遺留分請求権の時効
遺留分請求権は「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。 相続開始の時から10年を経過したときも同様」と民法に規定されています。
相続開始から10年経過したら時効により消滅するので、相続開始があったこと(被相続人が死亡したこと)を知っていようが知らなかろうが、亡くなって10年経過したら遺留分を請求できなくなります。
これは、遺留分は相続時の遺産を基礎に計算するので、10年も経過していたら遺産も散逸、消費されていて相続時の正確な遺産額を把握するのが難しいことや10年間請求していない状態を考慮して規定されています。
不知の10年
被相続人が亡くなったことを知らずに10年経過するということは、それだけ被相続人との関係が希薄であったり断絶状態にあったといえるでしょう。
ただ、相続権は被相続人との関係性不問で相続人に認められた権利なので、どのような関係であっても権利主張することができますが(廃除、欠格は除く)、相続が発生したことを知らなければ主張できません。
親と長年絶縁状態であったり、離婚した夫(妻)と前妻(夫)の子の間で全く交流がないような場合、親が亡くなったことを誰からも知らされずに10年経過することもあるかもしれません。
遺産分割の無効
遺言書がなければ、遺産(預金や不動産等)をどのように分配するにせよ相続人全員の実印が必要になるので、通常、故人の親族から連絡がきます。
仮に、前妻の子を無視して再婚家族だけで遺産分割協議をしても、相続人(前妻の子)を欠く遺産分割協議は無効であり、無効を主張するのに時効はないので、相続権をいつでも主張することができます。
といっても、20年、30年も経過してしまうと相続時の遺産額を把握するのも難しく、ましてや相手が積極的に協力してくれることは期待できないので、手続きはかなり難しくなるでしょう。
遺留分の請求
遺留分は、特定の相続人の法定相続割合を下回る、または相続分が全くないとする遺言書がある場合に問題になります。
再婚夫が、再婚相手とその子に遺産を全部相続させ前妻の子には全く遺産を渡さないような遺言書があると、前妻の子は遺留分が侵害されることになり遺留分侵害額請求権を取得します。
遺言書がなければ、再婚相手は相続手続きに前妻の子の印鑑が必要になるので連絡してきます。
しかし、「自分名義の家を再婚妻に相続させる」とする遺言書があると、再婚妻は単独で家を自分名義にする相続登記をすることができます。
この場合、前婚の子供の承諾、ハンコは必要ないので、再婚妻が前婚の子供に父親が亡くなったことを連絡してこない可能性はあります。
ただし、遺言書には通常、遺言書の内容に従って手続きする者(遺言執行者)が指定されており、遺言執行者は相続人全員に遺言執行者に就任したこと及び遺言の内容を通知する義務があると民法に規定されています。
よって、遺言執行者である再婚妻が民法に従って正しく手続きをとれば、前妻の子に連絡します。
ただ、知らせたら遺留分を請求されるかもしれないと思って伝えない、といことがないとは言えません。
そうなると、亡くなったことを知らない間に10年が経過することになってしまいます。
対策
どういう状態であっても相続人である以上遺留分を請求したい、と思われる場合は亡くなってから10年以内にその事実を知って請求しなければいけません。
故人の現在の親族が死亡の事実を知らせてこないことが予想されるのであれば、自らその事実を知りにいく、つまり、生存確認をすることになります。
故人の兄弟姉妹等の親族で連絡が取れる方がいれば、その方に亡くなったときは知らせくださいとお願いしておきましょう。
そのような方がいなければ、数年に1回、親の戸籍謄本を取得して確認する(子どもであれば親の戸籍は取得できます)という方法もあります。
仮に、再婚妻から父が亡くなったことを知らされずに10年経過した場合はどうなるか。
遺留分を請求したら10年経過で時効により請求権は消滅していると相手から主張されたら、諦めるしかないか?
相手はやるべきことをやってなく、それが原因で前婚の子供は遺留分を請求できなかったのに10年の時効を主張できるのか?という見方もあります。
そのような場合は、すぐに諦めるのではなく弁護士に相談されることをおススメします。