遺産分割協議は簡単ではない

遺言書がない場合、相続人全員でどのように遺産を分けるか話し合って決めることになります。
日頃仲の良い家族であったとしても、相続は互いの利益が相反する関係になるのでまとめるのは簡単ではありません。

法定相続割合通りにすれば問題は無いのですが、家族には歴史があり各相続人と故人の関係も異なるのでどのように遺産分けしていくかの思いも異なるでしょう。
故人の生前中に多くの金銭的援助をしてもらった相続人は法定相続割合を望むでしょう。
しかし、何の援助もしてもらっていない相続人にとっては不公平に感じるかもしれません。
また、故人と一緒に住んでいて介護をしていた相続人としては、何もしていない相続人と同じ相続割合だと不満に思うこともあるかもしれません。
相続人に配偶者がいたり、子がいたりすると、その方たちの意見も加わるのでまとめるのは更に難しくなります。

そこで法律は、このような不公平感を是正すべく調整することを認めています。
それが、「特別受益」と「寄与分」です。

特別受益

特別受益は、特定の相続人が故人の生前中に受けた特別な利益のことを言います。

特別受益の対象となる主なものとしては、
遺贈
・婚姻、養子縁組のための贈与

・生計の資金援助
・結婚資金
・住宅資金
・留学費用
等々があります。

上記は主なものであって、内容に制約があるわけではありません。
※上記の行為がすぐに特別受益として認められるわけではありません。

特別受益の精算方法

相続人間で特別受益について合意できれば、特別受益額を反映した遺産分割を行います。
計算方法は以下の通りです。

『特別受益を得た相続人』
「相続財産+特別受益額」×法定相続分-特別受益額

『以外の相続人』
「相続財産+特別受益額」×法定相続分

特別受益の問題点

特別受益には時効がないので、故人が相続人した何十年も前の受益行為も対象となります。
相続人間の協議の場で、「あの時、あなたは〇〇をしてもらった」「あなたは○○をするのに資金を援助してもらった」等々の言い合いになってしまうと収拾がつかないことになり、結果、深い溝ができてしまうことになってしまいます。

当事者間で特別受益に関して合意できなければ、家庭裁判所に判断してもらう(調停、審判)ことになりますが、裁判所の特別受益に対する認定はハードルが高いと言えます。
民法には、一定の範囲の親族間において扶養義務を規定いています(民法877条1項:直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。)。
親が子を扶養するのは特別なことではありません。
いろいろな支援を受けていても、扶養の範囲内と判断されることが多いです。

また、家庭裁判所の判断には故人の経済力社会的地位等も影響します。
子の1人が入学金、授業料が高額な私立の歯学部にいっていて、その費用は特別受益に該当すると訴えた相続人に対して、裁判所は特別受益にあたらないとの判決をしました。
これは、親が開業医で高額な費用ではあるが特別なことではないと判断したようです。

このように同じ行為でも社会的、経済的等の環境で判断も変わってくるので一概に何をされたら特別受益になるという事はできません。

寄与分

寄与分とは、故人の生前中に財産の維持又は増加に寄与した相続人に対して、その寄与分を遺産分割に反映させる制度です。
相続人が寄与したから相続財産が維持、増加したので、それを何も寄与していない相続人と均等に分け合うのは公平ではないとする観点から設けられました。

故人の商売、事業への無償での労務提供や金銭等の援助、故人の療養看護等々が該当します。
労働者として雇ったり看護・介護を依頼すれば、当然その対価を故人の財産から支払わなければいけませんが、相続人が無償でそれをすることで故人の財産の維持に貢献したことになります。
その貢献した分を何もしていない相続人と均等に分割して相続するとなると、貢献した相続人が不満を感じるでしょう。
そこで民法は、特別受益と同様に相続人の寄与分を調整して遺産分割することを認めています。

寄与分としてあげらえる主なものとしては、
・金銭等経済的援助
・看護・介護
・無償による労務提供
・扶養
・故人の財産管理
等々があります。

※上記の行為がすぐに寄与分として認められるわけではありません。

寄与分の種類

寄与分は次の5つの行為に分類されて検討されます。

  1. 事業従事型
    故人の仕事を無償又は無償に近い形で手伝っていたようなケース。従事した期間も重要で、1,2年くらいの短期間では認められにくいです。
  2. 金戦等出資型
    生計費や家の修理費等、故人のために金銭(不動産等も含む)等を援助したようなケース。
  3. 療養看護型
  4. 扶養型
  5. 財産管理型
    アパートや駐車場等を経営していた故人が高齢で管理できなくなって代わりに管理をしていたようなケース。

寄与分は、上記に分類に当てはめて主張することが大切です。

寄与分の精算方法

相続人間で寄与分について合意できれば、それを反映した遺産分割を行います。
計算方法は以下の通りです。

『寄与した相続人』
「相続財産ー寄与分額」×法定相続分+寄与分額

『以外の相続人』
「相続財産ー寄与分額」×法定相続分

寄与分の問題点

当事者間の話し合いで寄与分が合意されれば、計算式に従って遺産分割することになりますが、話し合いがつかなければ家庭裁判所に解決をお願いすることになります。
家庭裁判所は寄与分の認定について以下を判断基準としています。

  1. 被相続人の財産が維持、又は増加したか。
  2. 維持、増加について特別の寄与をしたか。
  3. 寄与と維持、増加との間に因果関係があるか。

上記の中で重要なのが2番目の特別の寄与になります。
特別受益でも説明しましたが一定の親族間には扶養義務があり、この扶養義務をベースに特別の寄与であるかどうかが判断されます。

例えば看護に関して、妻が夫を、子が親を看護することは特別なこと、、とは言えません。
私はこれだけ看護した、それを介護者を雇ってやってもらったらこれだけのお金がかかる、その分は私の寄与分です、と主張しても、裁判所からは子供であれば親が病気のとき看護するのは特別なことではないでしょ、と言われてしまいます。
認めてもらうには、通常の扶養義務、子の看護の範囲を超えて、自身の時間をかなり犠牲にして長期間看護していたような事実が必要になります。

過去に裁判で争われたもので、認知症がすすんだ夫の数十年間に及ぶ妻の看護が寄与分として認められていますが、約2年入院していた夫の看護をした妻に対しては、夫婦としての相互扶養の範囲を超えないとして寄与分を認めませんでした。

このように、「これをしたら寄与分」と一概に言えないところが難しいです。