募集株式の発行

募集株式の発行は、資金調達の目的等で行われます。
新たに発行する株式の、又は会社が保有している株式の引受人を募集し、募集に応じて引き受けの申込をいた人に株式を割当てることを「募集株式の発行」と言います。
募集株式を引き受ける対価として金銭等を払うことで、募集株式の株主になります。
※払込は金銭以外の財産でも可能ですが、ここでは金銭に限定して説明します。

金融機関からの資金調達(借入)には返済、利息の支払いが伴いますが、募集株式の発行には返済も利息支払いもないので、会社にとっては負担を最小限にした資金調達と言えます。

募集株式の発行については会社法で手続き等が規定されていますので、それに従って行う事が必要です。
会社法に規定された手続きを欠く募集株式の発行は、無効となるおそれもあるので注意が必要です。

募集方法

募集方法は2種類あります。
株式を引き受ける人(募集対象)を株主に限定する「株主割当」と限定しない「第三者割当」の方法があります。

「株主割当」(以下「株割」と示します)は、既存の株主を対象にした募集方法です。
既に株主になってくれている人なので、一般の方より引き受けてくれる可能性も高いでしょうし、株主平等の原則に従って保有している株数に応じて株式が割り当てられるので株主構成や株主間の持株比率は変わらず経営的に大きな影響を及ぼすおそれも少ないと言えるでしょう。
※株主に募集株式を引き受ける義務はないので、株主全員が引き受けてくれるとは限りません。引受人が少なければ資金調達計画に支障をきたすことになります。

「第三者割当」(以下「三割」と示します)は、広く一般の方(既存の株主も含む)を対象にした募集方法です。
株主に限定せずより多くの方を対象とするので、大きな資金調達が可能となります。
ただし、多くの人を対象とする分、手続き費用が高くなります。
また、新たな株主が出現することになるので、株主構成、持株比率が変わり経営に影響を及ぼす可能性が出てきます。

募集価格の設定について

募集株式の発行手続きで株主や第三者に交付される株は有償になります。
募集価格について決まった計算方法はないので、各社が独自に決定することになります。

設立して期間があまり経過していない会社であれば、設立時と同じ価格を設定したりします。

株式が上場されている公開会社の三割であれば、市場価格をベース(※1)に会社の資産や業績の予測、発行される募集株式数等々で決めたりします。
証券会社が引受先になるようなケースでは、当該証券会社が算定したりします。

市場価格のない株式については、会社の資産状況、配当状況、発行される募集株式数や会社の業績予測等の事情が総合的に判断(※2)されることになります。

※1:日本証券業協会は上場銘柄の発行会社が行う第三者割当による株式の発行について、「 払込金額は、株式の発行に係る取締役会決議の直前日の価額(直前日における売買がない場合は、当該直前日からさかのぼった直近日の価額)に0.9 を乗じた額以上の価額であること。ただし、直近日又は直前日までの価額又は売買高の状況等を勘案し、当該決議の日から払込金額を決定するために適当な期間(最長6か月)をさかのぼった日から当該決議の直前日までの間の平均の価額に 0.9 を乗じた額以上の価額とすることができる。 」としています。

※2:非公開会社は、配当や収益、資産等をベースにして募集価格を算出(純資産価額方式等)したりします。

募集価格設定の注意点

三割での募集株式の発行では、既存株主との関係で設定価格が問題になることがあります。

例えば、既存株主は1株500円で取得しているのに募集株式の発行額が1株250円に設定されれば、株主としての権利は同等でありならが新株主は既存株主の2分の1の価格で1株を取得できることになり、公正な払込金額ではないと既存株主が不満に思うかもしれません。

募集株式の発行が新株主にとって有利な価格である場合(有利発行)、既存株主への配慮として諸手続きをすることが規定されています。

払込金額が募集株式を引き受ける者に特に有利な金額である場合には、取締役は発行を決議する株主総会において、払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由を説明しなければいけません。
公開会社がする三割の決定は、取締役会で決議できるとされていますが、有利発行の場合の募集事項の決定は株主総会特別決議が必要になり、その総会で理由を説明しなければいけません。

募集株式発行の手順

募集株式の発行は会社法に則って以下の様に手続きを進めていきます。

決定機関

株割や三割をするには、会社として正式な機関による決定が必要です。
代表取締役が独断で行うことはできません。

決定機関は、公開・非公開会社、株割、三割で異なります。

  • 非公開会社・株割⇒株主総会特別決議、ただし、定款にあらかじめ募集事項等は取締役の決定又は取締役会の決議によると定めることができます。
  • 公開会社・株割⇒取締役会決議(※3)
  • 非公開会社・三割⇒株主総会特別決議、ただし、株主総会特別決議で募集事項の決定を取締役又は取締役会に委任(※4)することができます。
  • 公開会社・三割⇒取締役会決議

