相続放棄
相続人でありながらいろいろな事情で相続したくないケースがあります。
- 故人に多額の借金がある
- 故人とはかかわりたくない
- 他の相続人とかかわりたくない
- 相続争いに巻き込まれたくない
上記のような事情で相続に一切関与したくないときは、家庭裁判所に申立をして相続放棄をすることになります。
よく、相続人間で話し合って遺産分割協議書に「私は一切遺産は要りません」「相続を放棄します」と記載して実印を押したことで、相続放棄したと思われている方がおられますが、それは間違いです。
預貯金や不動産等のプラスの財産に関しては有効ですが、借金等のマイナスの財産(負債)については効果は限定的です。
相続人間では有効ですが、貸主である債権者には効果はありません。
相続人間でどのように決めても、負債は法定相続の割合で当然に各相続人が引き継ぎ、債権者は各相続人に割合分の返済請求ができます。
債権者に承諾してもらわなければ、相続人間の取決めは債権者に効力が生じません。
最悪、プラスの財産は相続できず負債だけを相続してしまうということになるおそれもあります。
相続放棄の手続は、必ず「家庭裁判所」で行ってください。
故人に借金がある、借金があるかもしれない、と相続放棄をお考えになっている場合、故人の遺産(現金、預貯金、動産・不動産等)には一切手を付けないで下さい。手を付けてしまうと、相続するつもりだから手を付けた(単純承認みなし行為)とみなされ、基本的に相続放棄が認められなくなってしまうおそれがあります。
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相続放棄手続き費用
相続放棄申述書作成 | 3.3万円(税込)~ (同一故人)2人目以降は2.75万円/人 |
- 申述書に貼付する印紙(800円)及び返信用の切手代(裁判所によって異なりますが500円前後)が実費として必要です。
- 戸籍謄本・証明書を当事務所で収集・取得する場合は、手数料として1,100円/通と実費(役所への支払い及び郵便代)がかかります。
- 数次・再転相続の場合(Aさん死亡⇒相続人Bさん死亡⇒C、CさんがAさん及びBさんの相続放棄を行う)、2件の申請が必要になります。
- 故人が亡くなって3ヶ月を経過して上申書が必要な場合は、別途費用(2.2万円~)がかかります。
- 相続みなし行為をされている方は、別途費用(2.2万円~)がかかります。
正しい相続放棄とは
自分に相続があったことを知ってから3か月以内に所定の申述書を家庭裁判所に提出して、受理されることで相続放棄が成立します。
故人の借金から逃れるには、正しい相続放棄手続きをしなければいけません。
相続放棄の手順
相続放棄をするには、所定の申立書(申述書)に必要事項を記入し、戸籍謄本等の書類を添付して管轄の家庭裁判所に提出します。
裁判所が書類をチェックし問題なければ受理通知書を申立人に発送し、全ての手続が終了します。
ご相談から裁判所の受理通知までの詳細な手順はこちらへ
期間制限
相続放棄は家庭裁判所に期限内(相続開始を知ってから3ヶ月以内)に申立をし、「受理」されることで成立します。
この期間を「熟慮期間」と言います。
3ヶ月の熟慮期間内に相続放棄をせずにいると、単純承認したものとみなされ、以後、簡単には相続放棄ができなくなります。
ただし、理由によっては熟慮期間の繰下げが認められる場合があるので、その旨の上申書(※1)を提出することで故人が亡くなって数年経っていても相続放棄が認められる可能性があります。
※1.上申書についてはこちら
当事務所でも20年前に亡くなった父親の相続放棄を認めてもらったケースがございます。
ずいぶん昔の事だからと諦めずに、まずはご相談下さい。
相続財産や借金調査のため期限内に申立ができそうにないときは、事前に家庭裁判所に期間延長の申請をすることができます。
3ヶ月の重要性
基本的に「3ヶ月」の熟慮期間は、自分が相続人になったことを知った時から開始します。
故人が亡くなった日にその事実を知れば、それにより自分が相続人になったことを知ったことになるので、亡くなった日から3ヶ月以内に相続放棄する必要があります。
故人には不動産や預貯金等のプラスの財産はあるが負債はないと思い、相続放棄をしないまま3ヶ月が経過した後、プラスの財産を大きく上回る負債があることが分かった場合どうなるか。
既に3ヶ月は過ぎているが、相続放棄ができるかどうかで、相続人の生活も大きく変わります。
相続放棄をしたら相続権が移行する
民法で相続する順番が規定されています。
第1順位は子、第2は親、第3は兄弟姉妹です。
配偶者(夫又は妻)は常に相続人になるので順位はありません。
