スタートアップ資金調達

新しく会社を設立する場合、開業資金及び開業当初の運営資金が必要になります。また、ある程度の期間(いわゆるシードステージ)が経過すると共に設備増設費用、開発費用、増員による新たな資金調達が必要になってきます。

資金調達には、自己資金や新株発行、CE(コンンバーティブル エクィティー)、クラウドファンディング、補助金・助成金、借入等がありますが、投資契約や株主間契約の内容、持ち株比率への影響等注意して行わなければ、思いもよらず大きな落とし穴に落ちることになりかねません。

当事務所は、当初の一連の調達手続きからスタートアップの最終目標であるIPO(株式上場)やM&Aによる利益確保(イグジット)までしっかりサポートさせていただきます。

会社の資本金

会社設立時の開業・運営資金として資本金が必要になります。資本金は1円から設定することができます。

1人での起業や、既に個人事業主として事業をやっていて会社化と同時に収入が得られるような場合は問題ありませんが、そうでなければ1円では何も買えないので全て借金でまかなうことになります。資本金1円の新会社がお金を借りるのは難しいでしょうから、結局、自分で自分の会社に貸すことになります。

積極的に活動していきたい場合は、対外的信用度も考慮し(新たに取り引きする会社の資本金が1円だと、相手も不安を感じるでしょう。)、ある程度の資本金を設定した方が良いでしょう。

会社設立時の資金調達の流れ

設立時でのエンジェル投資家からの資金調達に始まり、ステージが上がり新株・新株予約権の発行等による更なる資金調達が必要になってきます。

よほど潤沢な自己資金が無い限り全てを自社で賄うことは難しく、また、自己資金がたまるのをまっていたのでは、時代に乗り遅れてしまいます。

スタートアップはスピードと革新的サービスが生命線です。一番手が総取りすると言われている時代に、資金不足による設備投資の遅れは競業他社にマーケットを一気に押さえられるおそれもあり、初期段階で積極的に投資するこが必要なことも考えられます。

通常の資金調達需要は下記のような流れで生じてきます(借入、補助金・助成金は除く)。

  • 新会社設立時~(シードステージ)

    資金の用途:立上げ費用、当面の運営費、初期開発費用、プロトタイプ制作費用等
    調達方法:自己資金、エンジェル投資(新株・新株予約権発行)、クラウドファンディング

    通常、エンジェル投資家による投資においては、投資家と会社との間で割当株数や残余財産優先分配等の様々な事項を取決め(投資契約)、また、既に株主となっている創業者達と株主間契約を結びます。

  • 初期ステージからのステップアップ(シリーズA、B)

    資金の用途:更なる開発・設備投資、小規模量産体制費用、増員
    調達方法:自己資金、ベンチャーキャピタル投資(新株・新株予約権発行)、クラウドファンディング

    ベンチャーキャピタルが投資により新たな株主として登場したりします。ベンチャーキャピタルの最大の目的は、IPO(株式上場)で取得額と売却額の差額を得ることです。
    対会社との投資契約には上場を第一目標とする努力義務等の項目が入ってきます。既存株主が締結していた従前の株主間契約を解除し、投資による新たな株主も含めた株主全員で株主間契約を結びます。
    また、人材の流出への対策も必要になります。特に軌道に乗りかけている技術の開発関係者が会社を辞めるようなことになれば、会社の存続自体があやぶまれます。本来であればインセンティブとして報酬を上げることが考えられますが、この時期は会社自体にその資金力が無いことが通常です。そこで重要な社員に対しては高額報酬に替わるインセンティブとしてストックオプションの付与を検討します。

  • ステップアップ(シリーズC)

    資金の用途:本格的な量産体制のための費用、拡販のための営業拠点の強化、増員
    調達方法:機関投資(新株・新株予約権発行)

