古い抵当権

親から相続した土地、山林に明治時代の抵当権が設定されているようなケースがままあります。

このような抵当権は、どのような影響をもたらすか?
心配になるところです。

100年以上も放置されているような抵当権だから、機能していないだろうし、もう無視してもいいのでは?と思われる方もおられます。

このような抵当権を「休眠担保権」と呼び、実質的には機能していないかもしれません、登記簿に抹消されずに残っている以上、100年以上前のものだろうが昨日設定した抵当権と効力は変わりません。

抵当権が設定されていることで、明治時代に債権者(抵当権者)が債務者にお金を貸して、土地を担保にした、という事実があります。

そして、現在に至るまで当該抵当権が抹消されていないということは、「貸したお金が完済されていない」「完済したが抹消登記手続きをしていない」ということが考えられます。

現実的には、ご自身が所有し続ける分にはすぐに何か問題が発生するようなことは、あまりないと思われます(※1)。

しかし、第三者に売却する場合、この抵当権の存在が問題になります。

抵当権が付いたままだと売却は難しいので、その段になって抵当権を抹消できますか?と相談に来られる方がいらっしゃいます。

古くて機能もしていないような抵当権だから簡単に抹消できるだろうと、抹消のご相談に来れられるのですが、抹消は簡単ではありません

抹消方法はいくつかありますが、1週間位で抹消できるというもではなく、数ヶ月を要する(1年を超すことも)ことが多いです。

※1.「貸したお金が完済されていない」という理由で抵当権が残っている場合、理論的には残債に対して遅延損害金(返済期限を過ぎても返済されていない元金にかかる利息)が現在も発生し続けていることになります。
ポイント抵当権者が法人(会社)である場合の抹消についての詳細はこちら

古い抵当権の抹消

通常、抵当権の抹消は、抵当権者と設定者(不動産所有者)が共同で申請します。

しかし、古い抵当権の場合、抵当権者に相続が発生していたり、登記簿上の住所にいなかったりと、抵当権者を特定することが簡単ではないケースが多いです。

これらを踏まえて、抹消方法としては以下の方法が考えられます。

  1. 抵当権者と共同で抹消。
  2. 除権決定を得て抹消。
  3. 弁済証書による抹消。
  4. 債権額等を供託して抹消。
  5. 裁判で勝訴判決を得て抹消。

共同で抹消申請

抵当権者と共同して抹消登記申請をする方法が基本になります。

この方法で問題になるのが、抵当権者の確認と協力意思になります。

古い抵当権だと登記簿上の抵当権者は既に亡くなっている場合が多く、この場合、当該抵当権はその相続人に承継されていることになりますが、この相続人調査がその後の手続きに大きく影響します。

抵当権者が亡くなっていてその子さんがA、Bの2人、2人とも健在であれば、早くに抵当権者が特定でき、後はその方たちに抹消手続きの協力をお願いすることになります。

しかし、A、Bさんも亡くなっていて、Aさんには子3人、Bさんには子4人、また、その子の内3人が亡くなっていて、、、と調査する過程で相続人がどんどん増えていくことがあります。

相続人調査で戸籍を追っていくことや、相続人の居住が全国に散らばっていたりすると、相続人を確定するだけで数ヶ月を要することもあります。

また、相続人の中に行方不明者がいると、通常での共同申請はできなくなります。

共同申請への協力

相続人が確定した後、相続人全員に共同申請の協力をお願いしなければいけません。

皆さんが快く応じてくれる、というものではなく、かかわりたくないと拒否されたり、申請には実印や印鑑証明書を準備いただくことになるので、それなるの費用(いわゆるハンコ代)を支払うようなこともあり、その金額でまとまらないこともあります。

相続人が多くなればなるほど調整は難しくなるので、その場合は他の方法を検討することになります。

除権決定と弁済証書による抹消

この2つの方法は、ほとんど使われていません。

除権決定による方法は、抵当権者が行方不明の場合に利用できますが、公示催告が必要で時間がかかり、また、除権決定を得るために種々の証拠書類が必要で使い勝手が悪いです。

