お金を金融機関等から借りるとき、多くは担保をもとめられます。

返済できなくなった場合は、担保になっている不動産は競売等で換金されて返済に充当されることになります。

担保権にはいくつか種類がありますが、表題の根抵当権も担保権の一つです。

抵当権は住宅ローン等で一般の方にもなじみがあると思いますが、根抵当権となると?

抵当権と同じように考えられている方もおられるかもしれません。

お金を借りる際に担保となる不動産に設定する点は抵当権と同様ですが、内容は異なる部分が多いです。

根抵当権とは

親が亡くなり相続のために親名義の土地の登記簿を取得したら、根抵当権が設定されていた、ということがあります。

抵当権なら分かるけど根抵当権って何?

登記簿に書かれている「極度額」「債権の範囲」とは?

根抵当権は主に事業用に借り入れる際に利用される担保権ですので、一般の方が利用することはあまりありませんが、事業をされている方、親が商売や事業をしていてその事業を相続で引き継ぐような場合に根抵当権とかかわる場面が出てきます。

抵当権とは異なり根抵当権特有の手続もあったりしますので、根抵当権について理解しておくことが重要です。

抵当権との比較

家を建てるときに銀行から住宅ローンで購入資金(例えば2000万円)を借りると、金融機関にとって2000万円は「債権」であり、この債権の担保として家と土地に「債権額」を2000万円とする抵当権を設定登記します。

貸した2000万円が返済できなくなれば、金融機関は抵当権を実行して家と土地を差押え、競売してお金を回収します。

2000万円(利息含む)を完済すれば、抵当権は効力を失い消滅します。

このように、2000万円(債権)と抵当権は一体の関係にあり、これを抵当権の附従性と言います。

仮に、2000万円の内1000万円を返済し、新たに500万円を借りる場合、既存の抵当権は先に借りた2000万円と一体になっているので、新たに借り入れる500万円は既存の抵当権では担保されません。

500万円を担保するには、新たに抵当権を設定登記する必要があります。

対して根抵当権に「附従性」がありません。

債権と根抵当権が一体の関係にない、ということになります。

根抵当権とは、対象となる不動産を担保にして借入できる金銭の枠とお考えください。

枠(借りれる限度額)を「極度額」と言います。

※極度額=借入額とは限りません。極度額とは不動産を担保に借りれる限度額なので、実際に借りている額と異なることが多いです。

極度額を500万円として500万円を借り、その後500万円全額返済しても根抵当権は債権と一体化していないので、500万円の債権は返済で消滅しても根抵当権は消滅しません。

その後、新たに300万円借り、更に追加で200万円借り場合、500万円の極度額の枠内なので、全部が既存の根抵当権で担保されることになります(ただし、後に説明する債権の範囲内であることが必要です)。

事業や商売をしていると、借りたり返済したり、また借りたりということが繰り返されます。

抵当権だと、返済により抵当権抹消し、新たな借入をするときはまた別の抵当権を設定しなければならず、手続きが面倒になってしまいます。

その点、根抵当権を設定登記すれば、極度額の枠内であれば、当該根抵当権を使って返済、借入を何回も繰り返すことができます。

債権の範囲

根抵当権を設定する場合、極度額を設定しますが、それと同時に担保される「債権の範囲」も設定します。

対象となる債権は、以下の内容の債権で、この中で何を担保するものを「債権の範囲」として登記することになります。

  • 継続的取引契約に基づく債権
  • 一定の種類に基づく債権
  • 特定原因基づく債権
  • 手形や小切手上の債権
  • 以外で担保することを定めた特定債権

銀行等の金融機関からの借入の場合、債権の範囲は基本的に「銀行取引」「信用金庫取引」「手形債権」「小切手債権」等々となります。

これにより、極度額の枠内で行われる銀行との間で繰り返し行われる借入・返済が担保されることになります。

債権の範囲でない債権は、同じ根抵当権者からの借入であっても担保されません。

但し、「債権の範囲」は登記後であっても変更することができるので、範囲外の債権を範囲に加える変更をして担保するようにすることは可能です。

元本確定

根抵当権は債権と一体化していないので、繰り返し借入返済ができると説明しましたが、元本が確定すると(債権額が確定する)抵当権と同様に債権と一体化し、以後は当該根抵当権を使って新たな借入ができなくなります。

