未払い残業請求

法定時間外に行った労働時間に対する対価が残業代になります。

では、対象になる「残業時間」とは何か?

就業規則で規定されている始業から終業までを法定労働時間として、この時間との関係から以下の項目が残業時間として考えられます。

  • 始業時間前の労働(早出残業)
  • 休憩を取らずに労働(休憩不取得)
  • 労働時間中の暇な時間(不活動時間)
  • 終業後の労働(居残り残業)
  • 持ち帰り残業(自宅労働)
  • 終業後の待機状態

どのような場合が上記の各残業に該当するかをご説明します。

早出残業

始業時間が9時であれば、通常、前もって出勤してタイムカードを打刻し9時の始業時間に向けて準備をすることは普通でしょう。

では、打刻時間から始業時間の9時までの準備時間は労働時間とみることができるか。

基本的に通常の仕事のための準備時間を労働(早出残業)として残業代支給の対象と認めてもらうことはないでしょう。

しかし、その準備に使用者(会社)が関与していると話は変わってきます。

始業前時間の行為を早出残業と認めさせるには、その行為が使用者の指揮命令下にあったことを立証することになります。

また、行為(業務)をした事実だけでなく、始業時刻前に当該行為をする必要性があったの立証も必要になります。

なかなか難しい立証なので、簡単には認めてもらえないのが実情です。

裁判で認めてもらった例としては、ホテルの部屋の清掃員が始業時間前にロビーやエレベーター、ホテル周辺の清掃をしていたケースで、裁判所はこのような行為を使用者は当然把握していたいえ、黙認して続けさせていた(黙示的な指示)と判断して早出残業と認めました。

