相続登記を長年放置したままで、最後の名義人が明治・大正・昭和の時代の人であるような不動産の相続手続きには注意が必要です。

相続法は時代と共に改正されていますが、最新の相続法が全ての相続に適用されるわけではありません。
例えば、不動産の名義人が昭和の初めに亡くなっている方のままになっているので相続登記をしようとするとき、「今」の相続法ではなく「当時」の相続法に従って手続きをしなければいけません。

明治から現代にかけて相続法は複数回改正されているので、相続が発生したときの相続法に基づき順を追って手続きを進めていくことになります。

相続法改正の変遷

「家督制度」と聞くと、はるか昔にあった「家」を中心とした制度と思われる方も多いです。
基本的には長男が跡取りとして全てを相続する、いわゆる総どりの制度ですが、この制度は昭和22年まで採用されていました。

憲法改正と同時に家督制度が規定されている明治31年民法「旧民法」は廃止され、現在の相続法に近い民法に改正され、その後も、何度か改正されています。
長期間放置されていた相続手続きを行う場合、まず、どの時期の相続法を適用するかを確認しながら進めていきます。

旧民法(明治31年民法)

戸主が総どりする「家督制度」は、昭和22年5月3日に廃止されるまで採用されていた日本の相続制度です。
相続は発生した時点の相続法が適用されるので、明治31年7月16日から昭和22年5月2日の間に亡くなった方の相続手続きは「家督制度」(明治31年民法)に基づいて行われることになります。
31年民法での相続は「家督制度」と「遺産相続」の2っパターンに分けられています。
戸主の相続が「家督制度」で、戸主以外の者の相続が「遺産相続」になります。

家督制度

戸主の死亡、戸主権喪失による相続、生前相続(隠居、国籍喪失等)が発生した場合、家督相続が行われます。

家督相続の開始原因としては、「戸主の死亡、隠居又は国籍喪失等」「戸主が婚姻又は養子縁組の取消しによってその家を去ったとき」「女戸主の入夫婚姻又は入夫の離婚※1」が規定されています。

戸主に相続が生じ場合、以下の順に従って次の戸主(相続人)を決めます。

  1. 第一種法定推定家督相続人(直系卑属※2)
  2. 指定家督相続人(前戸主によって指定された者)
  3. 第一種選定家督相続人(父、母又は親族会で家族の中から選定された者)
  4. 第二種法定家督相続人(家に在る直系尊属中最も親等の近い者)
  5. 第二種選定家督相続人(親族会によって被相続人の親族、家族、分家の戸主又は本家若しくは分家の家族から選任された者)

※1:男子がいなく娘だけの場合、長女を戸主(女戸主)とすることも認められていました。その女戸主が結婚して婿をとると、その婿が新たに戸主となります、また、その後離婚すると、婿は家を出て新たな戸主が定められます。

※2:卑属にも以下のような優先順位があります。
1.親等が近い者(子⇒孫⇒曽孫と被相続人に近い者が優先)
2.男子優先(同じ親等では男子が優先)
3.嫡出優先(同じ親等の男子では嫡出子が優先。同じ親等の嫡出女子と庶子男子は庶子男子が優先)
4.年長優先(同じ親等の年長が優先)
※私生子については省略

ただし、昭和22年5月2日以前に生じた相続でも以下のようなケースでは、家督相続ではなく新民法が適用されます。

  • 第1順位の法定家督相続人及び第2順位の指定家督相続人はいないが、第3順位の選定家督相続人になり得る家族(配偶者、兄弟姉妹等)がいる。
  • 第1、2、3、4順位の家督相続人になり得る者がいなく、第5順位の家督相続人を選定しなければいけない。

例えば、戸主には第1順位推定家督相続人となる子や選定家督相続人はいないが妻と兄弟姉妹がいる場合、相続は新民法に従って妻と兄弟姉妹が共同相続することになります。

遺産相続

遺産相続は、戸主ではない方が亡くなった場合の相続に関する制度です。
昭和22年5月2日以前に死亡されていても、以下の財産に関しては家督相続ではなく遺産相続で手続きが行われることになります。

  • 家族(戸主でない者)が自己の名で取得した財産
  • 隠居者が留保した財産(隠居後の生活等のため)、隠居になってから取得した財産
  • 入夫婚で女戸主が留保した財産、女戸主が婿に承継した後に取得した財産

