民法の相続関連法が約40年ぶりに改正され、平成31年1月から令和2年7月にかけて順次適用が開始されています。
遺言書や配偶者への相続、故人の介護への貢献等について、新たな権利等が新設されています。
遺言書関連の改正
遺言書に関する改正は、自筆証書遺言に関するものです。以下のように2つの項目が改正、追加されました。
自筆証書遺言作成様式の一部緩和
自筆証書遺言(自分で書く遺言書)は、全てを(全文字)を遺言者が手書きで作成することが大原則です。
遺言書には内容を明確にするために、〇〇(不動産等の相続財産)を△△(特定人)に相続させる(遺贈する)等と記載することが多いですが、財産の数が多かったり不動産は特定するため所在地を記載したりするので手書きで書くのは大変で、書き損じてしまうと書き直したり、修正したりと面倒です。
そこで、全文字手書きという部分が改正され、財産目録については自書(手書き)しなくてもよいことになりました。
これにより、パソコンで作成し印字した財産目録を別紙として遺言書に添付できます。
ただし、財産目録が記載されている全ての面に署名・押印が必要になります。
紙の両面を使って目録を表示している場合は、両面に署名・押印が必要になるので注意が必要です。
自筆証書遺言の法務局保管
令和2年7月10日から、各地の法務局が自筆証書遺言(自分で作成した遺言書)を保管してくれる制度が開始されました。
従来、公正証書遺言と異なり自筆証書遺言は自身で保管するしかありませんでした。
このため、折角書いた遺言書を見つけてもらえなかったり、破棄隠匿されたり、一部が書き換えられて偽造されたりするおそれがありました。
この新制度では、法務局がオリジナルの遺言書を保管してくれるので紛失や改ざんを防止できます。
そして、一番のメリットは家庭裁判所での検認手続きが不要になることです。
保管制度開始前は、遺言者自身が書いた自筆証書遺言に基づいて相続手続きをする場合、必ず事前に家庭裁判所で検認手続きをする必要がありませいた。
家庭裁判所に検認の申立を行い、全相続人にその旨が通知され相続人立ち合いのもと遺言書が開封され内容が確認されます。
自分で書く遺言書は、遺言者にとってはいつでも、どこでも、簡単に作成できる便利さがありますが、相続人にとっては不動産の相続登記や預金の解約等をするためには家庭裁判所で検認をしなければいけないので手間がかかってしまいます。
そこで、改正により法務局による自筆証書遺言の保管制度を創設し、公証役場で公正証書遺言を作成しなくても、手続きに従って法務局に自筆証書遺言を保管すれば検認は不要となりました。
保管申請をする際、法務局にある申請書(法務省HPからダウンロードもできます)に氏名、住所、本籍、生年月日等の必要事項を記載し、事前に予約して遺言書と共に提出します(手通称は3,900円)。
提出時には、身分証明証、住民票の写し(本籍記載あり)等も必要です。
保管してもらう遺言書を作成するにあたり、いくつかの決められて形式あるので注意下さ。
例えば、紙はA4で記載は片面のみ(両面記載は不可)、各紙面にページ番号を記載する等が決められています。
法務局では記載内容についての相談には対応していないので、ご自身のみで作成する場合は事前に法務省のHP等で調べて決められた方法に基づいて作成する必要があります。
希望すれば、自身(遺言者)が亡くなったときに遺言書が保管されていることを法務局から通知してもらう人を指定しておくことができます。
これにより、法務局は死亡を把握したときに指定された人に通知します。
指定対象は、推定相続人、受遺者、遺言執行者のうち1人になります。
保管手続きが完了すれば、法務局から保管証をもらって終了です。
提出した後も、遺言者であれば遺言書の内容の変更・撤回、閲覧が可能です。
配偶者に関する改正
今回の改正では、配偶者の関して大きな変更がありました。
ご夫婦どちらかの死亡により残された配偶者の生活が大きく影響されることがありますが、その影響をできる限り最小限に抑えるための改正がされました。
残された配偶者の生活の基盤の維持・確保
