相続とその手続きについて
故人に財産が無ければ相続手続きは不要ですし、遺産が現金や動産だけであれば相続人間で分け方を決めて分配するだけで済みます(遺産総額が相続税の控除額を超える場合は相続税の申告が必要になります)。
相続財産に預貯金、有価証券や不動産が含まれていると、口座解約や相続登記申請手続き等の手続きが必要になります。
また、遺産の相続手続きとは別に、死亡届や社会保険事務所への届等の公的な手続きが必要になります。
相続財産の対象
相続財産は以下のようのものが対象となります。
- 現金、預貯金(※1)
- 家・土地等の不動産(※2)
- 株券等の有価証券
- 自動車・宝石等の動産など
- 賃借権(公営住宅は除く)、借地権
- 借金、ローン等の負の財産
故人の一身専属に属するものは相続の対象にはなりません。
例えば、身元保証人、生活保護受給権、使用貸借(※3)での借主の地位、扶養請求権、雇用契約上の地位等が該当します。
※1:預金の相続手続きの詳細はこちら
※2:不動産の相続登記の詳細はこちら
※3:使用貸借とは、動産、不動産等を無償で借りることです。親しい関係だったり、何かのお礼として無償で空いている土地や使っていない家を貸すことがあります。その人だから貸すという一身的なものなので、相続の対象とはなりません。借主の死亡で終了します。
相続財産の新しい形態として「デジタル遺産」というものがあります。
スマホやパソコンで保有、管理されている財産で、ビットコイン等の仮想通貨やネット銀行口座の預貯金等が該当します。
デジタル遺産についての相続は、こちらを参照ください。
注意点
生命保険の保険金は、基本的に遺産分割(相続)の対象になりません。
保険契約時に指定された受取人が受領することになります(相続税の課税対象になります)。
ただし、遺産総額に対して保険金がかなり大きいと、相続財産として扱われる場合があります(裁判で認められたケースがあります)。
受取人が指定されていない場合は、遺産分割の対象(約款にその旨の記載がある)となります。
また、受取人は指定されているが故人より先に亡くなっている場合、基本的に受取人の相続人が全員が均等に受け取ることになります(約款に別の方法があればそれに従います)。
相続手続きの方法
相続手続きには、故人の意思が反映された形で行うものとそうでないものとに分かれます。
反映されたものとしては、遺言書と死因贈与契約があります。
故人の相続財産(遺産)は、遺言書の内容に従って処分(遺産分割)されます。
遺言書や死因贈与契約がない場合は、相続人全員でどのように遺産を処分するか協議(遺産分割協議)して決めます。
※主張が対立して遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割調停の申立をして解決を図ります。
相続手続きの種類
相続と言うと、単に故人の遺産を引き継ぐことだと思われますが、相続の仕方について以下の3っがあります。
①「単純承認」:条件なしに引き継ぐ相続
➁「限定初認」:条件を付けて引き継ぐ相続
③「相続放棄」:一切相続しない
単純承認
故人の財産を単純に全部相続することを「単純承認」と言います。
全部ですので、プラスの財産だけでなくマイナスの財産(借金等)も相続することになります。
よって、故人のプラスの財産で故人の借金を返済しきれない場合は、相続人自身の財産から返済しなければならなくなります。
単純承認は自分が故人の相続人になったことを知ってから3ヶ月が経過すると、自動的に単純承認したものとみなされる(相続放棄ができなくなる)ので注意下さい。
限定承認
限定承認とは、故人に借金がある場合(あるかどうか分からない場合も可)、故人の財産で返済して余りがあれば相続するが、返済しきれず借金が残る場合は相続しない、とする相続手続です。
故人には財産もあるが借金もありそうけど、どの位あるか分からない、という時に有効な相続方法です。
但し、自分が相続人になったことを知ってから3ヶ月以内に限定承認する旨を家庭裁判所に申立てをしなければいけません。
また、相続人全員で申立てをする必要があり、1人でも反対すると手続きはできなくなります。
内容は借金を清算して財産が余った場合にのみ相続する、といういいこと取りの手続なんですが、清算手続きにかなりの費用と時間がかかってしまうというデメリットがあります。
このため、実際はあまり利用されていないのが現状です。
限定承認には、相続税だけでなく譲渡所得税が課せられる場合があります。
相続放棄
相続放棄は、故人のプラスもマイナスも全部含めて一切の財産の相続を放棄する手続です。
相続人が相続放棄を選択する理由はさまざまです。
典型的にものは、故人に多額の借金がある場合でしょう。
その他にも、故人とは疎遠、音信不通であり一切関わりたくない、相続人間の遺産争いに巻き込まれたくない等々が考えられます。
相続放棄は、自分が相続人になったことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所に申立て受理されることで成立します。
