事業承継の重要性

経営者の高齢化が進む中、どのような形で次の世代に会社を引き継いでもらうかは、特に中小零細企業にとって今後の会社の存続に影響する重大な課題となっています。

「子供や親族に継がせる」「見込んだ役員・従業員に継がせる」「外部から第三者を迎える」「他社に事業を引き継いでもらう」等々、形はいろいろあります。

最近は親族外への承継も増えていますが、やはり子供などの親族への承継が多いです。

事業承継での最大は注意すべきポイントは株式の譲渡方法になります。

譲渡したとたん、新たな経営者が従来と全く異なる方針を打ち出し前経営者、社員を巻き込んで会社が大混乱するということもあります。

大きな有名企業でさえ、このような事例を目にすることがあります。 どのような形で、いつ譲渡するかが事業承継の成否に大きく影響します。

親族への事業承継で注意すべきポイント

このケースでは3つの視点から検討します。

承継後の経営への関与

親族への事業承継は身内という安心感がありますが、いざ経営を任せると経営方針の違いで先代と対立してしまうということも少なくありません。

任せた以上経営には一切口を出さないということも一つのやり方ですが、それで会社の存続が危ぶまれるとしたら、社員と共に会社を今まで運営してきた先代としてはじっと見ていられないと思うことでしょう。

このとき、事業承継のやり方を間違えてしまうと、口を出すどころか、干渉されたくない現経営陣から会社から完全に排除されてしまうおそれがあります。

このような事態を回避するための事前対策として以下のような種類株式を発行しておくことが考えられます。

・拒否権付種類株式
・取締役選任付種類株式

【拒否権付種類株式】は黄金株と呼ばれます。

最終意思決定機関である株主総会で可決された事項を拒否権付種類株主総会で拒否することができます。

事業承継をする前にこの株を1株発行し保有していれば、残り株式全部を承継者に譲渡しても、自分の意に沿わない内容が株主総会で可決されたとき「それはダメ」とご意見番的立場で拒否できます。

このように強力な株式なので、自分以外の者が取得すると会社への影響が大きいです。

そこで、この株式に譲渡制限を付けて譲渡するには会社の承認が必要とし、また、所持者が死亡したときの処置方法(所持者が死亡したときは会社が取得する旨の取得条項を付ける等)も予め決めておくことが重要になります。

【取締役選任付種類株式】は名の通り、取締役を選任することができる種類株式です。

通常、取締役は株主総会の普通決議(過半数)で選任されますが、この株式が発行されると選任は当該種類株主総会で決定されることになります。

経営手腕に不安があり、実際に任せてその様子を見極めた上で正式な後継者としたい、と考えているような場合に有効です。

任期を1,2年と短い期間にしておき、経営者としての手腕に問題があると思えば、任期満了時に再任せず経営から外し、別の子、親族等を取締役に選任して経営を任せることができます。

ただし、取締役選任付種類株式以外の株を後継者に譲渡していれば、経営から外されたことで持ち株を第三者に売却されるおそれもあるので、予め譲渡制限を付けておくことが必要でしょう。
※取締役選任付種類株式は非公開会社のみ発行可能です。

株式譲渡と税金

株式を後継者に譲渡する場合、税金がかかります。生前に譲渡すれば贈与税、死亡による相続であれば相続税がかかります。

【贈与税】は贈与時の株式評価額に対して課税されます。

現在会社は赤字状態だがいずれ黒字化するというような場合、赤字状態のうちに贈与すれば税金を低く抑えることができます。

また、新たな設備を導入し生産能力を増強して売上アップが期待できるような場合は、売上が上がり利益が多く出ると株式の評価額も上がるので、その前の低いうちに贈与すれば贈与税を抑えることができます。

【相続税】は原則的評価方式と配当還元方式がありますが、大半は原則的評価方式が適用されるようです(非上場株式)。適用方法は規定されていますので自由に選択することはできません。

※制度の利用しての節税
【暦年贈与】株式を子・親族に贈与する場合、年間110万円の基礎控除があります。

110万円までの贈与は非課税です。毎年、110万円相当額の株式を後継者に贈与すれば贈与税はかかりません。この控除は”受贈者”毎に適用されるので、後継者である長男Aには110万円相当の議決権のある普通株式を、他の子に110万円相当の議決権のない株式を毎年贈与すれば相続税対策にもなります。

ただし、単に毎年110万相当額を10年に渡って贈与した場合、1,100万円の贈与を10回に分割しただけとみなされ1,100万円に対して課税されてしまうことがあります。毎回、贈与契約書を作成する等、税理士を含めて周到に準備することが必要です。

