抵当権の登記抹消は、抵当権者と設定者(不動産所有者)が共同で申請を行いますが、明治や大正時代の古い抵当権の場合、共同申請での抹消は簡単ではありません。

このように古い抵当権の場合、登記簿上の抵当権者は既に亡くなっていることが多いです。

この場合、相続人全員に共同で抹消申請することをお願いすることになります。

相続人の多くは抵当権の存在を知らず、知らないことに係わりたくないと協力を拒否されたり、高額な協力費(いわゆるハンコ代)を請求されたりすることもあり、共同申請での抹消が難しくなるケースもあります。

また、供託による抹消を行うことを検討したが、登記簿記載の債権額が大きく、供託金がかなり高額になってしまうので供託抹消が使えない、ということもあります。

※供託による抹消は、抵当権者(その相続人)が所在不明である場合の抹消方法なので、所在が分かる方が1人でもいると手続きが難しくなってしまいます。

このような場合、訴訟を提起して裁判により抵当権を抹消する方法があります。

裁判による抹消の利点は、判決により不動産所有者が「単独」で抹消することできることです。

裁判による抹消

抵当権者を被告に訴訟を提起しますが、訴訟の形態として2っのパターンがあります。

少し法律的な事になってしまいますが、抵当権を抹消するために提起する訴訟として ①「所有権に基づく妨害排除請求権により抵当権を抹消する」、②「抵当権設定契約に基づいて抵当権を抹消する」の2パターンがあります。

①は所有権という物権をもとに妨害物を排除しようとするもので、「この土地は私の所有物であり、抵当権が妨害しているので排除したい」として訴えを提起します。

これを物権的登記請求権と言います。

訴訟で証明する内容は「土地を所有していること」と「その土地に抵当権が設定されていること」の2点のみです。

原告である自分が名義人となっている登記簿と、対象不動産に抵当権が設定されている登記簿(名義人となっている登記簿と同じ)を証拠として裁判所に提出するだけになります。

被告が異を唱えるとすれば、「当該抵当権は現在も有効であり、抹消することはできない」と主張することになりますが、通常、このような主張はされません。

抵当権とは、お金(又は物)を貸して、その担保として不動産に設定されるものですが、明治時代に貸したお金が時効消滅せずに現在も有効であると証明することは事実上不可能と言えるので、裁判になれば原告勝訴の判決が出ます。

②は、抵当権設定契約に基づく訴訟で、「契約された抵当権は既に消滅しているので抹消手続きをする」ことを求めて訴えを提起します。

これを債権的登記請求権と言います。

この場合の訴訟で主張する内容は「抵当権設定契約の締結」「当該抵当権が登記されている」「当該抵当権は消滅している」になります。

どちらのパターンでも訴えは提起できますが、①の方が証明すべき内容が簡単です。

原因日付

司法書士としては、裁判後にする抵当権抹消登記手続きのこと考えて、判決文に「〇年〇月〇日時効消滅を原因とする抹消登記手続きをせよ。」と記載してもらうようにします。

②のパターンでは、抵当権の消滅を主張するので、消滅した原因日付も主張することになりますが、①のパターンでは消滅、原因日付を主張する必要はないので、単に「抵当権設定登記の抹消登記手続きをせよ。」とする判決がだされるおそれがあります。

実務では、①のパターンでの訴訟でも抵当権が時効で消滅していることも主張しておき、判決文に原因日付を入れてもらうようにしておきます。

ただし、裁判官によっては原因日付の主張を外すことを求め、①のパターンはもとより②のパターンでも原因日付が記載されない判決がだされることがあり、その場合は手間が増えてしまいます。