    この段階になると、事業が急激に拡大していきますので資金需要も大きくなります。
    有望となれば投資会社も数社になることもあり、より複雑な調整が必要になります。業績が順調に上向くにつれ1株あたりの株の価値も高くなってきます。高くなり過ぎると新たな投資を募集する上で支障となることもあるので、1株あたりの価値を下げる方策として株式分割も検討しなくてはなりません。

    また、会社の規模も大きくなりつつあるの時期ですので、取締役会や監査役、会計監査人等の新たな機関設置を検討します。

  • IPO M&A(イグジット)

    投資家にとっては最終目標であるので通常、持ち株を売却して差益(キャピタルゲイン)を確保します。
    会社にとっては上場により巨額な資金を得ることができ、体制の確立、財務内容の改善、大規模設備投資等を行う事ができます。
    他にM&Aもイグジットとして考えられます。会社の成長により企業化価値も高くなっているので、他社に合併等の形で売却して利益を確保するパターンです。この場合の利益配分は、売却して得た財産を残余財産として考え、残余財産の分配規定(みなし清算条項)に従って処理されることが多いです。

    また、株式交換等で大手企業の傘下に入って潤沢な資金、販売・流通チャンネルを使って大きく飛躍するパターンも考えられます。

資金調達で発行される株式の種類と内容

株式には普通株式の他に会社法で規定された下記9種類の株式があります。
これらの株式を発行するには、予め定款に規定しておく必要があります。

①剰余金の配当に関する株式
②残余財産の分配に関する株式
③議決権制限株式
④譲渡制限株式
⑤取得請求権付株式
⑥取得条項付株式
⑦全部取得条項付株式
⑧拒否権付株式
⑨役員選任付株式(取締役と監査役)

資金調達の際、投資の対価として上記の種類株式が投資家に渡されることになります。

剰余金の配当に関する株式

剰余金の配当について異なる定めがある種類株式です。

通常、他の普通株式等よりも優先して配当する旨の定めが設けられます。他の株式に先立ち、1株につき〇円の金銭による剰余金の配当を行うなどが規定されます。

ただ、この規定は投資家にとってはあまり魅力的なものではありません。剰余金を配当できるほどの利益が初期段階ではあまり期待できなく、また、利益は配当に回すのではなく、研究開発、設備投資等にまわして会社を成長させ1株あたりの価値を大きくすることを望む投資家は多いです。

残余財産の分配に関する株式

会社を解散して清算した後の残余財産の分配について異なる定めがある種類株式です。

スタートアップで残余財産が問題となることは事業の失敗を意味します。会社の規模も小さい段階なので、残余財産を優先的に取得したとしても投資の回収は難しいかもしれません。

この内容に焦点があたるのは、イグジットとして合併等により会社自体を売却したり、他社のグループ会社や子会社になるケースです。

このケースでは会社の株式を売却することになり大きな対価を取得することになります。

この対価は、見方を変えれば会社の清算額といえ(みなし清算)、この対価に対して優先権を希望する投資家がいます。

しかし、会社法で株式の種類の内容は規定されており、対価に優先権を持つ種類株式の発行の有効性については微妙です。

ただ、合併、株式交換、株式移転については、株式の種類により異なる対価を規定することが会社法上も認められているので、優先権を定款に定めた上で、投資契約、株主間契約も行います。

合併等以外での取引における対価についても、株主間契約で同様の優先分配を行うような内容の契約を結ぶことがあります。

議決権制限株式

株主総会で議決権を行使できる事項に制限が付されている株式です。

特定の事項については議決権の行使ができないとしたり、全く議決権を認めない(無議決権株式)と規定することもできます。

スタートアップでは、投資家サイドも会社に対してある程度の影響力を求めるので、普通株式と同様に1株につき1議決権が与えられることが多いです。この種類の株式でも、種類株主総会での議決権を制限することはできません。