休憩時間

労働基準法では、就業時間が6時間を超える場合は最低45分8時間を超える場合は1時間の休憩をとることが規定されています。

対象は、正社員だけでなく契約社員、非正規社員、パート、アルバイトも含まれます。

※6時間以下の場合は、休憩時間を設けなくてもよいとなっています。

休憩時間で問題になるのは、休憩時間でありながら客が来たら接客、電話が鳴れば応対、と労働者にとって真の休憩になっていない、名ばかり休憩のケースです。

法律は、休憩時間について、使用者は労働者が自由に利用できるようにしなければいけないとしています。

休憩時間に関して守られるべき3つ原則があります。

  1. 途中付与の原則
  2. 一斉付与の原則
  3. 自由利用の原則

途中付与の原則

使用者は、労働時間中に休憩時間を与えなければならず、業務開始前や業務終了後に与えるということは認められません。

休憩を取らせることは法律上規定されたものであり、仮に使用者が「労働者が休憩は要らないと言った」と主張しても認められません。

いつ休憩時間を付与するかの決まりはなく、一般的に昼の12時から休憩とするケースが多いですが、11時や13時からとすることも問題ありません。

※労働基準法施行規則第32条では、6時間以上の運行となる長距離運行では休憩を取らなくて良いとされています。列車、船舶、航空機の乗務員等に当該規則が該当します。

一斉付与の原則

休憩時間は、基本的に全ての労働者に一斉に与えなければいけません。

全労働者が同時に休憩をとることが規定されています。

ただし、全労働者の一斉休憩が難しいケースもあるので、運輸交通業、商業、金融、通信業、接客娯楽業、官公署等については、一斉付与は適用されません。

また、以外の業種でも労使協定を結ぶことで交替で休憩(個別休憩)することが認められています。

自由利用の原則

休憩時間は、労働者が自由に利用できるようにされてなければいけません。

休憩時間中は、使用者の指揮命令から完全に解放されていることが必要です。

休憩中に労働者に用事を頼んだり、待機させたりすることは認められません。 

休憩後の業務開始5分前には席に着いておく、という会社のルールは実質的には休憩時間を5分短縮するものであり認められないことになります。

また、休憩時間の電話番や客がきたときに接客をさせられるような場合、労働からの完全解放とは言えないので労働時間として対価の主張が可能になります。

休憩時間を労働者は自由に利用できるのが原則なので休憩時間中の外出等も可能ですが、業務内容等によってはある程度の制限も認められます。

休憩時間中に会社の備品であるパソコンでゲームをするな、という制限も許容されると思われます。

ただし、この原則にも例外があります。

労基法施行規則第33条で定める者(警察官や消防吏員、常勤の消防団員、児童養護・知的障害児等の施設で児童と生活をともにする者等)には適用されません。

管理監督者は対象外

「管理監督者」は、休憩時間に関する規則の対象外になります。

※休憩時間だけでなく労働時間や休日についても通常の労働基準法の制限を受けません。

管理監督者とは、労働条件の決定や経営上の重要業務に関与する立場にある者を指します。

労働時間や休憩、休日の規定が適用されないのは、管理監督者が経営者と一体的な立場であると見なされているからです。

つまり、自分で自分の労働時間等を管理できる立場にあるから適用外となっています。

注意すべき点は、管理監督者=管理職ではありません。

係長や課長という管理職であっても、上長から指示されて自分の裁量で休憩や労働時間を決めることができない場合は、管理監督者には該当しません。

不活動時間

労働の内容には時間帯等によっては濃淡があります。

労務にはついていないが、その時間が労務とは全く関係ないとはいえないような時間を不活動時間と言います。

典型的にものは、深夜勤務における仮眠の時間や緊急時はいつでも労務に就く態勢(自宅待機等)の状態になっている時間になります。

使用者側からの「労働していない」「労働を命じていない」等の主張に対して労働時間として立証していくことになります。

ビルの設備管理、監視業務における24時間勤務(月に数回程度)での仮眠時間で労働時間と認められたケースがあります。

ただし、仮眠時間が必ず労働時間と認められるものではなく、どのような環境・状況であるか(仮眠場所や仮眠中でも緊急対応が求められるか等々)が関係してきます。

終業後の労働(居残り残業)

規定された終業時間後の労働、いわゆる典型的な残業になります。

終業時間後に居残って労働しているのだから残業になるだろう、と思われるかもしれませんが、使用者側からしたら「勝手に残業した」「残業を認めていない・承認していない」「残っているだけで仕事をしてなかった」等々を理由に残業と認めないケースがあります。

残業命令は明示的でなく黙示的でもよいとされていますし、定時内に処理できない業務を抱えていたり等していると残業として認められやすくなります。

残業を承認していない、残業する場合は事前届が必要だが届出がない、等を主張されることもありますが、残業としての労働時間該当性は客観的に判断されるものであり届出がないことをもってのみ残業が否定されうものではないとされています。

持ち帰り残業(自宅労働)

これもよくあるパターンです。

残業が規制され定刻になると上司から「帰れ、帰れ」と急き立てられ、仕方なく仕事を自宅に持ち帰ったりする方も多いでしょう。

また、家事や育児をしながら仕事をするために家に持ち帰る、という方もおられるでしょう。

しかし、自宅への持ち帰り(持ち帰り残業)を労働時間と認めてもらうのは簡単ではありません。

裁判でも認められないケースが多いようです。

この状況を念頭に、持ち帰り残業が必要な場合、あらかじめ上司に承諾を求めたり、家での仕事も職場と同じように開始時間、終了時間をきちんと記録に残して、やった内容を業務日誌のような形で残しておくことで、認められる可能性が出てきます。

また、家で仕事をしているときの上司とのやりとりや報告のメールやラインも記録として残しておくことが重要です。

終業後の待機状態

いつ呼び出しがかかるかわからない、呼び出しがかかったらすぐに対応できるように待機しているような場合、業務をしていない待機時間が労働時間に該当するかが問題になります。

待機時間を労働時間と認めてもらうのも簡単ではありません。

どのような状態、環境で待機をしているか、待機中の行動の自由度合、呼び出しの頻度等々がかかわってきます。

過去に医師の待機時間(オンコール待機)の労働時間を争われた事例がありますが、待機については現場の医師間で行われており院長等の病院自体が把握し指示等をしていたのもではない、として否定されています。

まとめ

ご説明したように残業にもいろいろなパターンがあり、認めてもらうのが難しいものもあれば、しっかり証拠を整えて主張すれば認めてもらうケースもあります。

大事なのは、法的に何かを請求する場合、請求する側が請求内容が正しいことを立証しなければならない、ということです。

やみくもに、自分で計算したらこれだけ残業していたからその分の賃金を払ってくれ、と主張しても認めてもらうことは難しいです。

自分が主張した残業がどのパターンなのか、認めてもらうにはどのような証拠、資料が必要なのかを確認して事前に準備しおくことが重要です。

また、使用者(会社)に未払い残業代を請求することは、会社にとっては好ましい行為ではないので何らかの不利益をもたらされる可能性もあります。

大きな会社ではあからさまことはないかもしれませんが、中小零細、ワンマン企業等では経営者の権力が圧倒的なので厳しい対応をされることも念頭においておく必要があるでしょう。

困った場合は、弁護士や司法書士(140万円以下に限る)に相談することをおススメします。

参考書籍:残業代の法律実務(旬報社)