隠居の相続に関して、隠居前の戸主の時に取得した財産は「家督相続」、隠居後に取得した財産は「遺産相続」に基づいて相続されます。

この場合の相続順位は、

  1. 直系卑属(同じ親等であれば男女差はありませんが、嫡出・非嫡の差は有ります。)
  2. 配偶者
  3. 直系尊属
  4. 戸主

※兄弟姉妹による相続は認められていません。

    ご覧のように、遺産相続は今の相続法に近いと言えます。

    不動産登記簿に所有者と記載されたいる方の戸籍謄本を見て昭和22年5月2日以前に亡くなっていれば、その方の次の所有者(相続人)となるべき方を上記の基準に従って調査することになります。
    例えば、この方が戸主で長男を含むお子さんが4人いる場合、家督制度を適用して長男が全部相続していることになるので、不動産は長男名義に登記します。
    そして、この長男の方も亡くなられていれば、同じように亡くなられた当時の相続法に従って手続きを行うことになります。

    改正民法

    敗戦と共に帝国憲法は廃止され新たに日本国憲法が昭和22年5月3日に施行されました。
    この時、同時に民法も改正されることになりました。

    よって、「昭和22年5月3日」以降に生じた相続について新たな相続法が適用されることになります。

    応急措置法

    新憲法施行と同時にしようとした民法の改正が間に合わなかったので、応急的に相続に関して昭和22年12月31日までの期間に適用する臨時法が制定されました。

    よって、昭和22年5月3日から同年12月31日までに亡くなられた方の相続は、以下の応急措置法が適用されます。

    相続順位(配偶者は常に相続人)と相続割合

    1. 直系卑属:配偶者 1/3 直系卑属 2/3
    2. 直系尊属:配偶者 1/2 直系尊属 1/2
    3. 兄弟姉妹:配偶者 2/3 兄弟姉妹 1/3
      (兄弟姉妹の子に代襲相続権なし)

    改正民法(昭和23年1月1日から昭和37年6月30日)

    昭和23年1月1日より、新民法の相続法が適用されます。
    この相続法は昭和37年6月30日の間に亡くなられた方の相続に適用されます。

    応急措置法と相続順位、相続割合は変わりませんは、兄弟姉妹について直系卑属・尊属と同様の代襲相続権(孫以降の卑属の相続可)が認められています。
    また、半血(※1)の兄弟姉妹の相続分は全血の兄弟姉妹の1/2とされました。
    ※1:半血の兄弟姉妹とは、親のどちらかが異なる兄弟姉妹のことを言います。

    改正民法(昭和37年7月1日から昭和55年12月31日)

    同時死亡の推定規定を設けたり、第1順位の相続人を子と定め、孫以下の直系卑属には相続権がないとしました(代襲相続権は有)。
    相続割合等は改正前と変わりません。

    改正民法(昭和56年1月1日~平成12年9月30日まで)

    昭和56年1月1日以降に亡くなられた方の相続は、現行と同じになります。
    各相続人の相続割合が変更され、兄弟姉妹の代襲相続は子まででとし、孫は代襲相続人とならなくなりました。
    非嫡出子の相続割合は嫡出子の2分1になります。

    相続順位(配偶者は常に相続人)と相続割合

    1. 直系卑属⇒配偶者 1/2:直系卑属 1/2
    2. 直系尊属⇒配偶者 2/3:直系尊属 1/3
    3. 兄弟姉妹⇒配偶者 3/4:兄弟姉妹 1/4
      (兄弟姉妹の子のみ代襲相続可)

    改正民法(平成12年10月1日~平成13年6月30日まで)

    ※これ以降は、非嫡出子の相続割合(嫡出子の2分の1)の取扱いに関する変更になります。

    基本的には、非嫡出子は嫡出子の2分の1相続になると思われます。
    ただし、平成12年9月に生じた相続について最高裁は合憲(嫡出子の2分の1)と判断した判例がありますが、平成12年10月から平成13年6月30日までに生じた相続について判断された最判例はありません。
    よって、遺産分割が確定していなければ次の平成13年7月から平成25年9月4日までの取扱いと同様に嫡出子と同等と主張できる可能性はあります。

    改正民法(平成13年7月1日~平成25年9月4日まで)

    遺産分割が確定してる場合(遺産分割協議や調停、審判等が終了している)は、非嫡出子の相続割合に変更なし(嫡出子の2分の1)。
    確定していない場合は、非嫡出子は嫡出子と同じ相続割合となります。

    改正民法(平成25年9月5日~)

    非嫡出子の相続割合は、一律に嫡出子と同等として扱います。

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