相続人に借金があるが、財産等のプラスの財産もある、というような場合は、限定承認が選択肢の一つになります。

限定承認の検討

明確に借金額が判明していて、故人の財産で返済してもプラスの財産が残るのであれば、通常の相続で問題ないでしょうが、借金がいくらあるか分からない、分かっているが隠れ借金があるかもしれない、誰かの保証人になっているかも、とういうような場合、安易に相続してしまうと後で故人の大きな負債を背負うことになり自分の財産から返済することになるかもしれません。

相続放棄をすれば、隠れ負債も含めて故人の負債を負うことは一切ありません。

しかし、故人にある程度の財産がある場合、負債を返済しても財産が残りそうであれば、限定承認の検討をするのも良いでしょう。

返済は相続財産の範囲内

限定承認をしたら、故人の負債の返済義務は相続財産の範囲内になります。

限定承認手続きの過程で故人の債務を返済しますが、手続き中に全部の債務を特定することができない場合があります。

また、故人が保証人になっていて手続き後に保証債務が発生するような場合もあります。

そのような場合でも、限定承認は相続財産の範囲内になるので、相続人自身の財産を使うことはありません。※1

※1.取得した相続財産を長い間相続人自身の財産と分けて保持しているようなことはないでしょうから、手続き後に発覚した債務については返済義務はない、とする見解もあるようです。

譲渡所得税に注意

限定承認をする場合、相続税と共に譲渡所得税を払うことがあります、

限定承認でプラスの財産を相続人が取得した場合、取得した財産は相続人が「相続」したものではなく、故人から相続人へ時価で「売却」されたとみなされ、故人に対して譲渡所得税が課せられることがあります。

故人が取得した時の不動産の価格より相続時の時価が高ければ、その差額が故人の所得となり譲渡所得税がかかってしまいます。

注意しなければいけないのは、プラスの財産が多くその中から故人の譲渡所得税を払うことができればよいですが、プラスの額が小さく譲渡所得税の方が多くなってしまうと、相続するどころか自身の財産から持ち出すことになります。

急がずにまず調査

プラスの財産や負債の状況が分からない状況で、負債の方が多くても相続しなくて済むから安心なので「とりあえず限定承認しておく」ことは、譲渡所得税のリスクがあります。

手続きを進めていく過程で多な借金が見つかり、予想以上にプラスの財産が小さくなる、ということもあります。

申立後、受理される前であれば取り下げることもできますが、受理されれば撤回はできません。

取り消しは可能ですが、詐欺・強迫によるものであったり等と取り消し事由があり、簡単ではありません。

単に大きいな借金が見つかったので取り消す、ということはできないでしょう。

限定承認は、自分に相続があったことを知って3カ月以内にしなければいけませんが、調査に時間がかかるようであれば、事前に期間の延長手続きをすることができます。

ただし、譲渡所得税の計算基礎となる故人の1月1日から亡くなるまでの所得の申告(準確定申告)は、相続人になったことを知ってから4カ月以内(基本的に延長なし)とされていますので注意が必要です。