何故、原因日付の記載にこだわるかというと、その後の抹消手続きに影響することがあるからです。

明治時代に設定された抵当権に対して出された以下の2っの判決文の事例で考えます。

  1. 明治40年10月1日消滅時効を原因とする抹消登記手続きをせよ。
  2. 抵当権設定登記の抹消登記手続きをせよ。

1は、原因日付が記載されているので、当該抵当権は明治40年10月1日に消滅時効により抹消したことになります。

2は、原因日付が記載されていないのでいつの日付抹消すべきか分かりません(判決の理由中に記載されていたらその日付を使うことができます)。
そこで、原因日付が分からない場合は、判決が確定した日が消滅した日として登記します。

この違いが影響するのは、抵当権者の「相続」です。

前提として、抵当権者が生存中に抵当権が消滅していれば、その登記の状態で抹消登記ができますが、抵当権者が亡くなった後に抵当権が消滅していれば、当該抵当権は消滅前に抵当権者の相続人に移転していることになるので、移転登記をしなければいけません。

1の判決では、抵当権が消滅した明治40年10月1日以前に抵当権者が亡くなっていれば、その分だけを相続登記すればよいですが、2の判決だと、判決が確定した日までの間に生じた相続を登記に反映させる必要が出てきます。

このことからも、相続に関する手間を省くためにも、裁判官に原因日付が記載された判決を出してもらうことが重要になります。

時効消滅するのはいつ?

債権には弁済期が設定されています。

弁済期とは返済期日のことです。

明治、大正のような昔の債権の場合、返済期日から10年を経過していれば、債権は時効により消滅しているので抵当権の抹消手続きを求めることができます。

弁済期が明治10年10月1日であれば、時効完成日は10年後の明治20年の10月1日になります。

10月1日終了により完成なので、登記での原因日付は「明治20年10月2日時効消滅」となります。

弁済期は、現在は登記事項になっていないので、今の登記事項証明書(登記簿)を見ても昔の抵当権の弁済期は分かりません。

しかし、昔は弁済期も登記されることになっていたので、昔の登記簿(閉鎖登記簿)を取得して弁済期を確認します。

被告

抵当権者、又は相続人を被告として訴えを提起することになりますが、複数人に場合、全員を被告としなければいけないわけではありません。

共同申請に非協力な人を被告として訴えを提起し、協力的な方とは共同で抹消申請することはできます。

但し、一方は訴訟手続き、もう一方は共同申請となると、手続きも煩雑になります。

また、共同申請の場合、相手の方に実印、印鑑証明書や抵当権を設定した際に法務局から交付された登記済証を準備してもらうことになりますが、登記済証が保管されていないことが多く、法務局による事前通知や司法書士による本人確認という手間が必要になります。

そこで、協力的な方に対しても、手続上、便宜的に被告とすることを事前に説明して了解を得た上で、全員を被告として訴えを提起することで、手続も裁判による抹消のみで済むことになります。

被告人の中に行方不明者がいる場合、公示送達(訴状が送達されたことにする特別な手続き)や裁判所に不在者財産管理人を選任してもらって、その管理人を被告として訴えを提起することになります。
※不在者財産管理人を被告として訴えを提起せず、共同で抹消申請することも可能です。管理人も争点がなければ共同申請に応じてくれるでしょう。

抵当権者の相続人が被告

登記簿上の抵当権者が既に亡くなっており、その相続人を被告として訴えを提起した場合、裁判所から出される判決文の内容に注意が必要です。

判決文をもとに法務局に抵当権の抹消申請をする際、登記義務者(抵当権者)に相続が生じているので、相続を証する書面(抵当権者、その相続人全員の戸籍・除籍謄本)の提出が必要になります。

しかし、判決文に「被告は相続人全員である」というような文言をいれてもらうことで、相続を証する書面の提出が不要になります。

古い抵当権の抹消は、当事務所にご相談ください。

全国の不動産に対応しています。
内容によっては遠方での対応ができない場合もございますので、予めご了承ください。

相談
初回のご相談は無料です。
ご相談予約ページ
TEL 092-707-0282
電話予約 9:00~20:00(平日・土)