例えば、相続人が妻、子2人が相続人の場合で、子のうち1人が相続放棄したら妻と残りの子で相続することになりますが、子2人とも放棄したら第1順位の子がいなくなるので相続権は第2順位の親に移行し、妻と親が相続人になります。
また、親も相続放棄したら第3順位の兄弟姉妹に相続権が移行し、相続人は妻と個人の兄弟姉妹になります。
このように相続権が次順位の方に移行しても裁判所から通知はされないので、知らない間に自分が相続人になっているということもあり得ます。
そこで、相続放棄をするときは次順位の相続人にお知らせすることも大事です。
当事務所にご依頼された場合、当事務所から次順位の方への通知も行っています。
根拠のない思い込みによる相続放棄がとんでもないトラブルに。
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相続放棄は相続人だけではない
故人が法定相続人ではない方に財産を贈与する旨の遺言書を作成する場合があります。
法定相続人以外の方に遺産を贈与することを遺贈と言います。
遺贈される者は「受遺者」となりますが、当然、遺贈を拒否することもできます。
受遺者が遺贈を受けない場合、法定相続人と同様に相続放棄をすることになります。
遺贈には「包括遺贈」と「特定遺贈」の2種類がありますが、相続放棄に関しては取扱いが異なります。
包括遺贈
「遺産の全部を遺贈する」や「遺産の2分の1を遺贈する(一定の割合を指定する)」というように包括的に遺産を遺贈することを「包括遺贈」と言います。
民法990条では「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と規定されています。
注意すべきは条文にあるように、受遺者は遺贈を受ける権利だけでなく「義務」も相続人と同様に負うことになります。
遺贈が財産全部であれば、義務も全部(故人に負債があればその全部)を、2分の1であれば義務も2分の1を負うことになります。
義務を負わないようにするには、法定相続人と同様に家庭裁判所で相続放棄をしなければいけません。
また、法定相続人と同様に期間制限もあり、自分が受遺者になったことを知った時から3ヶ月以内に手続きをする必要があります。
特定遺贈
「〇〇の土地を遺贈する」のように財産を特定して遺贈することを「特定遺贈」と言います。
民法990条は「包括受遺者」に関する規定なので、「特定受遺者」は相続人と同一の権利義務を負いません。
よって、特定遺贈で遺産を受取っても、それに相当する負債を引き継ぐことはありません。
特定遺贈を放棄する場合は、包括遺贈のように3ヶ月の期間制限はなく、家庭裁判所で相続放棄の手続をする必要もありません。
相続人に対して放棄する旨の意思表示をするだけですが、後で認識の違いによるトラブルを避けるためにも内容証明郵便にて意思表示をした方が良いでしょう。
特定遺贈の特徴として、遺贈される遺産を選択できることがあります。
例えば、特定の不動産と預貯金を特定遺贈された場合、預貯金のみを受遺し不動産は放棄する(一部放棄)、というようなことができます(一部放棄を認めない内容の遺言書がある場合は除外)。
※包括遺贈での一部放棄は認められません。
相続人からの督促
特定遺贈の放棄に期間制限がないので、受遺者が取得するか放棄するかの意思表示をしなければ、指定された遺産は長期間放置状態になってしまいます。
そこで、相続人は受遺者に対し相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができ、期間内に受遺者が意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなされることになります。
相続放棄ができなくなる行為
熟慮期間内でもある行為をしてしまうと、以後、相続放棄ができなくなることがあります。
また、相続放棄が成立した後であっても、その行為が原因で無効になることがあります。
相続が生じたら注意すること
故人に借金はないだろうと簡単に貯金や不動産を相続すると後でトラブルになることがあります。
プラスの財産を相続すると「単純承認」(故人のプラス及びマイナスの財産を全部相続する)したことになります。
一旦単純承認すると、後で多額の借金があることが分かって慌てて相続放棄する、、というこがとても難しくなります。
相続後に多額の借金の存在を覚知して相続放棄の申立をした事例で、家庭裁判所は申立を受理し放棄を認めましたが、その後、債権者が提訴し裁判ではプラスの財産を相続していることを理由に相続放棄は無効と判断されました。
こうなると、相続した財産で返済しきれない負債は、相続人が自分の財産から返済しなくてはいけなくなります。
このような事態を避けるためにも、生前から借金の有無について聞いておくことが大切です。
借金があるかもしれない?
