抵当権の抹消書類を紛失
金融機関からの借入で担保として不動産に抵当権を設定している場合、借入を完済すると抵当権者である金融機関から抵当権抹消のための書類が送られてきます。
すぐに抹消登記手続きをすれば良いのですが、抵当権は完済で効力を失いますので抹消手続きをしなくても支障をきたすわけではないので手続きを長期間放置される方もおられます。
そして、不動産を売却するために抵当権を抹消しなければいけない状況になって、金融機関から送られてきた書類が見当たらないということなったりします。
書類紛失
この場合、金融機関に再度、必要書類を送付してもらうようにお願いすることになります。
解除証書、委任状は送付されますが、登記識別情報(登記済証)は送付されません。
この書類は法務局から1回限定で抵当権者に交付されるもので、いかなる理由があっても再発行されません。
このため、抹消申請に登記識別情報(登記済証)を提出できないので、「事前通知」か「本人確認情報」で申請をすることになりますが、実務的には事前通知になることが多いです。
「事前通知」は、登記識別情報(登記済証)がないまま申請し、法務局が抵当権者に郵便にて抹消申請したことに間違いないか確認する、という形の申請なので、手続完了までに数週間かかってしまいます。
事前通知制度を利用するには、2つの書面が必要になります。
一つは委任状です。
通常の抹消申請であれば、委任状に実印の押印は必要ありませんが、「事前通知制度」を利用しての申請の委任状には実印が必要になります。
この点は、金融機関も承知しているので、実印が押印された委任状が送られてきます。
もう一つは、印鑑証明書です。
委任状の押印された印が実印であることの証明として、印鑑証明書も添付して提出しなければいけません。
発行後3ヶ月以内の印鑑証明書が必要なので、3ヶ月を経過していれば再度発行をお願いしなくてはいけません。
このように、法務局は登記識別情報がない場合、実印が押印されている委任状と印鑑証明書で申請者が真の抵当権者であることを確認します。
※令和2年より、申請書に法人の会社法人等番号を記載すれば印鑑証明書の提出が不要となりました。
但し、司法書士が申請する場合、委任状に押印された印が実印かどうか分からないので、確認のために印鑑証明書が必要になります。
抵当権者が再編で合併されている
長期間放置していた場合、その間に抵当権者側に変化が生じてしまうケースがあります。
抵当権者である金融機関が消滅するような合併が行われると、抹消する前に抵当権移転登記が必要になります(詳細はこちら)。
また、代表者(委任状に記載されている委任者)が替わっている場合もあります。
手元にある委任状には、抵当権者の代表者としてAの名前になっているが、申請手続きをする時点ではBが代表者になっている場合どうするか?
改めてBの委任状をもらわなければいけないか?、という問題が生じます。
結論から言うと、Bの委任状をもらう必要はなく、Aの委任状で申請は可能です。
登記申請の委任は、委任者が亡くなった場合でも登記申請をすることができるとされています。
代表権がある時に申請手続きを委任した場合、代表権を失った後もその委任(代理権)は消滅しません。
よって、Aの委任状をもとに委任を受けた代理人が抹消申請をすることができます。
ただし、注意すべき点として、申請書に記載する申請者名は、現在の代表者であるBの名前を記すことになります。
Aから委任された申請に関する代理権は消滅しませんが、Aは既に代表者ではないので、申請自体は現在の代表者であるBの名ですることになります。
また、委任者であるAが代表者であったことを証するために、
「登記義務者の代表者Aの代理権限は消滅している。
代理権限を有していた時期は〇年〇月〇日から〇年〇月〇日である。」
というように、Aには過去代表権があったことを示す内容を追記することになります。