残された配偶者が、今住んでいる家に引き続き住めるようにするためにはいkぐうしゃ居住権という新たな権利が改正により創設されました。
下記の事例でご説明します。
事例1)
ご家族:夫Aさん、妻Bさん、子C、Dさん
Aさんが亡くなり遺言書はなし。
Aさんの相続財産は、土地、家、現金・預貯金の総額2,500万円。
遺言書が無い場合は、B、C、Dさんの相続人全員で遺産分割協議を行って遺産の分け方を決めることになります。
全員が了解すればどんな分け方でも良いのですが、決まらないと基本的に民法に規定された法定相続割合を基準として検討することになります。
法定相続割合に従って分けると、 遺産総額は2,500万円なので妻Bさんの相続分は半分の1,250万円になります。
家・土地の価値は2,000万円なので、Bさんが自分の住処として家を相続するには750万円足りません。
子どもたちが自己の相続分(各625万円)の取得を主張すると、現預金は500万円しかなく全額子供たちに渡しても足りないので家を処分して足りない分を工面する必要があります。
家・土地が2,000万円で売れたとすると、内750万円を子供たちに渡し妻Bは残りの1,250万円を取得できますが住処を失うことになります。
事例2)
ご家族:夫Aさん、妻Bさん、お子さんはいない
Aさんの兄Cさんがいる
Aさんが亡くなり遺言書はなし。
Aさんの相続財産は、土地、家、現金・預貯金の総額2,500万円。
妻Bさんは住む家を確保するために義兄Cさんに現金・預貯金500万円全額渡しても125万円足りません。
自分で工面できなければ、家を売却して足りない分を用意する必要があります。
用意できなければ、家を売って工面する、、というようなことになるおそれがあります。
生前贈与・遺贈
上記のように残された配偶者が住処で困らないよに、改正において配偶者に優遇措置を設けました。
家の名義人である夫(又は妻)が配偶者である妻(又は夫)に家を生前贈与(又は遺贈)することで残された配偶者は引き続きに家にしみ続けられるようになります。
家を生前贈与又は遺贈すると家は相続財産から除外されます。
相続財産から除外されることで、家は遺産分けの対象となりません。
上記の事例では、故人の遺産として分割の対象となるのは家・土地の2,000万円、現金・預貯金の500万円でした。
しかし、家・土地を改正に従って生前贈与・遺贈すると、遺産分割の対象は厳禁・預貯金の500万円のみになります。
妻Bさんは、家・土地を贈与によって無償で取得し、相続財産500万円の半分の250万円を相続分として取得することができます。
生前贈与・遺贈と聞いて、多くの方は高額な贈与税を払うことになるのでは、、、と心配されると思います。
しかし、改正法に従い一定の要件を満たしていれば、最大 2,110万円まで非課税になります。
要件の一例:
婚姻期間が20年以上の夫婦(内縁関係は不可)である。
贈与財産が自分が住むための国内の居住用不動産である、または居住用不動産を取得するための金銭である。
贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された居住用不動産または、贈与された金銭で取得した不動産に受贈者が住んでおり、その後も引き続き住む予定であること。
※生存中に家を贈与して名義を妻に変更することを躊躇される方もいらっしゃると思います。
そういう方は遺贈(自分が死んだら家を妻に贈与する)の選択をご検討下さい。
家族関係に懸念がある方は、残された配偶者が安心して今の家に住み続けることができるよう、この制度の活用をご検討してはいかがでしょうか。
配偶者居住権
残された配偶者に現在住んでいる家に引き続き居住できる権利「配偶者居住権」が新設されました。
配偶者居住権とは、名義人である故人の配偶者が故人亡き後も家に無償で住み続けられる権利です。
この権利は故人が配偶者居住権を配偶者に遺贈する旨の遺言書を残しておくか、相続人全員の同意により取得でき、その旨の登記をする必要があります。