借金はあるがいくらあるか分からない?
というような場合は、調べる方法があります。
故人の残した書類を調べて、消費者ローンに関する書類(案内状、契約書、振込控え、督促状等)があれば、直接その業者に確認します。
また、亡くなった後に債権者から請求書や督促状が送られてきて発覚することもあります。
そのような書類が無かったとしても、借金が全くないとも言い切れません。
そこで、しっかり調べたいときは銀行や消費者金融会社等が所属している下記団体に照会することができます。
- 全国銀行個人信用情報センター(銀行・銀行系クレジット会社)
- 株式会社日本信用情報機構( 消費者金融業者が対象)
- 株式会社シーアイシー (クレジットカードや信販系業者が対象)
相続人であれば所定の書類を提出することで調べることができます。
当所でも調査することもできます。
故人の隠れ負債に注意
故人に借金があることを知らなかった、故人が保証人になっていたような場合は、相続放棄の判断が難しくなります。
保証人になっていれば、保証人としての責任(保証債務)も相続の対象となります。
相続放棄をしなければ、法定相続の割合で保証人としての責任を相続することになります。
例えば、故人が1000万円の保証人になっている場合、故人の子2人が相続すると各自500万円の保証人になったことになります。
多くの相続人は故人が保証した相手を知らないでしょうから、誰か知らない人の保証人になってしまうことになります。
判断が難しいのは、保証した相手(債務者)が順調に完済してくれれば何の問題ありません。
保証人としての責任を問われることなく、故人の相続財産を受け継ぐことができます。
しかし、相続当時は順調でも3,4年後に返済が滞ってしまうと、保証人として代わりに返済を求められることになります。
また、故人が保証人になっていることを知ずに相続して数年後、借主が滞納したときに保証人の相続人として債権者から返済を請求されて初めて知る、ということもあるでしょう。
特に身内が事業、商売をされている場合、誰かの保証人になっていないか生前に確認しておくことが大事です。
故人が保証人になっていることが分かっている場合、保証債務額を確認し万が一将来保証人として返済請求されても対応できない額であれば、相続放棄を検討すべきでしょう。
①知らない間に親族の相続人になって債権者から返済請求された。
②相続後に多額の借金が判明して相続放棄した。
③相続後に故人が保証人になっていることが分かって相続放棄した。
詳細はこちらへ
相続放棄したら故人名義の家はどうなるか
相続放棄により故人の負債を相続することはなくなりますが、当然に、故人名義の家や預貯金等も相続することはできません。
子供の頃に故人と一緒に住んでいた家や代々受け継いできた不動産があると、親の借金といえども自分の代で失うことに失望感を感じる方もいらっしゃると思います。
借金を返さない以上仕方のないことですが、借金を相続せずに家を保持できる方法があります。
相続放棄ではなく、「限定承認」という手続をすることで、借金は相続せず故人名義の家を「買う」ことで家を保持することができます。
限定承認手続では、故人の財産(相続財産)を清算・換金して借金返済に充当します。
この手続で故人名義の家も競売されますが、限定承認した相続人には競売に先立って当該不動産を買うことができる「先買権」が認められています。
裁判所に選任された鑑定士が価格を決め、その金額を支払えば相続人は当該不動産を取得することができます。
限定承認は時間も費用もかかりあまり利用されていませんが、相続放棄にはないメリットが「先買権」です。
相続放棄の撤回
原則、相続放棄の撤回は認められません。
民法919条で「相続の承認及び放棄は,第915条第1項の期間内でも,撤回することができない。」と規定されています。
相続放棄後、熟慮期間である3ヶ月が経過していなくても撤回は認められません。
相続放棄は相続人の確定、相続割合に大きく影響するので、撤回を認めると法律関係が不安定になるためです。