弁済証書による抹消には、債務を完済したことを証する書類が必要になりますが、ほとんどのケースでそのような書類はないか、保管されていません。

このような理由により、よほど昔の書類がきれいに揃っている、というような場合以外はこれらの方法はあまり使われません。

債権額等を供託して抹消

供託による抹消手続きを行う場合、以下の要件を満たしていなければいけません。

  1. 抵当権者が行方不明である。
  2. 弁済期から20年が経過している。
  3. 債権額、利息、遅延損害金の全額を供託している。

古い抵当権の場合、登記簿に記載されている住所を調査しても抵当権者が居住(又はその家族である相続人が居住)していなく、生死も含めてどこに居住している行方不明状態になっていることも少なくありません。

この場合、債権額等を供託することで不動産所有者が「単独」で抹消できる制度が設けられています(不動産登記法70条3項)。

古い抵当権を抹消する方法としては、この供託による抹消がメインになります。

いくつかの要件はありますが、「単独」で特殊な証拠書類等も必要なく供託するだけで抹消できるので、現実的な抹消方法となっています。

ただし、昭和の時代の抵当権で債権額が大きく、現在までの損害金を加算するとかなりの高額になってしまうような場合、供託による方法を使えませんので、裁判等の他の方法での抹消を検討することになります。

ポイント供託による抹消手続きの詳細はこちら

裁判を経て抹消

共同申請や供託による申請ができない場合に、最終的に抵当権者(又はその相続人)を被告として抹消するために訴訟を提起し、勝訴判決を得て不動産所有者が「単独」で抹消申請して抹消する方法をとります。

抵当権者(又は相続人)は調査により判明しているが、共同申請に協力してくれない、高額なハンコ代を請求された等々の理由で共同申請ができない場合、訴訟による解決を図ることになります。

また、供託手続と訴訟を組み合わせるケースもあります。

抵当権者(又は相続人)が複数人で、その中に行方不明者がいる場合、当該行方不明者に対しては供託手続きをとり、他の者で共同申請に協力してくれない者に対して訴訟を提起する、というような場合もあります。

ポイント裁判による抹消手続きの詳細はこちら

費用について

古い抵当権を抹消する場合、上記のように状況によって選択する抹消方法が異なるので、事前にお見積額をお知らせすることが難しいです。

おおよその目安としては、選択する方法によって以下の様になります。
※関係者の人数・状況、抵当権の内容等で費用は変わりますので、下記費用は一応の目役とお考え下さい。

共同申請で抹消は、5.5万円~。
供託抹消であれば、8.8万円~(同上)。
裁判抹消であれば、16.5万円~(同上)。

※上記に抵当権者(相続人)の調査費用等の実費(戸籍謄本等の取得費+1100円/通の手数料、郵送費、裁判所費用等々)が必要です。

抹消方法の変更や新たに判明した事実等により費用が変わる場合があります。
例えば、当初、協力的だった抵当権者が途中から非協力となり、一切手続きに応じないようになった場合、共同申請での抹消を諦め訴訟による抹消に切り替えるようなケースもあります。
この場合、事前に費用に関して説明をさせていただき、ご了解を得た上で訴訟を行うことになります。

費用を2段階制に

抹消手続きで、まず行うことは抵当権者調査(相続人調査)になります。

抵当権者の戸籍・除籍謄本等を取得し、亡くなっていればその相続人の戸籍を、その方も亡くなっていればその方の相続人の戸籍を、と戸籍を追っていくことになります。

除籍謄本を取得するには750円/通、戸籍謄本は450円/通、及び手数料がかかります。

相続人が30人、40人、それ以上と多くなれば、これらの書類を取得するだけで、10万円を超えることもあります。

このように、私ども司法書士もフタを開けてみないとどの位の費用がかかるか分かりません。
また、依頼者にとっても、いくらかかるか分からない状態で依頼をすることはご不安だと思います。

そこで、当所はご依頼をいただく場合、まず、調査費用として5.5万円をいただき、その費用の範囲内で抵当権者の調査を行います。

費用内で調査が完了すれば、調査結果に基づいて抹消方法を選択し、その時点で、抹消費用をお伝えし、ご確認いただいた上で抹消のための手続きに着手します。
※余った調査費用は、その後の抹消手続き費用に充当します。

5.5万円内で調査が終了せず、更なる調査が必要な場合、一旦、調査を中止、更に費用をかけて調査を行うか依頼人に確認させていただいた上で、調査を再開させていただき、調査が終了した時点で最適な方法を選択、費用をお伝えし、ご確認いただいた上で手続きに着手します。

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