元本が確定する要件は複数ありますが、主なものとして以下があります。

  1. 予め確定期日を定め、その期日が到来したとき。
  2. 根抵当権者又は債務者が死亡し、その日から6ヶ月以内に継続の手続をしなかった場合。
  3. 根抵当権者又は設定者(所有者)が元本確定請求をした場合(確定期日の定めがない根抵当権限定)。
    根抵当権者はいつでも、設定者は設定後3年経過すれば請求できます。
  4. 根抵当権者と設定者が元本確定の合意をしたとき。
  5. 債務者又は設定者が破産したとき。

 相続との関係

根抵当権者又は債務者が死亡した場合、基本的に死亡した日に存在する債権が被担保債権として確定し、根抵当権と一体化します。

抵当権と同じになるので、以後、当該根抵当権で新たな借入をすることはできなくなります。

根抵当権者が個人である場合はまれですので、ここでは債務者が亡くなった場合の根抵当権との関係についてご説明します。

債務者死亡と根抵当権

根抵当権の債務者が亡くなると、基本的に亡くなった時点の債権額で元本は確定します。

1000万円を極度額とする根抵当権で債務者が亡くなった時点の借入額(残債)が700万円であれば、700万円で元本確定し、700万円と根抵当権が一体化(抵当権と同様になる)するので、以後、元本の700万とその利息を返済するのみになり、当該根抵当権を使って新たな借入をすることはできなくなります。

しかし、故人が事業・商売をしていて、その子である相続人が事業を引き継いで行うような場合、相続人としては引き続き既存の根抵当権を使って新たな借入・返済を繰り返し行いたいと思うでしょう。

そこで、亡くなってから6ヶ月以内であれば、元本を確定させないように手続きを行うことができます。

※元本が確定すると、確定した債権は各相続人が法定相続割合にしたがって相続することになります。法定相続割合と異なる割合で相続することを相続人間で合意しても、根抵当権者に承諾してもらわなければ根抵当権者に対して効力は生じません。

根抵当権の継続手続き

債務者の相続の登記と債務者の立場を引き継ぐ債務者指定の登記を故人が亡くなって6ヶ月以内にすれば、元本は確定せず引き続き当該根抵当権を利用して新たな借入をすることができます。

債務者Aが亡くなり、その相続人がB、C、Dの場合、一旦、債務者として相続人B、C、Dに変更登記をします。

その後、相続人の中から特定の者が債務者としての地位を引き継ぐことを根抵当権者と合意して、その旨の登記(債務者指定の登記)をすることで、債務者となった特定の相続人は引き続き既存の根抵当権を利用して新たな借入をすることができるようになります。

この場合、既存の根抵当権で担保される債権は、相続発生時に存在していた債権及び登記後に発生した指定された債務者と根抵当権者間の債権が担保されることになります。

また、根抵当権者の承諾を得て共同で債権の範囲の変更登記をすれば、登記前に存在する根抵当権者と指定債務者との債権も当該根抵当権で担保されることになります。

まとめ

多くの方が利用する抵当権は「住宅ローン」であり、「借りたお金」「債権額(担保される額)」「抵当権」が全て一体になっています。

家を建てるためのお金を借りて、それを担保するために不動産に抵当権を設定登記し、後は金利を含めてひたすら返済し、完済によって当然に債権も抵当権も消滅します。

根抵当権は、事業・商売をしている方が最初に借入をし返済、完済しても、新たな担保権を設定せずに既存の担保権(根抵当権)を利用して引き続き新たな借入をしたいというような場合に便利です。

個人の方が収益不動産としてアパートやマンションを購入するような場合も根抵当権が利用されたりします。

マンションを購入した場合、長期間経過すると修繕が必要になります。

大規模修繕であれば数百万円の費用が必要になったりします。

抵当権であれば、既存の抵当権を利用して新たな借入はできないので、新たに抵当権を設定登記しなければならず、手続きの手間、費用がかかってしまいます。

しかし、根抵当権であれば、新たな借入が既存の根抵当権の借入枠内(極度額内)で債権の範囲内であれば、借入の契約のみで登記の必要がありません。

事業等で金融機関と継続的にお金の借入、返済の繰り返しをすることを望まれる方は、根抵当権を利用する方が良いでしょう。

設定や変更、抹消には専門的な知識が必要ですので、司法書士にご相談ください。