相続放棄が成立すると、相続ではなくなるので一切の相続手続きに関与する必要がなくなります(関与できない)。
相続放棄の詳細はこちら
相続人の範囲と順位
民法には、誰が相続人になるのか、相続人になる順位、各相続人の相続割合が規定されています。
相続人になるのは以下の方たちです。
・配偶者
・子
・父母
・兄弟姉妹
※配偶者(妻又は夫)は常に相続人となるので順位はありません。
先順位の相続人が1人もいない場合に次順位の方に相続権が移動します。
例えば、故人に第1順位のお子さんがいない場合(亡くなっていたり、全員が相続放棄をしている場合も含む)、次順位の父母が相続人となります。
相続欠格
法定相続人であっても、民法に定める相続欠格事由に該当する者は、相続権を失います。
民法は5つの欠格事由を規定しており、その中の一つでも欠格事由に該当する行為をしていれば、当然に一切の相続財産を相続することができなくなります。
相続人が所在不明
相続人と連絡がとれない。
どこに住んでいるのか、生きているかさえ分からない、という場合、相続手続をどのように進めていくか。
代襲相続
相続人となる方が相続発生時に既に亡くなっている場合、その方の相続人が代わって相続することを代襲相続と言います。
親より先に子が亡くなっている場合、亡くなった子は親の相続人になれませんが、亡くなった子に子供(親から見たら孫)がいればその子が、更にその子も亡くなっていているが子(親にとってはひ孫)がいれば、その子が相続人(代襲相続人)になります。
兄弟姉妹が相続人になる場合も同様です。
ただし、子については、世代に関係なく子から孫等と下にずっとたどって代襲相続人を決めていきますが、兄弟姉妹の場合の代襲相続人はその子供だけに限定さており、兄弟姉妹の孫は代襲相続人にはなりません。
相続順位2位の親が相続人になる場合、親には代襲相続は認められていません。
親A、Bがいて、Aが亡くなっている場合、Aの親(被相続人の祖父母)が代襲相続人としてBと共に相続人になることはなく、この場合はBのみが相続人になります。
A、B共に亡くなっている場合は、その親(被相続人の祖父母)は代襲相続人ではなく、被相続人の尊属として相続人になります。
亡くなる順で相続人が変わる
すぐに相続手続きをしていないと、場合によっては相続人が変わることがあるので注意が必要です。
先に表示した家族構成(父母、子2人、孫2人)を事例に説明します。
お子さんが先に亡くなり、その後に父が亡くなった場合
お子さんに代襲相続が発生するので、父の相続人は以下のようになります。
父が亡くなり相続手続きをしないままお子さんが亡くなった場合
お子さんの相続人としてその妻が相続人に加わります。
相続割合
法定相続割合は、相続人によって以下のようになります。
配偶者と子
配偶者とお子さん:配偶者2分の1、残りの2分の1を子が均等に分けます。
子が相続人となる場合、実子、養子、婚外子(認知子)で相続割合に違いはありません。
※「嫡出子」と「非嫡出子」の相続割合は同じですが、相続時期によっては異なる場合があります。
詳細はこちら
配偶者と故人の親
配偶者3分の2、残りの3分の1を親が均等に分けます。
配偶者と故人の兄弟姉妹
配偶者4分の3、残りの4分の1を兄弟姉妹で均等に分けます。
子供がいないご夫婦で旦那様が亡くなられたら、妻が遺産全部を相続すると思われている方がおられます。
上記のように、子供がいないということは第1順位の相続人がいないことになるので、夫の父母や兄弟姉妹が相続人になります。
妻に全部を残したいと希望される場合は、その旨の遺言書を作成する必要があります。
兄弟姉妹が相続人となる場合、両親が同じ兄弟姉妹と片方のみ同じ兄弟姉妹とは相続割合が異なります。
Aには両親が同じ兄Bと、母が違う弟CがいてBCがAを相続する場合、Cの相続分はBの半分(2/3B、1/3C)になります。
相続割合も時代と共に変わっています。
相続は相続が発生した時の法律に従って行うので、長期間放置している相続を処理する場合、法定相続割合は当時の法律を適用します。
詳細はこちら
相続するときの注意点
亡くなった故人の財産を相続することは普通に当たり前のように行われていますが、ケースによっては安易に相続してことでその後の人生に大きくマイナスの影響が出てしまうおそれもあります。
とくに故人に負債がある場合に対応を間違えると、後で深刻なトラブルの原因になるおそれもあるので適切に対応する必要があります。
故人の負債
相続財産に預貯金のようにプラスとなる相続財産もあれば故人の借金やローン残金などのマイナスの財産もあります。
プラスの財産は相続人間で協議して分割方法を決めることができますが、負債に関しては法定相続割合に従って当然に各相続人が承継することになっています。
相続人である子2人が、2,000万円の借金を相続したら各自1,000万円の借金を背負うことになります。
※話し合って借金は全部長男が引き継ぐと決めた場合、相続人間では有効ですが債権者に対しては承諾してもらわないと効力が生じません。
