自筆にせよ公正証書にせよ、遺言書を作成するときに、記述において注意する点があります。

日付や署名、押印等の形式に関する基本的な事はもちろんですが、ここでは、内容について注意すべき点をあげます。

不明瞭な書き方をしてしまうと、書いた本人の意図しない捉え方をされてしまうおそれがありますし、解釈において相続人間で争いが生じてしまうこともあります。

そうならないように、遺言書は、誰が読んでもその内容が明確であることが必要です。

遺言書記載での注意ポイント

遺言書は、遺言者が希望する自身の財産の分け方を定めるもので、基本的にその内容に従って遺産の分割、分配が行われます。

しかし、分割、分配が行われるときは遺言者は亡くなっているので、記載内容が不明瞭、不明確であると本人に確認しようがありません。

そこで、不明瞭、不明確な遺言書にならないように項目別に注意すべきポイントをあげます。

預金の残高記載

預金を特定の相続人に相続させる場合、銀行名、支店名、口座番号を記載します。

そのとき、遺言書作成時点の残高を具体的に記載される方もおられますが、残高を記載する必要はありません。

というより、記載しないようにしましょう。

残高は変動するので、亡くなった時点での残高が遺言書に記載された残高を超えている場合、超えた部分の預金の処理が問題になってしまいます。

普通に考えれば、口座の預金を相続させるのが目的だから、超えたとしても指定された相続人が全部相続するものとなりそうです。

相続人間の関係が良好であれば、皆がその理解で問題ないのでしょうが、もめている場合は異なります。

超えている部分は遺言の対象外と主張されてしまうと、未分割遺産となり遺産分割協議で処分を決めなければいけなくなるので注意が必要です。

第三者に遺贈する場合の名前の記載

相続人でない者に遺産を取得させる場合、「○○を○○に遺贈する」と記載します。

名前だけ記載しても相続人には誰だか特定できないかもしれませんので、住所、氏名を記載しますが、本籍地も記載しておくようにしましょう。

住所だけでは、遺言書作成からかなりの年数が経って相続が発生した場合、当時の場所から転居していたら現住所を追うことができない場合もあります。

本籍地が分かっていれば、戸籍の附票を取得して最新の住所地を知ることができますので、居場所がわからなくて相続人が苦労するようなことを回避できます。

私道も忘れずに記載

分譲開発された建売住宅を購入している場合、自宅に接する道路が公道に接するための私道である場合があります。

私道は分譲時に各戸が公道に出られるように作られた道で、各戸の所有者の共有になっていることが多いです。

道として認識していて、その道に対して持分を所有していることを失念しがちです。

遺言書に家、家の敷地を明示して特定の相続人に相続させるように記載しても、私道の記載を漏らしてしまうと、私道が協議による遺産分割の対象となってしまいますので、周辺道路も確認した上で遺言書に記載するよう注意が必要です。

特定の者に相続させる、遺贈すると記載

特定の者に「相続させる」「遺贈する」と記載した場合、不幸にして特定された者が遺言者より先に亡くなることもあり得ます。

この場合、基本的にその内容は失効してしまいます。

ただし、「相続させる」遺言に関しては、遺言者が代襲者(亡くなった方の相続人)に遺産を相続させる意思があったとする特段の事情が認められれば、遺言書をもとに代襲者相続できるとされています。

しかし、代襲に関して相続人間でもめてしまえば、裁判所に「特段の事情」の有無の判断を仰がなければいけなくなります。

このような事がないように、遺言書に指定した者が先に亡くなった場合に備えた予備的条項を記載し、代襲の意思を明記しておくことで、トラブルを回避することができます。

有価証券や株式についての記載

遺言書に相続財産を指定する場合、詳細に明瞭に記載することが重要とされています。

記載によっては、「株式」と記載したが「投資信託」も含まれるのか、金融商品名を記載したがその後に当該商品が消滅して別の商品として扱いが変わっているような場合は、記載が無効になるのか、という問題が生じるおそれがあります。

そこで、敢えて、「〇〇証券〇〇支店口座番号〇〇で保管中の預り金、有価証券、投資信託、その他一切の金融資産」と包括的に記載する方が良い場合もあります。

新たに遺言書を作成するときの記載

遺言書が複数ある場合、日付が後のものが有効である、という事をご存知の方は多いですが、前の日付の遺言が全部無効になるかというそうではありません。

例えば、土地1をAに、土地2をBに、土地3をCに相続させる遺言書を作成し、その後に新たに土地1及び2はAに相続させるとする遺言書を作成した場合、前の遺言書と対立する土地2に関しては日付が新しい遺言書が有効となりAに相続させることになりますが、土地1、土地3に関しては前の遺言書とおりAとCが相続することになります。

つまり、前の遺言書は全部が失効すのではなく、新しい遺言書と対立する部分のみ失効することになります。

遺言者が前の遺言書を全部否定・廃棄する意思で新たに遺言書を作成する場合は、「〇年〇月〇日に作成した遺言書を全部撤回する」等と明記しておきます。

まとめ

不明瞭、不明確に遺言書を作成してしまうと、自分の意思が正確に反映されない遺産相続になってしまうおそれがあります。

ただ、思いのまま書いてしまうと、遺言書が原因で相続人間で争いになってしまうこともあります。

遺言書の内容を具体的に明瞭に記載することが大切ですが、具体的に記載することで、それに該当しない遺産、該当しないと受けとられてしまう遺産があると、その遺産の処理に関して相続人間でもめてしまうことになるかもしれません。

ご自身の財産構成を踏まえて、適切な表現を使用して相続人が誤解、曲解する余地がないように遺言s如を作成するようにしましょう。