不動産を売却や贈与等で他者へ所有権の名義変更(所有権移転)の登記をする場合、基本的に権利証が必要になります。
法務局のオンライン化により、権利証は「登記識別情報」となり、アラビア数字その他の符号の組合せからなる12桁の符号になっており、申請の際にこの符号を法務局に通知します。
オンライン化前に不動産を取得している方はこの符号はないので、取得する際に提出した申請書に「登記済」の朱印が押印されて返却された「登記済証」が権利証になります。
しかし、何らかの理由(紛失等)で登記識別情報や登記済証がない場合もあります。
この場合、真の所有者であれば持っているはずの権利証がないので、それに代わる方法で真の所有であることを確認することになります。
その方法の一つが「事前通知制度」です。
事前通知制度とは
事前通知制度とは、その名の通り事前に何かを通知する制度です。
登記簿上の名義人がAで、AからBへ所有権移転登記が権利証なしで申請された場合(権利証を提出できない理由を記載します)、法務局から登記簿に記載されている住所のAさん宛てに「このような移転登記申請がされていますが真実ですか?」という内容の書類が本人限定受取郵便(又はそれに準ずる方法)で通知されます。
※転送届を出していても転送はされません。
本人限定なので家族等の他者が受け取ることはできず、受け取り時に運転免許証等の身分を証するものが必要になります。
名義人が法人の場合は、その法人の主たる事務所に送付されますが、代表者の住所へ送付するよう事前に申出することも可能です。
書類には「この登記の申請の内容は真実です。」という欄があり、問題なければ署名し、申請書に押印した同じ印を押印して返送します。
司法書士に申請依頼している場合は、委任状に押印した印になります。
書類が発送されてから2週間以内に返送(法務局に到達)することで、事前通知制度における本人確認は終了し他に問題なければ登記手続きが開始されることになります(海外に在住されている方への通知は4週間以内の返送となります)。
2週間以内に返送されなければ、申請はいったん取り下げて再申請することになります(取下げなければ却下になります)。
書類を紛失した場合、期間内であれば再送してくれますが、期間は最初に発送された日が起算日となるので注意が必要です。
住所が変更されている場合
所有権に関する申請で登記簿上の所有者の住所が3か月以内に変更されている場合、基本的に変更前の住所にも通知がされることになっています。
ただし、事前通知に替えて司法書士による本人確認情報を提出した場合や法人が名義人である等の場合は前住所には通知されません。
事前通知制度の利用は限定的
不動産の売買においては、事前通知制度を利用することにはリスクがあります。
通常、売買においては登記申請に必要な書類を揃えて名義変更に問題ないこと確認して代金の受け渡しをします。
しかし、事前通知制度を利用すると、売主(名義人)が事前通知に期限内に返送しないと手続きはできなくなります。
買主にとしては、お金を払ったのに売主が事前通知に返送しなければ手続きが取りやめになってしまうおそれがあるような取引は避けたいと思うのも当然です。
よって、売買で事前通知を利用する場合、まずはじめに当事者から権利証を除く申請に必要な書類をお預かりして申請し、名義人に事前通知書が送付され司法書士が当該通知書に署名及び適切な印が押印されていることを確認し返送すると同時に買主に対して売主へ代金の支払をお願いすることになります。
ただし、通常だと申請と代金の受け渡しが同日であり、代金受け渡し日に所有権が移転するとしますが、事前通知だと申請と代金受け渡しが別日になるので契約書もそのような形にする必要があります。
また、買主が金融機関からの融資を受けて代金を払うような場合は、金融機関は事前通知による取引を認めないと思われるので利用できないでしょう。
当事者間が親族で買主がリスクを承知で了承しているような状況であれば別ですが、司法書士としてもリスクのある手続きは回避したいところです。
このような場合、事前通知に替わるものとして司法書士が申請者は名義人本人であるとする本人確認情報を作成して申請時に提出することで対応します。