プラスの資産が1000万円、借金は300万円位だから借金を返済しても充分あまりが出ると思って相続したが、その後に更に2000万円の借金があることが判明した、という場合、既に相続しているので判明後に相続放棄は基本的にできない、とお考えください。
保証債務
故人が誰かの保証人になっている場合、その保証人としての立場も相続の対象になります。
※保証債務を法定相続割合に従って相続することになります。
例えば、故人が事業をしている弟の借入金2,000万円の保証人になっていた場合、相続人である2人のお子さんは故人の連帯保証人の地位を各2分の1相続することになり、それぞれが叔父さんの借入金について1,000万円の連帯保証人になります。
保証人が絡む相続の判断が難しいのは、借主が完済すれば問題ありませんが滞納したり破産や倒産したりすると保証人に返済義務が生じてしまうことです。
例えば、故人には遺産が2,000万円あるが、3,000万円の連帯保証人になっているような場合、相続するかどうか迷うところです。
相続した場合、借主が問題なく完済してくれれば、2,000万円の遺産をそのまま手にすることができますが、返済できなくなると保証人として残金の返済義務が生じます。
遺産で足りなければ、自身の財産から返済しなければいけませんし、返済できなければ、最悪、財産を差押えられることもあり得ます。
相続放棄すれば保証人としての責任を負うことはありませんが、2,000万円も相続することができません。
また、故人が誰かの保証人になっているかどうかは分かりにくいため、知らずに普通に相続した後、数年後、突然、債権者から保証人として返済を求められることもあり得ます。
とくに故人が事業をしている場合は、第三者と互いの借入の連帯保証人になり合っていたり、商売上の知人の保証人になっていたり等が考えられますので、事前に聞いておくことが大切です。
不動産に抵当権が付いている
相続手続をするために家や土地の登記簿を取得したら抵当権が設定されていた、ということがあります。
故人が家や土地を担保にお金を借りると、担保となった不動産の登記簿に抵当権が設定されたことが記載されます。
「抵当権設定」「債権額 金〇円」と登記簿に記載されていたら、当該不動産には〇円の担保として抵当権が設定されていることになります。
完済すれば当該抵当権の効力はなくなるので抹消(記録された部分に下線が引かれ、後順位に「抵当権抹消」と記録されます。)されますが、何らかの理由で抹消されずに残っている場合があります。
通常、抹消手続きは所有者側が行うので、手続をせずに放置していることも珍しくありません。
この状態でも特に問題はありませんが、抵当権が付いたままでは売却は難しく、完済しているのであればそれを登記に反映させるためにも抵当権は抹消しておいた方が良いです。
このような抵当権は、完済後10年、20年が経過していても問題なく抹消は可能ですが、長い間放置していてその間に不動産所有者や抵当権者が相続や合併等で変わっていると、ケースによっては抹消する前に相続等の登記が必要になるのでご注意下さい。
いざ売却、という時に慌てて抹消しようとしても必要書類の取得に時間をとられ、スケジュールに影響することもあるので、時間のあるときに余裕をもって抹消手続きをするようにしましょう。
不動産所有者に相続が生じている場合の詳細はこちら。
抵当権者に相続、合併が生じている場合の詳細はこちら。
相続財産に収益物件(アパート、駐車場等)がある
故人がアパートや駐車場等の収益物件を所有していると「所有者が亡くなられた後に生じる賃料」の処置が問題になります。
収益物件を特定の相続人に相続させる旨の遺言書があれば、死亡と同時に当該収益物件は特定相続人が相続するので、死亡後に発生する賃料も特定相続人が取得します。
遺言書が無い場合、遺産分割協議で所有者が決まるまでの賃料は、遺産分割協議の対象にはなりません。
対象にならないということは、賃料は法定相続分に応じて各相続人が取得することになります。
ただし、相続人全員の同意により別の分け方をすることは認められます。
どうして紛争に
仲の良かった家族、親族が相続が原因で疎遠、絶縁関係になってしまうことがあります。
残された家族のための遺産が原因で家族がバラバラになってしまっては、意味がありません。
何が原因で争いになってしまうのか?
争いにしないためにも、原因を知っておくことが大切です。
原因を知った上で、そうならないように事前に対策することで、争いになることを防ぐことができます。
相続人間でもめた場合、長くもめればもめるほど溝も深くなってしまいます。
そうならないうちに、裁判所に調停をお願いすることも一つの解決手段です。
相続人間でもめた場合、長くもめればもめるほど溝も深くなってしまいます。
そうならないうちに、裁判所に調停(遺産分割調停)をお願いすることも一つの解決手段です。
ご自身で行う場合は、司法書士が申立等の書類作成をサポートします。
相続法改正関連
平成の終わりから令和2年にかけて民法の相続法が約40年ぶり改正されました。
残された配偶者を支援する改正等がなされています。
初回のご相談は無料です。
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