譲渡制限株式

株主が第三者に株式を譲渡する場合に、会社の承認が必要とする株式です。

スタートアップでは、全ての種類の株式に譲渡制限を付すことが一般的です(全ての株式に譲渡制限が付されている会社を非公開会社と言います)。

知らないうちに株式が譲渡され、見知らぬ株主が出現することを回避するためにも重要な制限です。

承認機関は代表取締役の決定、取締役会決議、株主総会決議等事前に定款に定めておきます。

取得請求権付株式

株主が保有している株式を取得するよう会社に請求できる権利を付した株式。

会社は取得につき対価として普通株式や新株予約権、金銭等を交付することを規定しておきます。

取得条項付株式

一定事由の発生により会社が強制的に株主から株式を取得できる権利が付された株式。

取得の対価として、普通株式、新株予約権、金銭等を交付します。IPOで上場前に、全ての株式を普通株式にするため、取得条項により種類株式を回収し替わりに普通株式を交付することが行われたりします。

全部取得条項付株式

株主総会決議により会社が株式を強制的に取得できる権利が付された株式。

例えば、経営不振の会社が既存の株式をすべて全部取得条項付株式に種類変更し、総会決議により無償で当該株式を会社が取得し消却。同時に、新たな株主に対して有償で新株を発行し資本を得て、会社再生を図る場合などに使います。

既に発行している株式を取得条項付株式に変更するには、当該株主全員の同意が必要となりかなりハードルが高いですが、全部取得条項付株式への変更は特別決議で可能です。

拒否権付株式

株主総会、取締役会、清算人会で決議された事項について、当該種類株主総会で拒否できる権利が付されている株式。

黄金株と呼ばれます。黄金株を1株のみ発行すれば、実質、保有者の一存で株主総会で決議された事項を拒否できます(拒否できる事項は予め定めておく必要があります)。

「・・・以下の事項を実施する場合には、当社の株主総会の決議のほか、甲種類株主総会決議を要する。1.事業譲渡 2.合併、会社分割、株式交換、株式移転」

のように、定款に拒否(決議)できる事項を記載します。

役員選任付株式

当該種類株主総会決議のみで、取締役、監査役を選任できる株式。

ベンチャーキャピタルが自身の意思をある程度投資先に反映させたい場合や経営の監視等の目的で取締役や監査役を送り込みたい場合、当該種類株式の保有を希望します。

ただ、一般的には、わざわざ種類株式を発行するというよりは、ベンチャーキャピタルには普通株式を交付して、役員については、別途、投資契約で取り決めたりすることがあります。

種類株式を発行する際の注意点

実際の場面では、上記9種類の株式の発行と投資契約、株主間契約を組み合わせて出資を決めていきます。

会社が発展する上で、各ステージで資金調達が行われます。

会社の規模が大きくなれば、1株あたりの企業価値も大きくなります。

例えば、アーリーステージでは1株50万円で発行、会社が成長しシリーズCでは1株100万円と2倍の価値で発行するということもめずらしくありません。

アーリーステージでは5,000万円の投資で100株取得できたのに、シリーズCでは50株しか取得できないことになります。

この差は、初期段階にリスクをとった投資の結果なので、ある意味当然ではありますが、会社側としては新たな投資家を呼び込むために何らかの配慮が必要になります。

一般的には、剰余金の配当や残余財産の分配を既発の株式に優先させる内容の新株を発行したりします。

既存の株主は不利になりますが、拡大のために更なる投資の必要性、高い株価を考慮して反対する既存株主はあまりいません。当然、株主間の利害関係の調整が必要で、新株主を含めた株主全員で新たに株主間契約を締結します。

このように追加で新たな株式を発行する場合、既存の株主に損害を及ぼすおそれがある場合に該当することが多いです。

この場合、会社法は、損害のおそれがある種類株主の承認を要求しています。新たな株式を発行する際、発行のための株主総会決議及び損害のおそれある種類株主総会決議が必要になりますので抜け落ちないようないように注意が必要です。

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