【相続時精算累進制度】は贈与者が亡くなるまでの間に総額2,500万円まで非課税で贈与することができる制度です。

非課税といっても、いわば相続財産の前渡しのようなもので、贈与者が亡くなれば贈与した分に相続税が課せられます。

相続税の計算は贈与された時点の株式評価額になるので、贈与された者が業績を上げて株式評価額が上がっても、相続税の計算基準は贈与時のまま、逆に業績悪化で評価額が下がった場合は、贈与時の高い額で相続税が計算されます。

※この制度を利用すると暦年贈与ができなくなります。また、相続財産が相続税の基礎控除額を大きく上回る場合は税金が高くなってしまうこともあるので、利用する場合は事前に税理士と相談することが必要です。

【事業承継税制】は中小零細企業の事業承継を税制面で支援しよとする制度です(経営承継円滑化法)。

事業承継する際に生じる贈与税や相続税の支払いにより、その後の事業継続に不安を抱く方も多いと思います。そのような場合、一定の手続き・認定をとることで贈与税・相続税の支払い猶予・免除が得られるのがこの制度です。

後継者が、都 道府県知事の認定を受けた非上場中小企業の株式等を先代経営者から相続又は贈与により取得し た場合において、相続税・贈与税の納税が猶予又は免除されます。
後継者が都道府県知事の認定を受け、先代事業者から相続又は贈与により事業用資産を取得した場合において、相続税・贈与税の納税が猶予又は免除されます。
※適用を受けるのは、一定の要件・申請・認定が必要です。

株式譲渡を相続として見たときの注意点

経営者が株式を保有したまま亡くなられたら、保有株式は相続財産の対象となります。

①遺言書が無い
法定相続分通りに株式は相続されることになります(全相続人で協議して決める事も可)。

相続人が後継者お一人であれば問題ありませんが、複数人いると株式は分散して相続されることになります。

全員が経営に参加すれば集団経営体制となり、参加しない相続人がいる場合は、その株式の扱い(他の相続人による買取、第三者への売却等)が問題になります。

集団経営体制は慎重に物事を決めるという点では良いですが、決断が遅くなったり、経営方針で内紛が生じるリスクがあります。

②遺言書を作成する
遺言書で意中の相続人に株式を相続させることで、後継者とすることができます。

ただし、この場合、他の相続人の遺留分について注意を払う必要があります。株式の全部・大半を後継者に相続させた場合、他の相続人が相続できる株式以外の財産があれば良いですが、他に財産が無かったり、株式の評価額が高額であったりすると、他の相続人の遺留分(相続できる最低限)を侵害するおそれがあります。

民法改正で遺留分侵害については全て金銭で補償することになったので株式を渡すことにはなりませんが、補償額が高額だとそのために借金をしたり、株式を一部売却したりしなければならなくなってしまいます。

対策として、事前に株式を議決権のある株式(普通株式)と議決権のない株式の2種類を発行し、後継者には議決権のある株式を、他の相続人には議決権のない株式を相続させるように遺言書で指定することが考えられます。

これにより、他の相続人は経営には参加できないが配当はもらえるという立場になります。

※相続税を計算する上で、議決権ありと無しでは株式の評価額が異なることがあるので事前に税理士と相談することが必要です。

事業再編とは

刻々と変化する環境に対応するには?
今のままの会社では難しい場面に直面したらどうするか?

経営者としての決断力を問われる場面ですが、思い切って事業再編という会社の形を変えることも選択肢の一つです。

事業再編には以下の5っのパターンが考えられます。

①事業譲渡
➁合併
③会社分割
④株式交換
⑤株式移転

②~⑤の行為は会社法で組織再編行為として細かく手続が規定されています。

①は再編行為に該当せず債権者保護手続き等が省略されています。

事業譲渡

事業譲渡とは、会社の事業の全部又は一部を個別的に第三者に譲渡(売却)することです。

ここで言う事業とは、人・物・知的財産等の会社の有形・無形の財産が対象となります。

事業の全部を譲渡又は重要な一部(子会社の株式も含む)を譲渡する場合は、基本的に株主総会で特別決議が必要ですが、重要でない事業だったり、譲渡する資産の額によっては総会決議不要で、経営者の判断で行うことができます。

不採算部門を売却することで財務内容の改善を図ったり、逆に譲渡を受ける側としては、ある程度形になっている事業を引き継ぐことで新規事業をゼロから立ち上げる手間が省け、既存の自社の事業強化を図ることができます。

また、後継者がいないような場合、既存の従業員、設備、技術を含めて全部を事業譲渡することで、従業員の雇用を守り、長年培ったものを他社へ引き継いでもらうことができます。