※複数の種類の株式を発行している会社の募集株式の発行:
株割⇒発行によりある種類の株主に損害を及ぼすおそれがある時は、当該種類株主総会の特別決議が必要(※5)。
三割⇒募集株式が譲渡制限株式の場合、当該種類の株主総会特別決議が必要(※5)。

※3:公開会社は取締役会(3人以上の取締役)を設置しなければいけません。
※4:委任決議の際、募集株式数の上限及び払込金額の下限を定めなければいけません。
※5:定款で決議不要と規定することが可能です。

決定する内容

定められた決定機関で以下の事項を決めます。

  • 募集株式の数(※6)
  • 募集株式の払込金額(1株あたりの払込金額)
  • 払込期日又は期間
  • 株式を新たに発行して募集するときは、増加する資本金及び資本準備金に関する事項(※7)
  • 株主に申込みにより募集株式の割り当てを受ける権利を与える旨(株割のみ)
  • 募集株式の引き受けの申込期日(株割のみ)

※6:会社は発行できる株式総数の上限を「発行可能株式総数」として定款や登記簿に記載しています。新たに募集株式を発行する場合、この上限を超えて発行することはできません。超える場合は、発行する前に上限を変更する決議、登記が必要になります。
※7:払込金額の2分の1以上を資本金に充当しなければいけません。

募集内容の通知(公告)

株割:
基準日(※8)を設定する場合、基準日の2週間前までに内容を公告します(基準日は設定しなくてもよいです)。
募集株式の申込期日の2週間前までに割当て株式数や引き受けの申込期日等を株主に通知(公告不可)します。

※8:株割の対象とする株主を確定する日。

三割:
会社は募集株式の引受けの申込みをしようとする第三者に募集事項の内容等を通知します(※9)。
また、発行しようとする会社が
公開会社で取締役会で募集事項を決めている場合、払込期日の2週間前までに株主に対して募集事項を通知(又は公告)します。
ただし、有利発行に該当し株主総会を開催する場合は、通知(又は公告)は省略できます。

※9:通常、会社と第三者との間で引き受けに関して既に合意されているので、その第三者に通知することになります。

申込み及び割当て

株割:
会社からの通知により募集株式を引き受けようとする株主は、期日内に会社に引き受けの申込みをします。
この申込により、自動的に引受人としての地位を取得することになるので、会社による割当て手続きはありません。

三割:
会社から募集事項の通知を受け、募集株式を引き受けようとする者は、期日内に会社に引き受けの申込みをします。
会社は申込者から募集株式の割当てを受ける人を決め(※10)、その人に割当て数を通知します。

三割では、会社が特定の第三者との間で総数引受契約を締結することがあります。
この場合、申込みや割当て手続きは不要になります。
ただし募集する株式が譲渡制限株式であれば、契約締結にあたり株主総会特別決議(取締役会がある会社は取締役会決議)による承認が必要になります。

また、公開会社がする三割で割当てを受けた引受人が総株主の議決権の過半数を有することになる場合(支配株主の異動)、払込期日・期間の初日の2週間前までに、株主に当該引受人の氏名や取得する議決権数等を通知(又は公告)しなければいけません。

※10:割当てる株式が譲渡制限株式の場合、割当先等は株主総会特別決議(取締役会がある会社は取締役会決議)によって決定します。

出資の履行

引受人は、払込期日・期間内に会社が定めた銀行等に払込金額全額を払込みます。
この払込により募集株式の株主となります。

資本金の計上

会社法の規定により、新たに発行された募集株式に対して払込まれた金額のうち、2分の1以上を資本金として計上しなければいけません。

交付される株式が全て会社が保有する株(自己株式)であれば、資本金が増額することはありません。

登記について

新たに株式を発行して募集株式を行う場合、会社が発行する総株式数が増えるので、登記事項である「発送済株式総数」について変更登記しなければいけません。
また、その場合、資本金も増額されるので「資本金の額」を変更するための登記も必要です。

登記には、必要に応じて各手続きをしたことを証する書面(株主総会議事録、株主リスト、取締役会議事録、募集株式の引受けの申込書等々)の提出が必要になります。

手続、申請は当事務所にご相談、ご依頼下さい。

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