配偶者が配偶者居住権を取得すると、家には配偶者居住権と所有権の2つの権利が生じることになります。
配偶者居住権を取得した配偶者は、相続や遺贈により自分以外の者が取得した後も住み続けることができますが、配偶者居住権を売ったり、譲渡することはできません。
普通に家を相続して所有者になれば、後年介護施設等へ入居するときに家を売って入居費用に充てることができますが、配偶者居住権では入居費用に充てることができません。
あくまでも住むだけの権利になります。
※所有者の承諾があれば賃貸することは可能です。
事例:故人Aさんの相続財産は家・土地2,000万円と現金・預貯金1,000万円の計3,000万円
Aさんは遺言書に妻Bに配偶者居住権を贈与すると記載していた。
配偶者居住権が1,000万円を算出された場合、所有権は残額の1,000万円の価値となります。
※配偶者居住権の評価額は、建物の相続税評価額や配偶者居住権が設定された建物所有権の金額等をベースに規定の計算式で算出されます。
この場合、3,000万円の遺産は妻が1,500万円(配偶者居住権1,000万円+現金・預貯金の500万円)、子は1,500万円(所有権1,000万円+現金・預貯金の500万円)になります。
妻は今の家に住み続けられ、今後の生活資金として500万円を取得することができます。
配偶者短期居住権
短期の配偶者居住権も創設されています。
家族にはいろいろな形があり、相続人の関係もさまざまです。
配偶者居住権もなく自身以外の相続人や第三者が故人の家を相続することになると、残された配偶者は今の家に住み続ける権利が無くなり新たな所有者から家を出ていくよう要求されるおそれもあります。
この場合、一定期間、家に無償で住み続けられるように配偶者短期居住権が認められるようになりました。
配偶者居住権のような取得要件はなく当然に認められ、期間は相続開始から遺産分割により家を誰が相続するか確定した日(相続開始時から6か月以内であれば6か月を経過する日)までです。
分割協議前の故人の預金引き出し
葬式費用や配偶者の当面の生活費等の費用として必要な場合、遺産分割協議前でも故人の預金から一定の額まで引き出すことができるようになりました。
必要な場合とは、「相続財産に属する債務の弁済、相続人の生活費の支弁その他の事情により遺産に属する預貯金債権を当該申立てをした者または相手方が行使する必要があると認めるとき」であり、遺産分割協議成立前に相続人の内1人による引き出しが可能です。
上限は、相続開始時の口座残高×法定相続割合×1/3 (1金融機関 最大150万円)。
介護・看護報酬
特定の相続人が故人の介護を長年行っていた場合、寄与として遺産分割に反映されることが可能ですが、「長男の妻」のように故人の相続人ではない者による介護、看護に対しては寄与として認められる条文規定はありませんでした。
そこで、法定相続人でなくても故人を介護・看護した方に報酬として金銭的請求権を認める改正が行われました( 「請求権」なので、相続人に請求する必要があります)。
介護をすれば誰でも請求できるわけではなく、要件があります。
故人の親族である(6親等血族、3親等姻族)。
無償で故人の療養看護を行っていた。
無償で療養看護をしたことにより、故人の財産維持・増加に寄与した。
この権利は、相続開始を知ったときから6ヶ月、相続開始から1年経過で、請求権は消滅します。
介護・看護報酬の問題点
介護報酬の算出する決まった計算式があるわけではないので、介護・看護を金銭に換算するの簡単ではありません。
プロの介護ヘルパー・サービス等外部に依頼した場合の費用を参考に割り出していくことになります。
そして、割り出した費用を相続人全員に認めてもらう必要があります。
納得してもらいやすいように、介護・看護内容や日数をできる限り詳細に記録しておいた方が良いでしょう。
話し合いがまとまらなければ最終的に家庭裁判所に判断してもらうことになります。
初回のご相談は無料です。
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