はその法定相続人とする。」との記載は注意的に規定したものにすぎないとし、死亡保険金の請求権は被保険者の相続財産に属するものと解するのが相当と示しました。
これにより、請求権は子どもの相続放棄により母親が相続するので、母親の保険会社への請求が認められました。
まとめ
保険金であっても、生命保険とは異なり人身傷害保険は相続の対象となることが示されました。
ここで注意する点は、相続放棄との関連です。
裁判では母親の主張が認められましたが、同時に、相続財産になるので相続放棄をしたら人身傷害保険を請求する(受領する)ことはできないことも示されたことになります。
これにより、各社の約款の内容にもよるでしょうが、相続放棄をすると人身傷害保険は受け取ることができなくなる可能性が高いです。
また、人身傷害保険金が相続財産とされたので、相続放棄をした後に当該保険金請求・受領すると、単純承認(相続する行為)したものとみなされ、相続放棄が否定される可能性もあります。
以上の点に注意し、特に事故で亡くなられて相続が発生した場合の相続放棄については、慎重な検討が必要になります。