ただし、相続放棄手続きは相続放棄申述書を家庭裁判所に提出した後、内容を確認され受理されることで法的効力が発生するという手続きの中で、受理される前の申立までも撤回を禁止しているものではないと解されているので、申述書提出後でも受理前であれば撤回が認められます。
相続放棄が取消し・無効になる行為
原則、相続放棄整理後に撤回はできませんが、一定の要件があれば取消し、又は無効にすることができます。
取消すには、取り消す旨の申立を家庭裁判所にします。
無効は裁判をして無効判決を得ることになります。
このように取消し、無効の方法はありますが、簡単には認められません。
相続放棄をする際は、慎重に検討・調査して行うようにしてください。
相続放棄しても管理責任を負うことも
家庭裁判所で相続放棄が認められれば、初めから相続人ではないものとして扱われます。
預貯金や不動産、動産のようなプラスの財産はもとより、借金等のマイナスの財産も相続することはありません。
では、これで一切関係なくなる、というとそうでもないのが難しいところです。
相続放棄をしても、遺産に対する管理責任が問われる場合があります。
相続財産が管理不全のまま放置されるおそれがあるので、相続放棄をした者に対しても一定の管理義務を定めています。
今回の改正で、この相続放棄をした者の遺産に対する管理責任の内容が変更されましたので解説します。
相続放棄者の管理責任
改正前の民法には「相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。」と規定されています。
このように、相続放棄をしても、次の相続人(次順位相続人)が遺産の管理を始めるまで、自分の財産を管理するのと同程度に管理を継続しなさい、と規定されています。
条文には「放棄によって相続人になった者」と書かれているので、相続放棄した者の管理責任の相手は、放棄によって新たに相続人になった者と解されています。
では、遺産(古い家屋等)が原因で第三者に被害が生じた場合は責任はないかというと、ないとは言いきれません。
「管理を継続しなければならない」と明記されている以上、土地工作物責任(無過失)等を問われるおそれはあります。
管理責任の問題点
管理する期間は、「放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始める」までと条文では規定されていますが、相続人全員が相続放棄したらどうなるか。
その場合、実務的には「相続財産管理人が選任されるまで」と解されていますが、条文では明確になっていません。
また、相続時において、相続人が故人の遺産の内容を全部把握しているわけではありません。
故人の持ち物から預金通帳や不動産の権利書、いろいろな書類を調べていくことになりますが、それでも全てを把握できるとは限りません。
特に個人所有の不動産に関しては、市区町村を限定すれば名寄帳で故人名義になっている不動産を調べることができますが、家族が知らないところで故人が住んでいる所とは異なる市町村に不動産を購入していたりすると、把握できない可能性もあります。
しかし、改正前は、不動産の存在の知、不知にかかわりなく管理責任が生じることになります。
存在自体を知らなければ管理のしようがなく、そのような状況でも管理責任が生じるのか、という問題があります。
そこで、令和5年4月1日からスタートした改正法では、この点が変更されました。
改正法における相続放棄者の管理責任
改正法では、相続放棄者の管理責任を「相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第952条第1項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。」としました。
まず、相続人全員が相続放棄した場合、新たに設けられた「相続財産の清算人」に相続財産を引き渡すまで管理責任を負うことが明記されました。
そして、管理責任を負う対象は、「現に占有」している相続財産に限定されたので、占有していない財産、存在を知らない財産は管理責任の範囲から明確に除外されることになります。
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