株式の譲渡と異なり、何を譲渡するか協議により決定します。

売り手は必要なものを手元に残すができ、買い手は引き受ける事業に係る負債を引き継ぐ必要はないのでリスクを軽減できます。

ただし、このように細かく互いの条件を確認していく作業が必要になるので、手続きには時間がかかってしまうことが多々あります。

合併

もっともなじみのある再編方法です。
合併には吸収合併と新設合併の2種類がありますが、中小零細企業に関しては多くは吸収合併になります。

合併される会社は合併と同時に消滅し(合併消滅会社)、合併した会社(合併存続会社)の一部になります。

同業他社を吸収することで自社の事業拡大を図ったり、人・物・ノウハウが既にある会社を吸収合併することで、手っ取り早く異業種参入をすることが可能になります。

また、好調な子会社を親会社が吸収合併することで財務の改善・株価上昇を図ったりする場合もあります。

逆に赤字の子会社を合併すれば会社全体としての節税効果を得ることができ、一体化による効率化で黒字を目指すこともできます。

消滅会社の株式を存続会社が取得するので、存続会社は丸ごと消滅会社を取得することになります。

これは、プラスの財産はもとよりマイナスの財産も当然に取得することになります。よって、消滅会社に帳簿に表れない隠れ負債があったりすると、取り返しのつかないことになるので慎重に事前調査することが重要になります。

消滅会社の債権者にとっては、請求すべき会社自体が無くなってしまうので影響大です。債権は存続会社に引き継がれますが、どのような会社に引き継がれるかは重大関心事項です。

そこで、合併をする際、消滅会社の債権者全員にその旨を知らせるための公告(期間は最低1ヶ月)等の債権者保護手続きが必要になります。存続会社も合併内容によっては、必要になる場合があります。

会社分割

会社分割とは、会社の事業の全部又は一部を他の会社に包括的に承継させることです。

分割される事業の権利・義務の全てが承継の対象となります。その事業が有する債務も含まれることになります。個別的に譲渡対象を選択できる事業譲渡とは異なるところです。

①吸収分割
②新設分割

会社分割には2種類の方法があります。

吸収分割は既存の会社が事業を承継します。
新設分割は新たに会社を設立して、その会社が事業を承継します。

事業整理の一環として不採算部門を他社へ分割したり、グループ再編として成長した事業を子会社として新設分割する等の場面で使われています。

株式交換

ある会社の株式全部を自社株と交換することで、その会社の株式の全部を取得して完全子会社とする方法です。

全部の株式を取得するのに全ての株主と交渉するには時間も手間もかかり現実的ではありません。

そこで会社法で決められた手続き(総会特別決議等)により、株主全員から株式を取得しその対価として自社の株式を交付することで、つまり、自社株との交換で全株式を取得します。

これにより多額の現金を支出することなく他社を子会社化することができます。

株式移転

新会社を設立して、1つ又は2つ以上の既存の会社の株式全部を新会社に移転することで、新会社を持株会社、株式を移転した会社をグループ会社とします。

よく「〇〇ホールデイング株式会社」という名の会社がありますが、このような会社がグループ会社の株式を保有している親会社になります。

いろいろな子会社、関連会社が個々に独立して存在している状況で、全部をグループ会社とし、親会社が統括的に管理運営したい場合に行われます。

事業再編を行う場合、交渉過程での取決め、会社法規定による手続きが行われます。

契約書作成・合意、計画書の作成

合併、分割等の内容を相手と話し合い契約書作成の上、合意します。新設で会社を設立する場合は計画書の作成が必要になります。

株主総会決議での承認

株主総会での承認決議が必要です。

原則、特別決議が必要で、ケースによっては特殊決議が必要になります。

また、総会決議自体が不要なケースもあります。

例えば、合併で吸収する方の会社においては原則、総会特別決議により承認を得る必要がありますが、合併で支払う対価が純資産額の5分の1を超えない場合は、総会決議が不要になり(簡易合併)、経営者の判断のみで行うことができます。他に略式合併があります。

債権者保護手続き

事業再編は会社の経営に大きく影響し債権者にとっては重要な問題になるので、債権者に対して特別な保護手続きが必要になります。

再編の事実を公知するための官報公告及び各債権者への個別通知(日刊新聞等での公告で省略可)を行い、再編に異議を述べた債権者に対しては手当が必要になります(債務を返済する等の処置)。

反対株主への対応

再編の総会決議に反対をした株主は、会社に対して保有する株式を買い取るよう請求することができます(できないケースも有り)。

請求があれば、会社は速やかに買取価格の提示・交渉により買取らなければなりません。交渉がまとまらない場合は裁判所に申立てることになります。

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