相続した土地に数十年以上も前の抵当権がまだ設定されたままであった。

このようなことがたまにあります。
中には、大正、明治時代のものもあったりします。

このような抵当権を「休眠担保権」と言います。

既に完済していて抹消手続きをしていないだけであり抵当権としての効力はなかったとしても、抹消をしないと売却は難しくなってしまいます。

抵当権者は明治時代のものであれば個人であることがほとんどですが、昭和の時代のものは会社であることが多くなってきます。

ここでは、抵当者が法人(会社)である場合の抹消手続きについてご説明します。

抵当権の抹消手続き

抵当権者が法人である古い抵当権の抹消方法は、基本的に抵当権者が個人である場合と変わりません。
※個人である場合の抹消方法の詳細はこちら

手続きとしては以下の方法になります。

  • 法人と共同で抹消登記手続き
  • 除権決定を得て抹消
  • 弁済証書による抹消
  • 債権額等を供託して抹消
  • 裁判で勝訴判決を得て抹消

上記手続きを法人を相手に行うことになります。

既に完済しており、抵当権者である会社も存在していれば、共同で抹消手続きができるでしょうが、協力を得られなかったり、完済が確認できなかったような場合は、裁判(時効により債権又は抵当権は消滅)で勝訴判決を得て単独で抹消手続きをすることになります。

除権決定や弁済証書による抹消に関しては、種々の証拠書類や債務を完済したことを証する書類が必要になりますが、何十年も前の抵当権に関するそのような書類は保管されていないのがほとんどで、あまり利用されません。

共同申請や裁判による方法以外としては、供託による抹消を選択することになります。

供託による抹消

供託をすることによって抵当権を抹消する場合、前提として、抵当権者である法人が所在不明である必要があります。

法人の場合、登記簿に記載されていなく、かつ、閉鎖登記簿も廃棄されて取得できなければ所在不明となります。

※法人が解散すると、その旨の登記(解散登記)がされ、解散の事務処理が終了すると清算結了の登記がされ、当該会社の登記簿が閉鎖されます。
閉鎖した旨の登記簿(閉鎖事項証明書)は20年間保管されることになっていますが、それを過ぎると廃棄処分できるようになっています(必ず廃棄されるわけではないので20年を過ぎていても取得できる場合があります。)。

手続きにおいて、法人が所在不明であること証するものとして「法人の調査書」を作成して法務局に提出しなければいけません。

対象法人の登記事項証明書や閉鎖事項証明書を請求したことや、請求された証明書が存在しない旨が記された申請書、公図等を提出します。

また、実際に登記簿上の所在地で赴いて現況はどうなっているか調査し、写真をとったり、周辺で聴き取りをしたり、何らかの書類で会社の代表者の情報が分かれば、その代表者についても調査をし、結果を調査書にまとめます。

このように、最善を尽くして調査をしたが抵当権者である法人は所在不明である、とする調査報告書が必要なので、簡単ではありません。

比較的簡単な供託による抹消を行うために、実際は所在不明ではないのに所在不明であるとして手続きを行い、のちに発覚して懲戒処分を受けた事例もありますので、法人調査はしっかり行う必要があります。

代表者の所在不明

法人といっても、実際の法人としての行為は代表者が行います。

では、その代表者が所在不明であれば供託による抹消手続きができるか、が問題になります。

できるのではと思われる方もおられますが、あくまでも、法人の所在不明は登記簿に記載されてなく、かつ、閉鎖登記簿も廃棄されて取得できない場合に限ります。

閉鎖事項証明書が存在していれば、代表者が行方不明であったり、清算人が全員亡くなっていたり行方不明であっても、所在不明には該当せず供託による抹消手続きをすることはできません。