親と同居して介護・看護
ここでご紹介したケースは珍しいケースではありません。
認知機能が低下したことにより家族が心配して施設に入れる、同居する、近くに住む、というような選択肢を検討することになりますが、親が住む家で、または子が住む家で同居して世話をするというケースは少なくありません。
ここでは、親Aが住む親名義の家に長男B家族が同居して世話をするケースで検討します。
同居中に引き出された親の預金
親名義の口座から預金が引き出されていることはよくあることです。
生活している以上、いろいろな出費がで預金の引き出しは当然にあることです。
問題は、引き出された預金が何の目的で使われたかになります。
AがBに生計の資本として贈与していた場合は、Bに対する特別受益になる可能性がありますが、Aは認知気味であり贈与の意思を持ってBに金銭を渡すことができるのかという疑問があります。
Aに意思能力が認められずBが勝手にAの預金を引き出し、生計の資本ではなく自己の遊興のために使ったということになれば、特別受益ではなくAに対する不当利得、不法行為による損害賠償、という問題になります。
この場合、他の相続人であるCが、Bに対して使ったお金を遺産に戻すように請求することになります。
仮に、引き出された預金が現金やB名義の定期預金等の形で現存しているのが分かれば、「借名預金」「名義預金」としてAの遺産であると認められる可能性もあります。
もちろん、Bから引き出した預金はAの介護等のために使ったと主張される場合もあります。
この場合、Bへの特別受益は関係なくなります。
主張通りにAの為に使われたのであれば、問題はありませんが、そうでなければBによる不当利得、不法行為による損害賠償の問題になります。
領収証等により検証することになるでしょうが、Bは実際にAと同居しているので、領収証等がなくてもAの状態等によりある程度の金額が認められる余地があると思われます。
長男の妻子への贈与
長男の妻や子への贈与が特別受益にならないかの問題ですが、相続人以外への贈与は特別受益にはならないとされているので、基本的には当該贈与が特別受益になることはありません。
しかし、実質的には相続人である長男Bへの贈与と同じと見れる場合は、例外的に特別受益と認められる場合があります。
本来Bが負担すべきCの学費をAが援助していたような場合、学費はCの親であるBが支払うべきものをAが支払ったことは、実子的にAのBへの贈与とみる余地があり、特別受益に該当する可能性があると言えます。
ただし、AによるCへ贈与でBの生計維持に貢献したとしても、その行為は黙示的に特別受益の持ち戻し免除の意思があったものとして特別受益に当たらないと判断されたケーズもあります。
死亡保険金
次男Cとしては、長男家族が家賃も払わずAと同居し、Aの預金も引き出している等の状況から、更に保険金までもBが全部取得するのか、という思いになるかもしれません。
一般的に死亡保険金は、被相続人からの贈与ではなく保険契約により受取人に支払われるものなので、特別受益には該当しないとされています。
長年Aが保険金を支払い、その結果、Bが保険金を取得することできると思うかもしれませんが、払い込んだ保険料と保険金は等価の関係ではありませんので、基本的に相続財産とはなりません。
ただし、過去において保険金額が特別受益に該当しないか裁判で争われ、事情によっては該当すると判断されたケースがあります。
判決では「保険金受取人である相続人と他の相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほど著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合は、死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる。」と示されています。
しかし、保険金額がいくら以上であれば特別受益に該当する、というよう明確に基準はなく、保険金額や遺産総額に対する比率、被相続人と受取人との関係、相続人の生活実態等々、諸般の事情を総合的に考慮して判断されることになります。
引用文献)実務家も迷う 遺言相続の難事件(新日本法規)