内縁関係(事実婚)の相続
婚姻届を提出していないご夫婦のことを、以前は内縁関係と言っていましたが、現在は事実婚と言うようになりました。
民法上で夫婦に対して規定している法律が、事実婚夫婦にも適用(類推適用)される場合があります。
「同居協力義務」「婚姻費用分担義務」等々です。
婚姻夫婦が婚姻関係を解消(離婚)する場合、夫婦共有財産の財産分与が問題になります。
夫婦が協力して取得・形成維持した財産は、基本的に夫婦共有財産となり、離婚時には財産分与の対象となります。
婚姻関係にない事実婚夫婦が別れる場合(内縁関係を解消)でも、離婚の場合と同じく財産分与の規定が類推適用され内縁期間中に形成維持した財産は夫婦共有財産としてとして財産分与の対象になります。
夫婦関係・内縁関係は、婚姻・内縁関係解消だけでなくどちらかの死亡によっても終了します。
婚姻夫婦では民法で規定される相続法が適用されます。
しかし、事実婚夫婦には相続法は類推適用されません。
どんなに長く事実婚状態が続いていても、どんなに亡くなられた方の財産形成に寄与していても、亡くなられた方のお相手には相続権は認められません。
つまり、相続に関しては全くの他人として扱われます(※1)。
※1:法定相続人が誰もいなければ、「特別縁故者」として相続財産を取得できる場合があります。
内縁(事実婚)夫婦間に子供がいる
事実婚で子供がいる夫が亡くなった場合で、相続人に関して以下のようなケースが考えられます。
- 事実婚(夫A、妻B、子C):相続人はCのみ。Cが全部相続します。
- 婚姻婚(別居中)(夫A、妻B)、事実婚(夫A、妻C、子D):相続人はB、D(※2)
※2:離婚が成立していない状態での事実婚の場合、婚姻婚の妻Bは法律上の妻として相続権を取得します。また、AB間に子供がいれば、その子もDと同等の相続権を取得します。
例えば、婚姻婚(夫A、妻B、子C、D)、事実婚(夫A、妻E、子F)の場合、法定相続割合は、妻B=1/2、子C=1/6、子D=1/6、子F=1/6になります(婚姻婚側=5/6、事実婚側=1/6)。
重要なのは、事実婚の子供の認知です。
母親とは分娩により法律的にも親子関係になりますが、事実婚の場合、父親とは認知によって法律的親子関係になります。
認知されていない状態で父親が亡くなった場合、何もしなければ実の子供であっても相続人にはなれず一切遺産を承継することはできません。
相続人になるには、子供側から検察官を相手に認知の訴えを提起しなくてはいけなくなります(死後認知の訴え)(※1)。
※1:死後認知の訴えは、父親が死亡して3年経過したら時効により訴えることができなくなります。
内縁(事実婚)夫婦間に子供がいない
事実婚で子供がいない場合、事実婚妻に相続権はなく相続財産を受け継ぐことはできません。
長年連れ添って事実婚夫名義の財産形成に多大な貢献をしていても、全て事実婚夫の法定相続人が取得することになります。
つまり、事実婚夫の相続手続きは、事実婚妻の存在を無視して別居中の妻や子(結婚していなければ親又は兄弟姉妹)によって行われることになります(※2)。
※2:一緒に住んでいた事実婚夫名義の家、一緒に商売をしていた事実婚夫名義の店等々は失うことになります。
内縁(事実婚)家族に相続させる方法
事実婚家族にしっかり遺産を受け継いでもらう方法は、「遺言書」を残しておくことです。
事実婚妻は相続人にはなれませんが、遺言書で遺産の遺贈先に指定することができます。
法定相続人の遺留分の問題(※3)はありますが、財産全部を事実婚妻に遺贈(包括遺贈)することもできます。
特に、事実婚夫婦の子供が相続人となる場合、遺言書が無ければその子供は父親の婚姻婚家族と遺産分割協議をしなくてはいけなくなります。
どちらの当事者にとっても精神的負担は大きいでしょうし、弁護士を代理人として協議すればそれなりに費用が発生します。
当事者間の協議を回避するためにも遺言書を残しておくことが大切です。
その他の方法としては、
上記の様な方法が考えられます。
生前贈与に関して、年間110万円までの贈与には贈与税がかかりません。
超える分には相続税より高率の贈与税がかかりますが、贈与された分は相続の対象にならないので婚姻婚家族と分割について協議する必要はなくなります(※4)。
家族信託では、個人の金銭や不動産を信託財産として個人の財産から分離するので、当該個人が亡くなったときに相続の対象にはなりません。
ただし、手続きが複雑で費用もかかってしまいます。
事実婚夫婦共同で商売、事業をしている場合、商店や会社の財産が夫名義であれば相続の対象となってしまうので、法人化することで個人の財産から切り離すことができます。
ただし、個人所有の会社の株式は相続の対象となるので注意が必要です。
※3:遺留分とは、法定相続人に認められている相続割合です(妻と親のみで兄弟姉妹には認められていません)。婚姻婚の妻には遺産の4分の1を遺留分として相続する権利が認めらています。婚姻婚妻がこの権利を主張すれば、例え遺言書に全財産を事実婚妻に遺贈すると書かれていても、婚姻婚妻は4分の1を相続することができます。
※4:特別受益(特別受益の詳細はこちら)は相続人に対するもので、事実婚妻は相続人ではないので基本的に特別受益の対象になりません(ただし、子供がいる場合、相続人である事実婚の子供に贈与されたものを事実婚妻が受領したとして、子供に対する特別受益を主張されるおそれはあります。)。
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